「背中を使う」「背中で走る」言葉だけが先行しないようにして欲しいと思います。

現在イギリスで行われている世界陸上2019、陸上競技は様々なスポーツ競技の中でも、人間の能力そのものを競い合うという意味で、とても興味深くそして大好きな競技です。

今回の大会はイギリスで行われているため時差が大きく、さすがにリアルタイムでテレビ観戦するのは難しいです。

その中でも特に注目していた、ウサインボルト選手の個人種目ラストランとなる100mですが、残念ながら勝利で飾ることは出来ませんでした。

日本から出場した3選手は、ともに予選を突破し準決勝に進みましたが、残念ながら決勝に進むことは出来ませんでした。

今日は陸上選手のことを深く掘り下げることが目的ではありません。

「走るという行為」そして、「背中で走る」という言葉の意味を、またまた考えてみたいと思います。

西本塾や個人指導、また遠隔サポートを通じて私の指導を受けていただいた方々が、最終的に何を身に付けたいのかといえば、やはり「私の提唱している走り方」に尽きると思います。

様々な理屈を並べたて、体の仕組みやその効率的な使い方をどれだけ丁寧に説いても、それらはすべて走るという行為に対しての前座というか、前置きにしか受け取ってもらえません。

その部分の理解が浅いため、学んだことが形に出来ない、やはりこれまでとは違う体の使い方に、習得が難しいと言われることになってしまいます。

そのことについては、最近何度も繰り返し言及していますので今日は触れませんが、ダンスの振り付けを習うような気持ちでは、絶対に身に付かないことだけは何度でも言っておきます。

何故みなさんが、走るという行為を私から学ぼうとするのか、それは走るという行為が人間にとって最も基本となる運動動作だからだと思います。

そして何より、これまで走るという行為が、楽しいとか好きだと胸を張って言えるものではなかったということも大きな原因だと思います。

専門としている陸上競技の選手にして、練習中に楽しいと思って走る余裕はないと思います。

それが他の競技で、体力トレーニングの一環で行わさせられているランニングが、楽しいはずがありません。

物心つかないうちに、人間は歩行動作から走るという動作を身に付けて行きます。

そして周りの人間たちからの評価が始まり、この子は足が速いとか、あまり速く走れるようにはなりそうもないと、レッテルを張られることになります。

さらに運動会の徒競走で、他の子供たちとの相対的な比較で、速い遅いが決められてしまうことになります。

短い距離のダッシュにしても、長距離を走るにしても、大きなエネルギーを必要とします。

とにかく走ることはしんどいのです。

しかし、走れなければ成り立たない競技がたくさんあります、走れることが前提といった方がよいでしょうか。

だから走ることに対して能力の高い選手は、様々な競技で優遇されることになります。

その能力の劣っている選手は、何とか改善したいと努力しますが、その過程というか方法が、とにかくきついことをやる、体をいじめるとか追い込むとかいう言い方をされる、最もやりたくないことをやらなければ改善することは出来ないと思わされています。

今回のマラソン競技に参加した選手たちの練習内容を聞いていても、量より質と言いながらかなりの距離を走り込んでいますし、そのまま量で勝負とばかりに、他の選手に負けない距離をこなしてきたという選手もいました。

結果はまたまた世界には全く歯が立たず、「力が足りませんでした、一からやり直しです」という言葉しか出てきません。

こういうコメントは、今に始まったことではありません。

結果を残せなかった選手は、ほとんどこういうコメントを残していきます。

ではどうすればよいのか、そろそろ答えを見つけることは出来ないのでしょうか。

今回出場した女子の2選手の走法は、その一つの方向性を感じさせるものでした。

私の指導を受けたことのある人たちには分かると思いますが、あの走法は似て非なるもので、けっして私が提唱している走るという行為の体の使い方ではありません。

一言で言えば、まったく背中が使えていません。

10000メートルを制した、男子のモハメド・ファラー選手と、女子のアルマズ・アセナ選手、二人とも圧倒的な強さを見せつけてくれましたが、失礼ながら見た目は似たような選手がたくさんいて、誰が強い選手なのかは判断できません。

何が違うかといえば、やはり骨盤から背骨にかけてのラインがすっと伸びていて、最後まで崩れることがないということです。

これは私が理想とする400mを専門としたマイケルジョンソン選手の走行中の骨盤の反り方にも共通するところです。

私の提唱する走り方のポイントはいくつかあるのですが、この「骨盤が反っている」という部分は、その中でも最重要ポイントとなります。

なぜかと言うと、骨盤と大腿骨のジョイント部分である「股関節」の機能を最大限に発揮させるためです。

これまで走るという行為は、地面を強く蹴ることによって得られる反力を使って、少しでも広いストライドと速いピッチを両立させることが、スピードを得るための絶対条件だとされています。

スタートラインにずらりと並んだ選手たちの体つきを見ると、誰が強い選手なのか、一見してわからないくらい似た様な体系に鍛え上げた選手たちがずらりと並びます。

10000mであれば、最後の直線でのラストスパートまでは誰が勝つのか分からないほど、みんな素晴らしい走りをしていましたが、最後の最後、ここ一番になった時に体の使い方に大きな差が出てしまいました。

体の前側を使って力んでしまい、骨盤の反りがなくなって身体が丸まり、一生懸命腕を振り、膝を引き上げて速く走ろうとしているにもかかわらず、逆に失速してしまっているかのように、トップに抜け出す選手から離れて行くという現実です。

100mや200m、そして400mといったスプリント種目でも同じようなことが起こります。

そうならないために必要なことが、「背中を使う」「背中で走る」という意識なのです。

そのためには背骨が一本の棒状のものだというイメージではなく、仙骨を含め25個の椎骨の集合体であるという意識と、それを使いこなせるようになるためのトレーニングが必要となります。

そこには体づくりの概念はなく、まさに「動きづくり」のトレーニングを行っているという目的意識が必要になります。

この意識がすべての動作の基本となります。

その上で、背骨を動かす、背中を使うという感覚を意識しやすくするのが、「広背筋」を使っているという感覚です。

広背筋の働きによって、背骨を反らせ背骨のS字カーブを意識して感じられるようになります。

骨盤が後上方に引き上げられることで、股関節の自由度が増し、大腿骨が自然に振りだされやすくなります。

体の前側の筋肉が緊張して、骨盤が後傾してしまうと、大腿骨を降り出すために股関節を屈曲させる筋力が必要となるため、無駄なエネルギーを必要とし、それまで保ってきたフォームを崩してしまいます。

サッカー選手を例に出すと、過去何度も他の媒体でも記事にしてきた、メッシ選手やロッベン選手の背番号の下の部分が常に反っていてスムーズに足が振り出されているという事実です。

ただそこに選手個々の個性というか特徴が出てきます。

メッシ選手の場合は、足元にボールが吸い付いたようなドリブルで、何人もに囲まれた狭いスペースを抜けた行くために、腰は反っているけれど背中は少し丸まって見える「反った猫背」と私が名づけた形になっています。

腕の振りも小刻みで、足の細かいステップと同調させています。

対してロッベン選手は、スピードに乗って長い距離を移動することが多いので、腕を伸ばし気味にして前よりも後ろに大きく振って加速するのが特徴です。

背骨を柔らかく使うというよりも、固く力んでいるようにさえ見えます。

しかしどちらも、いわゆる体幹部分を固めて安定させるのではなく、揺らせているのが分かります。

私は両者の背骨の使い方を、棒高跳びに使用する「ポール」に例えて説明しています。

自分にとって何の問題もない高さを飛ぶ際には、それほどのしなりは必要ありませんが、自己記録に近いような高さを飛ぶ時には、剛性の強い硬いポールを使います。

助走のスピードを上げ、硬いポールをしっかりしならせることで、自分の体を高く跳ね上げてもらうのです。

ロッベン選手は、一瞬の隙をついてトップスピードを得るために、背中を固くして安定させ、伸ばした腕を後方に強く速く振ることで、前に進む推進力を得ようとしています。

練習風景を撮影した動画では、相手の目の前で急激なターンを行うために、トップスピードで相手の懐に飛び込み、その瞬間に顔も骨盤も相手の方に向けたまま、お腹の部分、もっと言えばおへそだけを踏み込んだ足の反対側に捻り込むことで、相手にぶつかる寸前に方向を変えるという、誰にも真似のできないような動きの練習をしていました。

背中を使う背中で走ると言っても、その選手が持っている関節の柔らかさと強さが異なるわけですから、基本的な体の使い方を指導しても、みんなが同じ動きになり訳がありません。

形だけを真似して、「これでいいですか」という質問のされ方をする場合がありますが、私が指導しているのは体をどう使うかという意識の部分で、結果としてこうなって欲しいという「振付」を教えているのではないということを、もう一度よく考えてドリルに取り組んでほしいと思います。

「背中を使う」「背中で走る」、安易に使われることが増えてきたように思いますが、とても難しいことですので、しっかり取り組んでほしいと思います。

これを使いこなせるようになれば、どんな競技でも動きを改善することが出来ると思います。

以前に指導した中学生の卓球選手に私が行ったことは、まさに背中を使えるようにしてあげただけです。

昨日も若いサッカー指導者から、個人指導の申し込みがありましたが、私が書いたロッベン選手の記事を読み、「背中で走る」という言葉に興味を持ってくれたそうです。

指導者としての成長と、何より指導している子供たちのために勉強したいとのことでした。

こういう指導者が一人でも増えてくれることが、サッカーの未来を明るくしてくれるのだと思います。


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プロフィール

Author:西本 直
1993年、Jリーグサンフレッチェ広島を皮切りに、社会人野球三菱重工広島・協和発酵・ヴィッセル神戸・川崎フロンターレ、そして広島カープ佐々岡真司投手など、プロアマ問わず競技レベルのスポーツ選手から一般の方まで、トレーニングやメンテナンスの指導を行ってきました。
その経験と知識の蓄積を「西本理論」としてまとめ、一人でも多くの方に実践していただくことが、これからの私の使命であると信じ、このブログから発信していきます。
私の理論はスポーツ選手のみを対象としたものではなく、ビジネスマンや家庭の主婦まで老若男女すべてに当てはまる不変のものです。
指導や講演のご依頼も受け付けています。
実名でツイッターも書いていますので、チェックしてみてください。
また、2013年9月9日にConditioning Studio 操をオープンしました。こちらもご覧ください。
また、遠隔地にお住まいの方を対象とした動き分析とアドバイスを行っています。
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