スポーツの醍醐味

先ほどまでNHKのクローズアップ現代を見ていました。

ドーピングの問題です。

トレーナーとして最低限の知識はありましたが、実際ドーピングを行っていた選手の生々しい話を聞くと、それほどまでに効果があるのかと驚くと同時に、スポーツがビジネスになってしまっているという、コメンテーターの方の言葉がすべてを表しているような気がしました。

地球上には今この瞬間にも、食べることさえままならず命を失わなければならない状況の人がたくさんいます。

それが、言葉は悪いですがスポーツに秀でているというだけで、年間に何千万、いや何億、何十億円というお金を手にする人たちがいます。

そしてほとんどの場合、選手を取り囲む様々な立場の人が、そのお金の一部を収入源にしています。

ビジネスだって同じだ、勝つか負けるか、勝ったものが富を得て何が悪い、そうかもしれません。

一流になるためにはそれ相応の犠牲を払い、大きな努力を積み重ねてきたことは間違いありませんから。

それがあと一歩、あと半歩に近づいたとき、禁止されていると分かっていても、そういうものに頼ってしまうのが人間の弱さなのかもしれません。

過去にも有名な選手たちが、ドーピングを認めたことで記録も名誉も失うことになりました。

それ以上に自らの体に異常をきたしてしまっていることが多く、不幸な結果を招いてきたことも事実です。

スポーツには様々な種目があります。

人間それぞれ持って生まれた能力があり、それを最も生かせる競技に出会い、選手としての成功を収めるための最善の努力をする、基本的にはこれしかないと思います。

そのためには本当の意味で選手を育てる環境が必要となります。

先日、あるクラブで昨年までトレーナーを務めていた人と話をしたとき、彼の口から出た言葉が印象的でした。

「クラブがそして選手が求めるトレーナーという存在は、選手のコンディションの下支えをする人、選手とのコミュニケーションをとれると言うと聞こえがいいですが、しっかりマッサージして選手に気に入られることが、組織に長く居られる秘訣でした」という言葉でした。

彼にとっての理想のトレーナー像はもっと違う所にあったと思います。

私もまったく同じです、それが良いトレーナーの条件として一番大きな要素なら、私はトレーナーと呼ばれることを拒否します。

自分が関わったからには、その選手を、そしてチームを強くしたい、下支えではなく、能力を向上させる手助けをしたいと思ってやってきました。

それは監督やコーチの仕事だと言われるでしょうが、そういう立場での人間とは違うアプローチの仕方があるのです。

だから、最初にきちんと話し合いをして、自分が行う仕事を明確にしておかなければなりませんが、今、私がやろうとしているようなことは、少なくとも過去にはそういう人間がいなかったのですから、共通の理解ができるのは難しい話となります。

彼も、もっともっと色々なことでクラブのために力を発揮したかったのでしょう。

「今の日本の現状では、プロのクラブでの仕事にはもう魅力を感じません」、と淋しそうに話していました。

これからトレーナーを目指す人たちは、自分が何をしたいのか、また与えられた環境で自分でやりたい仕事ができるのか、現実は甘くはありません。

もちろん前述したような立場で満足できるのなら、そういう選択肢もありでしょう。

大きなことを言いますが、日本人でも世界で戦える能力を持っていると思います。

それを形にするためのトレーニングや体の使い方を研究し、正しく伝えることができるようになったら、それを生かした仕事をさせてくれる環境で、思う存分力を発揮したい、そう思ってトレーナーを目指してほしいと思います。

ただそういう能力を正当に評価できる個人や組織は、今のところどれだけあるのか、私には分かりません。

選手の立場からしても、自分でできる範囲の努力はし尽している、だからその能力を発揮できるように、コンディションを整えてほしい、それもある意味正しいでしょう、それがたんにマッサージをしてもらうことではちょっと淋しすぎますが。

自分はもっと違う能力があるのではないか、その能力を開発するためにはどんなトレーニングをし、どんな体の使い方をしたらいいのだろう、そういう発想をもっともっと大きくふくらませてほしいのです。

その時こそが私の出番であり、私と同じ感覚を共有してくれる仲間の存在なのです。

勝つために選手は駒の一つにしか過ぎない、ダメならほかの駒と取り換える、個人を守ってくれているようで、結局は守っているのは組織の方だと思います。

スポーツには結果がはっきり出るという残酷な部分もあります。

だからこそ最善の努力をしなければなりません、結果が出なければ、努力の過程などだれも評価してくれませんが、努力の方法論はまだまだ改善の余地があると思うのです。

私個人の小さな積み重ねにすぎないかもしれませんが、本気になった選手にはちゃんと伝わってきました。

逆に中途半端な気持ちで取り組んだ選手は、まったく伝わらず結果に結びつくはずもありませんでした。

自分ではない誰かの肉体を借りて、未知の能力を開発し、それぞれの競技で一流の動きを作っていく。

これから先、どれくらいそのチャンスが与えられるか分かりませんが、私の野次馬根性が消えるまで、人の動きを追っていきたいと思います。

もうすぐ冬季オリンピックソチ大会が行われます。

高い所が全くダメな私にとって、スキーのジャンプ競技というのは想像もできない競技ですが、女子の高梨沙羅選手のフォームに関してとても興味を持って見ています。

元選手の解説を聞いていると、男女を通して現在最も理想的な飛行姿勢だそうです。

ジャンプ台から離れた瞬間、誰よりも早く飛行姿勢に入れることが、同じジャンプ台で同じ位置からスタートしても、男子選手よりも遠くへ飛べる原因だそうです。

小学生のころからテレビで、お父さんの指導を受けるところを見てきましたが、まさに動き作りのトレーニングでした。

表彰台の真ん中に立っても、両サイドの選手の方が背が高く見えるような小柄な彼女が、誰よりも遠くまで飛んで行ける、これこそスポーツの醍醐味ではないでしょうか。

さらに素晴らしいのは、インタビューの時の受け答えがしっかりしていて、人間として女性として、良い育ち方をしているなというのが伝わってくることです。

様々な世界で、子供の頃から英才教育が行われています。

親御さんは、なんとか我が子を一流にと、できる限りの愛情とお金をかけていることでしょう。

それをとやかく言う筋合いではありませんが、一言これだけは忘れないでほしいと思います。

一流になろうと超一流になろうと、普通の選手で終わろうと、途中で挫折してしまおうと、スポーツ選手であるということは、人間として生きていく中でほんの一面でしかありません。

昔、巨人・大鵬・卵焼きと言われた時代に、畑仕事をしていたお婆ちゃんが、何かのインタビューでテレビに映ったとき、大鵬という大横綱の存在を知らないと答えていたのを子供の頃見て、とても驚いた記憶があります。

日本中が熱狂したとか、日本人のすべてが応援しているなどと言う表現がありますが、知らない人もたくさんいるのです。

何十億円稼いでいる超一流選手であったとしても、自分の畑で草むしりをしているお婆ちゃんの前では、ただの若造でしかないのです。

だからこそ、きちんと挨拶ができて相手の目を見て話ができる、人として最低限のことはしっかり身につけさせてあげて欲しいと思います。

代表キャプテンの長谷部選手がこんなことを言っていたのを何かで見ました、「普通のおじさんが道路で汗びっしょりかきながら交通整理をしている姿に感動する」そんな感性を持ち続けているからこそ、人がついてくる立場を任されているのではないでしょうか。
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操体法、オクタントトレーニングの質問
西本さん、西本塾では大変お世話になりました。
シアトルではアメリカ人の子供達に理解・イメージし易いように「スネークムーブ」(こんにゃくの様にと言って理解されませんので・・・)といいながら走りや動き作り行っていますが、特に年齢が低い8・9歳の選手達の動きは大きな進化が見られています。

今回のブログにあまり関係がありませんが、操体法とオクタントトレーニングについて質問をさせて下さい。
指導しているU15のサッカー選手が先週の土曜日の練習試合で左足のtibia/脛骨にヒビが入り、現在は簡易のプレート(そえ木)で固定してあります。私としても西本さん同様身体を動かしながら直し、復帰する方がベターだと思っていますが、ヒビが入っている選手に対しての操体法やオクタントトレーニングを行なう上での注意点等がありましたら、教えて頂けませんでしょうか?よろしくお願いします。
  • 2014-01-22│07:26 |
  • 木下 桂 URL│
  • [edit]
No title
くだらない私のコメントに丁寧に返信していただきましてありがとうございました。すこしすっきりしました。
  • 2014-01-21│13:10 |
  • ao URL│
  • [edit]
Re: No title
コメントありがとうございます。
確かに仰る通りです。
これまでの日本のスポーツは、学校体育と企業の広告塔としての側面が強く、プレーヤーも指導者もそれに応えることが第一義となっていました。
長距離選手が、マラソンを意識したトレーニングをしたくても、テレビに長く映る駅伝を優先せざるを得ない、などということが一つの例です。
他のスポーツでも、はなから外国との差を意識してしまい、まずは国内という流れになっていたのだと思います。
それがサッカーをはじめ、多くの競技でたくさんの選手が海外で活躍する様子が報道され、やっと広い視野でスポーツを見ることが出来るようになってきたと思います。
選手の側からも指導者からも、そして見ている我々からも、世界に追いつけ追い越せ、などという言葉が死語になる日が早く来るといいですね。
  • 2014-01-21│12:45 |
  • 西本 直 URL│
  • [edit]
No title
世界と戦う、世界に追いつくというフレーズに最近違和感を感じます。
私もサッカーをしておりましたので無意識に使っていましたが、世界とはなんなのでしょうか・・・?
  • 2014-01-21│12:10 |
  • ao URL│
  • [edit]

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プロフィール

Author:西本 直
1993年、Jリーグサンフレッチェ広島を皮切りに、社会人野球三菱重工広島・協和発酵・ヴィッセル神戸・川崎フロンターレ、そして広島カープ佐々岡真司投手など、プロアマ問わず競技レベルのスポーツ選手から一般の方まで、トレーニングやメンテナンスの指導を行ってきました。
その経験と知識の蓄積を「西本理論」としてまとめ、一人でも多くの方に実践していただくことが、これからの私の使命であると信じ、このブログから発信していきます。
私の理論はスポーツ選手のみを対象としたものではなく、ビジネスマンや家庭の主婦まで老若男女すべてに当てはまる不変のものです。
指導や講演のご依頼も受け付けています。
実名でツイッターも書いていますので、チェックしてみてください。
また、2013年9月9日にConditioning Studio 操をオープンしました。こちらもご覧ください。
また、遠隔地にお住まいの方を対象とした動き分析とアドバイスを行っています。
詳細は「スタジオ操」のホームページ内の「遠隔サポート」をご覧ください。

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