何のために走るのか

毎日寒い日が続いています。

私が住む広島市内、なかでも瀬戸内海のそのまた内海の、港にに近いこの辺りは、市内で雪が降っているというニュースが流れても、え、この辺は降ってませんけどというくらい温暖なところです。

それでも風は冷たく外を歩くのにはそれなりの格好をしなければなりませんが、テレビで見る雪国の様子を見るたびに、申し訳ないですが、こういう所では生活できないだろうなと思ってしまいます。

現在、長男家族が秋田で生活していますが、初めて迎える北国での本格的な冬に戸惑っているようです。

寒い時期に限ったことではありませんが、窓から見える川沿いの遊歩道をジョギングする人の姿が絶えません。

それぞれ目標があってのことだとは思いますが、さすがにニコニコ笑顔で走っている人は見たことがありません。

スポーツの世界でも、これからシーズンに向けての体力づくりという時期には、必ずこの走るということがトレーニングの中心に据えられます。

その光景はまさに「根性」の世界です。

決められた時間か距離を、ただひたすら走るのです。

そこに理屈はありません、与えられたメニューをこなすことで、スタミナとか持久力と言われる能力が、強化されると信じて疑わないのが、選手と指導者の暗黙の約束事になっています。

はたして本当にそうでしょうか。

たとえば5000mの記録が一番早い人が、サッカーの試合で90分間をフルに走りきる能力が一番優れているのでしょうか。

最大酸素摂取量という科学的な指標が一番の選手が、同じように優れた結果を残せるのでしょうか。

サッカーという、いかにも長時間走り続けていると思われているような競技でも、そんな単純な話ではありません。

私が初めてチーム全体のトレーニングを指導したのは、1994年の広島が前期優勝した年の、休み明けのトレーニングでした。

当時のバクスター監督の来日までの期間の指導を任され、私なりにいろいろな工夫をして初日を迎えました。

まず考えたのは、全員に同じスピードで走ることを要求しても意味がないということでした。

前もって3つのグループに分け、そのグループから脱落しないように走ることを要求しました。

それぞれのグループに400メートルトラック1週の設定タイムを決めて、まとまって走るのです。

全員一緒だと、遅いと分かっている選手は初めから諦めてしまいます、そうならないようにこのタイムならクリアしてもらわなければ話にならないとはっぱをかけ、手を抜かさないようにしたのです。

もちろんAグループの能力は高く、設定タイム以上で走れる選手もいましたが、ならばいかに正確に走れるかを求めたのです。

それぞれのレベルアップを図らなければチームとしての向上は望めませんから。

Bに分けられた選手は、翌日のメニューでAで走りたいと言ってくるし、Cの選手も同じようにBで走れると言ってきました。

これが本当の意味での競争だと思います、できないことを要求するのではなく、目の前のハードルを少しずつ上げていけばいいのです。

まったく初めての経験でしたが、プロという組織の選手たちのプライドをうまく利用したやり方だったのかなと思います。

その頃にはまだ、走り方に対する指導はしていませんでした。

それが昨年久しぶりにサッカーのチームで指導をすることになり、真っ先に考えたことが、サッカー選手にとって走るということはどういうことなのかということでした。

このブログで何度か触れてきましたが、スタートからゴールまでが決まっていて、そのタイムを競うのは陸上競技だけです。

他の種目はすべて、今いる場所からある地点まで走ろうとスタートしたけれど、途中で方向が変わったり、スピードを変化させたり、なにより走ることが目的ではなく、体や道具を使ってそれぞれの目的に合わせた、アクションを起こさなければならないのです。

そいうい意味でも、走ることそのものが目的になるトレーニングは、本当に意味があるのだろうかと考えました。

まずは動くという行為そのものに対する体の使い方を身に付けてもらわなければなりません。

色々な道具を使ってコースを設定したりしますが、そのスピードを競わせるのではなく、その動きを正確に身に付けてもらうのです。

それでも種目間のインターバルや、回数を工夫することで、知らず知らずのうちに心拍数は上がり、筋肉は疲労します。

気付かないうちに、素走りのトレーニング以上に心肺機能や筋持久力も高めることができるのです。

加えて、動きそのものを良くするトレーニングを行っているのですから、私の提唱する「体作りから動き作りへ」と同じ意味で、たんなる持久力から、「質の高い動きを続けることができる持久力」の獲得を目指したのです。

さらに、単純に走るという動作に対しても、無駄のない疲労しにくい走り方を指導することで、本来目指さなければならないサッカー選手としての能力アップと、チームとしてのレベルアップにつなげようという考え方でした。

神戸時代にバクスター監督から言われた言葉ですが、「サッカー選手はボールさえ与えておけばいつまででも走っていられる、そのかわり素走りは50メートルでも嫌がる」というものでした。

当たり前と言えば当たり前です、ボールを追っかけボールを蹴ることが好きなのですから、それを利用してボールを使いながらのトレーニングなら、彼らは喜んでやってくれました。

その効果で、体がフィットしてきたのと同時にボールも足になじんできたという感想が聞かれました。

他のチームがひたすら走ることを要求され、下半身の痛みを訴える選手が多い中、順調に調整を進めていけたのはそういう理由だったと思います。

短い期間でしたので、評価を受けるところまで浸透してはいないかもしれませんが、私の考え方はそういうことでした。

その割にはスタートダッシュでつまづいてしまいましたが、私としてはトレーニングの効果に対しての手ごたえは十分感じていましたので、これからもこの考え方に関しては変える必要はないと思っています。

その走り方そのものに関しては、「第二回の西本塾」で直接参加者の皆さんに、実技として指導させていただきましたが、想像以上に反応がよく、約1時間の指導で、ほとんどの人が「頑張らない頑張り方」、今までの感覚とは違う「頑張ってないのに走れてしまう、数十メートルとはいえ、ある程度のスピードで走ったはずなのになぜか疲れを感じない」という、不思議な体験をしていただけたようでした。

走ることは苦しいこと、自分の体重以上の力を用いて地面を蹴り、その反力をもらって前に進む、腿を高く引き上げ股関節を屈曲させることでストライドを伸ばす、ただこのことで振りだした足が実は重心の前に来るため、着地の瞬間にブレーキがかかる、そこからさらに地面を蹴ってという作業が続くため、筋肉は相当なダメージを受けることになります。

それに耐えるためには、しっかり走りこんでへこたれない筋肉を作るのだ、そうやってみんな頑張ってきたのです、もちろん私もその一人でした。

もっと早くこの考え方に自信を持って指導していれば、ただ苦しい思いをしなくて済んだ選手もたくさんいたことでしょう、そういう意味ではごめんなさいとしか言いようがありませんが。

「強く地面を蹴らない、太腿を振り上げない、肘を曲げ伸ばしするような腕振りはせず、重心が前に移動したことで、広背筋の収縮に任せて骨盤は引き上げられ、上腕部は後ろに引かれる感覚だけ、骨盤はできるだけ前後に捩じらず、股関節の上下動に任せて起こった骨盤のローリングで足が振りだされることが走るということ」

言葉で書くとこんな感じですが、間違いなく直接指導を受けた人以外で、この動きがイメージできる人はいないと思います。

西本塾の講義でも、この説明をしている時の皆さんの表情が一番難しい顔をしていました。

まるでどういうことになるのか分からないという表情でした。

それが外で実技を行い、1時間後には全員の表情が一変しました。

「こんな感覚は初めてだ、走るってこれでいいの」みなさん同じ感想です。

走ることは苦しいこと、だから罰として与えられるのは、試合に負けたから学校まで走って帰れだとか、グランド何周、そんな発想になるのでしょうね。

走ることが楽ちんで楽しいなんて言われたら、そういう指導者はどうすればいいのでしょう、苦しくなるまでとにかく走れということになるのでしょうか。

「人はなぜ走るのか、走らなければならないのか」、スポーツにおいての走るという行為の持つ意味、もう一度考えてみてはいかがでしょうか。
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Comment

Re: No title
コメントありがとうございます。
良いもの自分にとって役に立つものを見分ける能力は、大人よりも子供の方が優れていると思います。
しっかり身につけて、周りの人を驚かせてください。
  • 2014-01-17│09:13 |
  • 西本 直 URL│
  • [edit]
No title
年末に息子に上記走り方をご指導していただきました。
最初はなかなかこれまでのしみついた走り方が抜けませんでしたが、数回走ると、理解できたようで、疲れ方やスピードの違いもすぐに感じることができ息子も本当に感動していました。
今もサッカーの練習や鬼ごっこでも?!この走り方を実践しています。先日の試合でも以前は後半の最後のほうはへとへとになっていたのですが、今回はかなり余裕があったようです。後半途中ボールに寄せるときもスピードが落ちていないように感じました。
たった数分の指導で身に着くように、身体の仕組みから、動きの説明、見本、実践まで、小学生にもわかりやすく指導していただけたことに感動しました。

私自身は「3分間の寝たまま操体法」を実践しているのですが、股関節の動きがとてもスムーズになって、体重移動すると自然と足が前に振り出されるような気がして、楽に歩けるようになりました。息子はなかなかやってくれないのですが、実践してけば、走り方にもかなり好影響を与えてくれるのではと期待しています。
Re: まだまだデス…。
相手には常に背骨の動きを意識してもらうといいと思います。こちらの抵抗もいきなり100%ではなく、動きにあわせる必要があります。足先から背骨に動きが伝わるのを感じてもらい、それがわかったときが連動のマックスだと思って、抵抗も強めていきます。練習しかありません。頑張ってください。
  • 2014-01-13│21:07 |
  • 西本 直 URL│
  • [edit]
まだまだデス…。
西本塾から、約1ヶ月経ちました。いろいろ悩みながらも、人様に提供できる様、試行錯誤しております。
今日も子供と近くの公園で肩揺らしながら、走っていました。伝える事の難しいさを痛感しつつも、自分の練習と思い頑張ってます。
オクタントトレも、患者さんで話が合ったフットサルプレイヤーに、練習台になってもらって練習中です。
そこで、質問なんですが、今は、足関節からしてますが、なかなか全身の連動という感じになりません。
私の抵抗が、弱すぎるのか、相手への指示のタイミングが悪いのか…。
相手には、全力で抵抗してもらうので、よろしいんでしょうか?又、勉強不足ですが、連動は人それぞれ違うものなんでしょうか。それとも決まったパターンがあるんでしょうか?低次元の質問ですみませんが、ヒントを頂けたら幸いです。
  • 2014-01-13│20:37 |
  • 神野慎哉 URL│
  • [edit]

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プロフィール

Author:西本 直
1993年、Jリーグサンフレッチェ広島を皮切りに、社会人野球三菱重工広島・協和発酵・ヴィッセル神戸・川崎フロンターレ、そして広島カープ佐々岡真司投手など、プロアマ問わず競技レベルのスポーツ選手から一般の方まで、トレーニングやメンテナンスの指導を行ってきました。
その経験と知識の蓄積を「西本理論」としてまとめ、一人でも多くの方に実践していただくことが、これからの私の使命であると信じ、このブログから発信していきます。
私の理論はスポーツ選手のみを対象としたものではなく、ビジネスマンや家庭の主婦まで老若男女すべてに当てはまる不変のものです。
指導や講演のご依頼も受け付けています。
実名でツイッターも書いていますので、チェックしてみてください。
また、2013年9月9日にConditioning Studio 操をオープンしました。こちらもご覧ください。
また、遠隔地にお住まいの方を対象とした動き分析とアドバイスを行っています。
詳細は「スタジオ操」のホームページ内の「遠隔サポート」をご覧ください。
今年2回目の西本塾を8月26・27の土日に開催を予定しています。
詳細はstudio操のホームページ内の「講習会情報」をご覧ください。
なお、今回も参加者が5名に満たない場合は開催しません。
9月10日には深める会も予定しています。

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