指導する側される側

なんだかんだと私も長くこの仕事を続けてきました。

プロと呼ばれる立場の選手から、一般の方までたくさんの方々と接する機会をいただいてきました。

そうして経験の中で、自分なりに目の前にいる人間の将来が、ある程度予測出来るというか見えてしまうような気がして、ついつい本人からしたら言われたくないことを、たくさん言ってきたかもしれません。

先日、現役時代、努力努力で一流の選手に上り詰め、現在は指導者となっている、ある人物とゆっくり話をする機会がありました。

彼とは現役の最晩年に縁があり、トレーニングの指導や腰痛のケアをさせてもらいました。

その時は現役選手ですから、自分のことで精一杯ですし、プロ選手としての長い経験が邪魔をして、私の指導を素直に受け入れることは難しかったと思います。

それが引退しコーチとなってから、改めて体そのものに対する意識が変わり、自分の経験だけでは指導者として足りない部分があると気付き、改めて私の元を訪れてくれました。

驚いたことに、言葉ではなく自分の体で体験したいと、現役時代以上に真剣にトレーニングに通ってくれました。

最初は、私がどうしてこんなことを考えたのか、また競技者として何の実績もない私に、なぜそんなことがわかるのだろう、きっと何処かの誰かに指導を受けたに違いないと思っていたようでした。

それが、本当の意味で体というものを深く知ろうと試行錯誤して行く中で、野球のためでもサッカーのためでもゴルフのためでもない、人間としてこういう風に体を使うことが、大切な体を労わりつつも、自分のやりたいことを実現してくれる唯一の方法であるという結論になったことを、少しずつ理解してくれたようでした。

私がトレーニングを指導する時も、操体法を応用して体のケアをする際にも、ある程度人間関係ができた人には使ってしまう言葉なのですが、こんな言い方をしてしまうことがあります、「頭の悪いやつはダメ」という言葉です。

きれいな言葉でないことはもちろん分かっていますが、人の言うことを理解しようとせず、言われたことだけやっているような選手が伸びるわけはありませんし、ケアを受けている時も、自分の体と向き合おうとせず、まったく人任せな態度では、良くなるものも良くなりません。

相手の言葉にしっかり耳を傾け、意図していることを理解しようと努力する、分からなければ質問をし、納得して継続しなければ結果など出るはずはありません。

体のことは、まず自分の体の言い分に耳を傾け、今どういう状態で、どこがどう不都合だと訴えかけているのか、それを改善するための道筋に対して、体はどう対応してくれているのか、本当に分かるのは自分だけなのに、その努力をしようとせず、人任せな態度では救いがありません。

改善できたと思っても、そういう考え方で使われる体は、すぐにまた同じ状況に逆戻りしてしまうのは目に見えていますから。

だからこそあえて「頭の悪いやつはダメ」と、自分で考えることを要求しているのです。

何度か通ってきてくれている間に、彼はしっかりと私の考え方を理解し吸収してくれました。

その結果、トレーニングの質が全く違うものになっていきました。

私のトレーニングの効果判定は、重量が増えたことでも回数が増えたことでもありません、「動きの質」です。

これは残念ながら言葉で説明することはできません、私とトレーニングを継続してくれた人間だけが共有できる 、なるほどそういうことだったのかという動きに対する感覚の変化です。

いつも思うことですが、こうして回数を重ねれば、よほどの人間でなければ必ず理解できる感覚だと思います。

ただこれまで関わってきた選手たちの多くは、それぞれのスポーツで良くも悪くも経験を重ね、聞く耳を持てるような年齢になった選手ばかりでした。

若手のバリバリで、勢いだけでやっている選手にとっては、口うるさい理屈ばかりを並べる煙たい存在に思われたのかもしれません。

そういう選手たちにこそ、早い時期にこういう事実を知ってくれていれば、いつか必ず役に立つことがあるのにと、厳しく言い過ぎたところもあったかもしれません。

彼は選手時代、努力でその地位を掴み取った選手でしたが、技術的なことを事細かく言われるのが苦手なタイプだったそうです。

ワンポイント指摘されれば、自分で考え時間をいくらかけてでも納得するまで練習したそうです。

そうして今指導者になり選手と接する時、手取り足取りの細かい指導をすれば煙たがられ、自分で聞いてくるのを待てば何も教えてくれないと影で文句を言われる、そんなことがしばしばあるそうです。

私も全く同じ経験を、何度もしてきましたので、言われている意味がよくわかりました。

自分の経験と重ね合わせ。言いたいことは山ほどあると思うのですが、指導する側とされる側、思惑がピタッと一致することはなかなか難しいようです。

私はといえば、立場として長いスパンで選手を見ることができないので、とにかく悔いを残さないように、知っていることは全て伝えたいと、まさに教え魔という言葉がぴったりだったと思います。

それがある期間続くと、選手は何かあればいつでも私が話しかけてくれると、自主性を失ってしまう結果になることもありました。

この部分は指導する立場の人間の、永遠のテーマかもしれません。

選手にもいろいろな人間がいるように、指導者にもいろいろな個性を持った人間がいて、それがうまく組み合わされれば組織としてうまく機能するのかもしれませんが、お互い個性の強い人間の集団ですから、それをうまくまとめる立場に信頼できる人間がいなければ、個々の力を十分に生かすことはできないのでしょうね。

そこまでの人間力というか、器の大きな人はなかなかいないとは思いますが。

詳しくはわかりませんが、大リーグのGMというポジションは、そういう能力も持っているのでしょうか。

私が知る限り日本ではそういう人間は少ないような気がします。

もう私が組織の一員として、そういう仕事をすることはないと思いますが、彼は私のような人間がこのままでいられるはずはない、きっと必要とされる環境があるはずだと言ってくれましたが、もしそんな日が来た時、私の体力はまだ残っているのでしょうか、そっちの方が心配です。

彼のような指導者となら、もう一度グランドに立ってみたいという気持ちは消えたわけではありませんが。

さて、西本塾で指導している、「フライングバック・トレーニング」と名付けた、器具を使わないトレーニングがあります。

日本人の弱点として私の中で浮き彫りになっている背中の筋肉、とくに広背筋に対するアプローチとして有効なトレーニングです。

操体法の基本的なやり方やオクタントトレーニングでもそうなのですが、一度や二度とはいえ、せっかく指導を受けたのですから、とりあえずまねごとでもやらないよりはずっと効果があるのは間違いありません。

しかし、「教えてもらったようにやっても、そう簡単に私のようにはできません」と言われても、なんと答えればいいのでしょうか。

何年どころか20年30年と続けてきた技術を、そう簡単に、「はいできました」と言われては、逆に私の立場はありません。

とにかく続けてくださいとしか言いようがありません。

ただこのフライングバックトレーニングに関しては、もう少し時間をかけて教えた方が良かったかなと思っています。

まさに日本人に必要なキーワードと言っても大げさでないような重要な筋肉なのですから。

歩くこと走ること、またデスクワークで、この筋肉が有効に働いていれば、もっと違う体の使い方、また動きの感覚になるはずなのです。

ちょっと了見の狭い話ですが、トレーニングに関する本を書かせていただく機会があれば、そこでこの広背筋の重要性とフライングバックトレーニングに関して詳しく書こうと思っていたので、このブログの中ではあまり詳しく説明することは控えていました。

しかし、実際指導を受けた人たちから、よく分からなかったとか正しい姿勢が思い出せないなどというご意見をいただくと、これは私の教え方が悪かったと反省しなければばらないところもあるので、このブログ開設以来始めてのことですが、2枚の写真を掲載して、私の指導を思い出していただきたいと思います。

ただそれ以上の質問にはお答えできませんのでご了承ください。

3月以降になりますが、西本塾に参加していただいた方を対象に、実技を中心とした「深めるコース」を企画しますので、そういう機会に理解を深めていただければと思います。

フライングバックトレーニング2
フライングバックトレーニング1

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Re: 「深めるコース」参加します
深めるコース、3月中旬を予定しています。
回数を重ねて、少しづつ見えてくるものもあると思いますので、できるだけ継続開催できるよう頑張ろうと思います。
それにしても北海道は遠いですから、雪の季節が終わったらIN札幌を、ぜひよろしくお願いします。
  • 2014-01-30│15:50 |
  • 西本 直 URL│
  • [edit]
「深めるコース」参加します
神野さんのコメントにもありましたが、私も第三回西本塾に空きがでれば・・・なんて心の中で思っていましたので「深めるコース」の予定を聞きとても安心しました。
実は私も「フライングバックトレーニング」と「スミスマシンを使ったスクワット」の復習をさせていただければと思っておりました。熊本の野田さんのコメントとそれに対する西本さんの回答を参考にトライしていきます。
今回フライングバックトレーニングの画像を見せていただいて改めて「
西本塾に参加してよかった」と思いました。参加したからこそ「わかること」を西本塾生として身近な所から伝えていきます。
  • 2014-01-29│22:30 |
  • 諏訪俊一 URL│
  • [edit]

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プロフィール

Author:西本 直
1993年、Jリーグサンフレッチェ広島を皮切りに、社会人野球三菱重工広島・協和発酵・ヴィッセル神戸・川崎フロンターレ、そして広島カープ佐々岡真司投手など、プロアマ問わず競技レベルのスポーツ選手から一般の方まで、トレーニングやメンテナンスの指導を行ってきました。
その経験と知識の蓄積を「西本理論」としてまとめ、一人でも多くの方に実践していただくことが、これからの私の使命であると信じ、このブログから発信していきます。
私の理論はスポーツ選手のみを対象としたものではなく、ビジネスマンや家庭の主婦まで老若男女すべてに当てはまる不変のものです。
指導や講演のご依頼も受け付けています。
実名でツイッターも書いていますので、チェックしてみてください。
また、2013年9月9日にConditioning Studio 操をオープンしました。こちらもご覧ください。
また、遠隔地にお住まいの方を対象とした動き分析とアドバイスを行っています。
詳細は「スタジオ操」のホームページ内の「遠隔サポート」をご覧ください。
西本塾を深める会を9月10日(日)に開催を予定しています。
詳細はstudio操のホームページ内の「講習会情報」をご覧ください。

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