言葉の力 限界と可能性

昨日の朝から夕方にかけて、ここ「スタジオ操」にスポーツライターの木崎伸也さんが訪ねてきてくれました。

彼はつい数日前まで、本田選手を追って、取材のためロシアからヨーロッパを5週間ほど出張中だったため、先週行った「西本塾」に参加できず、帰ってきてから参加していただいた方々の感想をこのブログで読んで、皆さんが感じた不思議な感覚を、どうしても自分も知りたいという、スポーツライターとしての本能が彼の足を広島に向かわせたのだと思います。

実は1回目にも参加を希望してくれていましたが、その時にも海外出張が重なり参加することができなかったのです。

まさにサッカー取材の最前線にいる気鋭のライターさんが、なぜか私に興味を持ってくれ、ここに来てもらうのも、もう3回目となりました。

今回は特に、「歩きから走りへの移行・体の使い方」という、多分まったく聞いたことのない、体の使い方を、実技を含めて指導したので、特にそのことに関する参加者の感想に、とても興味を持ってくれたようでした。

録画してあったビデオを見ながら、説明を聞いてはいるが、まったくイメージがわかないといった表情の参加者の様子を見ながら、私の説明に聞き入っても、やはり彼も反応は同じでした。

そして実際に外に出て実技が始まり、何をどうしろと言われているのかまったく分からないまま、はた目にはなんとも奇妙な動きを繰り返していた皆さんが、時間の経過とともに表情が変わり動きが変わり、スムーズに楽そうに走る姿に変わって行く様子を見ても、見ているだけでは全く理解不能の状況が続いているのです。

ひとしきり説明を終えて、じゃ実際に走ってみようかと声を掛けた時、彼のライター魂がそれを拒否しました。

もしこの感覚を文字で伝えるとしたら、自分もやってみて分かったことを文字にしたのでは、私の指導を受けることができない大多数の読者には、この感覚を伝えることができないから、私の伝えたい感覚をもっと言葉に落とし込んでくれというのです。

言われてみればもっともな話です、それを文字で伝えるのがライターの仕事ですから。

しかし文字で言葉で説明するということは、過去に経験した感覚や一般的に知られている何かの感覚に似ているとか近いとか、そういう説明にしかならないと思うのです。

私には分かるけれど他の人には分からない、私はできるけれど他の人にはできない、それでは全く意味をなしません。

しかしその感覚が、本当に過去に経験したことのないものであるならば、いくら豊富なボキャブラリーを持っているライターであっても、それを正確に伝えることは不可能なのです。

そういうやりとりがあって、実際に歩くから走りへの実技を指導しました。

最初は1週間前の参加者の皆さんと同じです、まったく言われているイメージを自分の体が表現できないのです。

これはまさに既成概念や固定観念と呼ばれる、体の使い方の常識とは明らかに違う動作だからです。

それが段階を追ったドリルで、少しずつ動きが変化し、それを頭が認識できるようになってくると、劇的に動きが変わってしまうのです。

どちらが正しいとか間違っているとかいうことは、あえて私の口からは言いません。

地面を強く蹴って地面の反力をもらい、肘を曲げ伸ばしすることが腕を振ることだと信じこまされてきた人間にとっては、まったく正反対で、地面を蹴っている感覚はほとんどない、腕も振る必要はないと言われているにもかかわらず、現実に自分の体は羽が生えたように軽く、風を切って進んで行くうえに、止まった時に感じるはずの疲労感がほとんどなく、加えられた注意事項もそこそこに、すぐにでも次の一本を走り出したくなる。

「なんなんだこの感覚は」ということになって行くのです。

言葉で書けば書くほど、読み手にとって意味不明で、ある意味怪しい事、ありもしないこと、できもしないことを書き並べて大風呂敷を広げているとしか思われないと思うのです。

悪いけれど文字や言葉に表すことのできない世界が、今目の前にあることを分かって欲しかったのです。

私には見えているけれど他の人には見えていないことがあるという事実に、やっとこの歳で気づかされましたが、私に見えているものを一緒に見てもらう方法は、私が直接形として見えるものになって、ほらねこうでしょう、とやって見せるしか今のところ方法がないのです。

グルメレポーターが美味しさを表現する時に、けっきょく頼る言葉は、「何とかみたい・何とかに似てる」的な表現しかできないのです、というよりそう言わないと見ている人がイメージできないからです。

人間の動きにはまだまだ可能性があります。

自分がやったことがなくて、頭も体も納得できないからやろうと思わない、それもいいでしょう。

ただ現実に私のような普通の人間が、動きの意識を変えるだけでこんな動きができますよ、こんなに楽に走れますよと、いう動きを見たら、自分もやってみようと思わない方がおかしいような気がするのですがいかがでしょう。

あるチームのコーチが、今月に入って何度かここを訪れてくれています。

彼の現役生活最終年に縁があって指導させてもらいましたが、立場を変えコーチとして、改めて体のことを知りたいと今朝も一緒に汗をかいたところです。

現役当時は、やはり自分のことで精一杯で、私の話もすべてはいそうですかとは聞いてもらえないところもありましたが、指導者となった今、たくさんの選手の動きの悪いところ欠点は見えるが、それをどうやって修正して行くかという壁に当たり、もう一度私のところでやり直してみようと思ってくれたようです。

選手から指導者になって、「この分野は西本さんお願いします」と下駄を預けられることはあっても、自分の体でもう一度感じ直したいと言われたのは初めての経験で、これはすごい指導者になるなと、広島市民として近い将来に大きな楽しみができました。

彼もやはり、走るという動作でこんな感覚は初めてだと驚き、この動きを自分の仕事に応用できたらと頭の中はすでに動き出しているようでした。

「言葉では伝えられないもの、何かに例えることができない感覚」、まだまだたくさんあると思います。

私はそれを見つけ自分の感覚として確実に認識し、人に伝えられるようになりたい、今はそう思っています。

木崎さんが感じた『足指もみ』を受けている時の感覚も全く同じです。

「言葉の説明はいらない、とにかくこんな感覚は味わったことがない、それぐらい気持ちよかった」これ以上の褒め言葉はありませんし、これ以上的確な説明もないと思います。

「その力を貸して欲しい、このチームのために発揮して欲しい」そんな私に対するオファーはもうないのでしょうか。
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プロフィール

Author:西本 直
1993年、Jリーグサンフレッチェ広島を皮切りに、社会人野球三菱重工広島・協和発酵・ヴィッセル神戸・川崎フロンターレ、そして広島カープ佐々岡真司投手など、プロアマ問わず競技レベルのスポーツ選手から一般の方まで、トレーニングやメンテナンスの指導を行ってきました。
その経験と知識の蓄積を「西本理論」としてまとめ、一人でも多くの方に実践していただくことが、これからの私の使命であると信じ、このブログから発信していきます。
私の理論はスポーツ選手のみを対象としたものではなく、ビジネスマンや家庭の主婦まで老若男女すべてに当てはまる不変のものです。
指導や講演のご依頼も受け付けています。
実名でツイッターも書いていますので、チェックしてみてください。
また、2013年9月9日にConditioning Studio 操をオープンしました。こちらもご覧ください。
また、遠隔地にお住まいの方を対象とした動き分析とアドバイスを行っています。
詳細は「スタジオ操」のホームページ内の「遠隔サポート」をご覧ください。
今年2回目の西本塾を8月26・27の土日に開催を予定しています。
詳細はstudio操のホームページ内の「講習会情報」をご覧ください。
なお、今回も参加者が5名に満たない場合は開催しません。
9月10日には深める会も予定しています。

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