始めてよかった。

今まで私は、本気で自分の技術や知識を誰かに伝えようとしてきませんでした。

過去にも目の前で、彼らが見たことも聞いたこともないやり方で、他の誰のどんなやり方よりも効果的で、選手たちの役に立っていることが明らかなのに、それを学ぼうとしない、真似をしない後輩たちを見てきました。

自分たちがやっていることなど、ありきたりのやり方で、他の誰でも取って代われる程度の技術であっても、自分たちはそれを一生懸命やっています、と言い切ってしまわれることもありました。

少しでも選手のためにと、ひたすら磨いてきた私の技術、その20年の積み重ねなど、まったく活かされている様子のない現場の現状に、やはり叩き上げの職人の技術より、現実的な常識が優先されることに、失望してしまいました。

スポーツトレーナーという名前が一般的に認知され、それを目指す若者がどんどん増えていることは知っています。

彼らが目指す先にある、競技レベルのスポーツ現場での仕事が、資格さえ持っていれば誰にでもできるような仕事で、実力よりも、人間関係やその他諸々の条件を満たしている人たちの仕事場になっているとしたら、夢を持って勉強している人たちがそのことに気付いたとき、どんな気持ちになるのでしょうか。

ただそういうメジャーな組織の中に居られることが嬉しいという人も、実際に居ました。

仕事の中身は別として、一流企業に就職したい、安定した公務員になりたい、「スポーツトレーナー」という仕事は、それらと同じような感覚で、志す仕事でしょうか。

最近では企業の規模の大小にかかわらず、モノ作りのプロと呼ばれる人たちの数が減ってしまい、後継者不足を補うため、OBまで動員して技術の継承に躍起になって取り組んでいる、という報道をよく目にします。

これだけ技術が進み、なんでも機械化されてきた世の中でも、最後は熟練の技術者の感覚的な判断によるところが大きいのだそうです。

私がやってきたことは、まさに生身の人間を相手にすることです。

数値で表すことなど不可能な感覚の世界で、さらに個人個人の人間性や感情も含めて、システマティックに対応できるはずのない領域だと思うのです。

なのに、医療スタッフも分業化し、データを共有して現状を誰でも把握できるようにしておかなければならないとか、現状を最も正しく判断するための材料は画像診断であり、人間の感覚など入り込む余地はない、と思っている人がたくさんいるのです。

まさに私が歩んできた20年の間に、スポーツ医学はそういう世界になっていきました、そして私はまさにそれに逆行した歩みを続けてきました。

そんな世界で育ってきた選手やスタッフは、画像から読み取られる診断がすべてとなり、ケアやリハビリの進行も、画像に指示されていくような感覚になっていきます。

炎症が見えるから、動かさない方がいい、動かしたくない、それもいいでしょう。

では、画像がゴーサインを出したとき、本当に選手は動けるのでしょうか。

これ以上は言えません。

何度かそんなことも経験してきました。

金属の表面を、目で見て手で触って、コンピューター制御のセンサーにも判断ができない微妙な違いを、熟練の技術者の方々は、自信を持って判断できるそうです。

そのとき、その仕事の上司が、そして組織が、もし人間の感覚よりも機械の言うことを信用したら、今のものづくり立国日本にはなりえなかったのでしょう。

そうした先人の知恵をたくさん積み重ねてきた日本で、どうして肝心の生身の人間のことで、こんなことになってしまったのでしょうか。

おそらくは医療という分野で、医師という立場が唯一無二の特別な存在であることが一番の原因だと思います。

その判断にゆだね、そこからはみ出たことさえしなければ、だれも責任を取る必要がないからです。

「私はこの仕事に命を懸けています」、そういう人の意気込みは買いますが、命をそう簡単に引き換えにしてはいけません。

ただ結果として職を失い、家族を失い、人間としての尊厳まで失うような状況になるとするなら、それは命を奪われたのと同じことなのかもしれません。

私は選手と接するとき、選手の体だけを相手にしてきたことはありません。

本人や家族、これからの人生、それらを含めて、すべて一緒に背負って戦ってきたつもりです。

ただたんに仕事としてやってきたつもりはありません。

そこまで思ってもらわなくても結構です、そう言われるかもしれません。

仕事上の関係がなくなれば、ほとんどの場合それで人間関係も終わってしまいました。

相手がどう思おうとも、私自身は常にそういう気持ちで接してきました。

今となってはどうしようもないことですが、こういう性格をものづくりの現場で活かせる仕事についていれば、私も一角の人間になっていたかもしれません。

そういうお手本となる分野が、日本にはたくさんあるというのに、どうしてスポーツの世界で、生身の体を相手にするトレーナーという仕事の分野がこうなってしまったのか、本当にこのままでいいのでしょうか。

私がこんなことを言っても、何も変わらないかもしれません。

それでも、「私ならこうやる、こうできる、こうやってきた」、そんな一つ一つの積み重ねを、誰かに伝え、残していかなければ、もし全体の考え方に変化の兆しが見えてきたとしても、何も残っていない、誰も知らないということになってしまうと思うのです。

昨日行われた「西本塾を深める会その1」、5名の方が参加してくださいました。

すでに2日間の「西本塾」を受講していただいた方々です。

皆さん遠くから時間とお金をかけて、わざわざ広島まで来ていただいています。

当初は私の思いを伝えたいという、一方的な思いから始まりました。

伝えたい、しかし本当に伝わるのだろうか、理解してもらえるのだろうか、技術を身に着けるレベルまで導いてあげられるのだろうか、申し訳ありませんが、私自身、不安の方が大きかったのが正直な気持ちです。

たとえば、10回参加していただいた方には認定証を出して、などというレベルの話ではないのです。

こちらの本気度と、参加してくださる方の本気度が、どこまでかみ合うのか、まずは始めてみなければという思いでした。

私の不安は一方では的中し、中途半端な理解で広がってしまう危険性も感じています。

しかしそれ以上に、熱い思いが確実に伝わっていくのも感じています。

私が何十年もかかって身に付けてきた技術や感覚を、そう簡単に分かったなどと言われてたまるか、そんな気持ちも多分にありました。

それは私の思い上がり、たんに自分を小さくしていただけでした。

気持ちのある人には、ちゃんと伝わるのですね。

私の伝え方も、少しはうまくなったのかもしれませんが、昨日参加していただいた皆さんの進歩は、私の想像をはるかに超えていました。

いつも私が言っている通り、「私ができることなど誰にだってできること」だったのです。

それをちゃんと伝える気持ちと能力が、今までの私になかっただけのことでした。

しっかり伝えていきます、きちんと残していきます。

それが私の使命だと思います。

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Re: No title
メールで感想をいただきましたが、皆さんに公開するためここに転載させていただきました。
鍋田さんは、普通に会社員としてのお仕事を持ちながら、ボランティアとして子供達にサッカーを指導されているそうです。
治療家の方や、スポーツの指導を専門としている方が、熱心に私のところに通って来ていただくことは、有る程度理解できるのですが、そうでない立場でこれほど熱心に指導を受けていただいている鍋田さんの姿勢には、本当に頭が下がります。
そして、このまま私の施設を手伝っていただけるのではないかと思わせるほどの実技の上達にも感心しています。
こんな熱心な方に指導を受けられる子供達は、ラッキーですね。
数あるスクールの中でも、体に対しての理解がしっかりできている指導者は、ほとんどいないと思いますから。
もっともっと良い内容の指導ができるよう、私も頑張ります。
  • 2014-03-19│10:08 |
  • 西本 直 URL│
  • [edit]
Re: 少しづつですが
まずは股関節の件、次回お会いした時にきちんと納得していただけるように準備しておきます。
西本塾でお伝えしたことが、石本さんの施術の役立てていただいているようで何よりです。
人間にとって一番充実感を得られるのは、誰かのために役に立っていると実感できる瞬間ではないでしょうか。
生きていくために、その糧を得る手段はたくさんあります。
そんな中で我々の仕事は、目の前で患者さんだったり選手だったりの変化を、目の当たりにすることができ、直接感謝の言葉を頂けたり、笑顔を見せていただくことができる、数少ない仕事だと思います。
だからこそやりがいがあり、責任もあります。
もし、決められた時間の中で決められた作業を行うという行為に終始してしまうのなら、この仕事を志した意味はないと思います。
「誰かのために」この気持ちがすべてではないでしょうか。
患者さんに接する石本さんの人柄が、技術を超えた効果をもたらすものと思います。
またお会いできることを楽しみにしています。
  • 2014-03-19│09:53 |
  • 西本 直 URL│
  • [edit]
No title
西本直先生

日曜の(深める会)ありがとうございました。
4つの実技プラスαに特化した内容の中で確実に以前よりも理解が深まったというか、もの凄く丁寧に教えていただいて、前回の流れの中で勝手に思い込んでいた部分に気づかされたり実技を何度も繰り返す中で前回だけでは得ることのできなかった気づきは大きな収穫です。

まずあしゆび揉みではカラダの見方や微妙な持ち手やポジションや、奥義秘伝まさかあの込み上げてくる何かを呼び起こすタイミング等、丁寧に伝えて下さいました。曖昧だった部分がはっきりしましたので、それを磨き上げます。
更に奥様から大きな助けもいただきました。実際に先生の手技を受け続けて来られた立場から貴重な助言をいただ けた事はただただ感謝の一言に尽きます。
有り難うございました。
そして、(気持ち良かったですよ)と言ってもらえた時は、嬉しかったですし、励みになりました。

操体法ではあしゆび揉みからの繋がりで
姿を現した身体をどう観てどう導くのかを示していただいた事、選手のぎっくり腰の例も示唆に富んでいて頷きっぱなしでした。
連動と作られた動きの見極めや、どんどん変化していく身体、スゴいです。

かかと伸ばしと骨盤との密接な関わりやその他の部分もこれから深めていきます。

オクタントトレーニングはフルバージョンで受け、取り、させていただいて傷害予防や回復との関連、力の入れ方、抜き片、導き、声かけ、操体法との関連と、もう本当に体得するしかないです。
連動の芯の強さの体感は圧巻でした。

さらに連動を引き出すためのフライングバックトレーニングでも四種類も丁寧にポジションの作り方、どこまで下がるかどこを沈めるか、動作の見極めを指導していただけた事で効きが倍増しました。

最後は嬉しいボーナストラック、バランスボールでのトレーニングです。
初めて見た2つのトレーニングはこんなやり方があるんだ!これやってみたい!と思い、今度の休みに買いに行こうと思います。
教えて頂いた(このトレーニングの良い動き)に近づけるように…。
倣いながら馴れろの本当にあっという間の活きた濃い時間でした。
想いから始まり技術に至るまで全てが繋がっていて全てに通じるキーワードは(感じる事)そう捉えました。

目的を、効果を、方法を体感させていただきました。後はしっかり彼らのために発揮していきます。

本当に有り難うございました!
今後とも宜しくお願い致します。

鍋田博
  • 2014-03-19│07:14 |
  • 鍋田博 URL│
  • [edit]
少しづつですが
宇治の石本です。
16日の「深める会」ありがとうございました。
「誰のために」の話は、本当に治療家としてもですが、人として一番大事な所を教えて貰い、改めて頑張ろうと思いました。
実技は「足指もみ」の立ち位置から間違っていて、力加減、リズム、腕より体の使い方等、実際にうけたり練習して注意してもらわないと感覚の所が分っていなかったと思いました。

今日、一歳児の母親が患者さんで来られました。
右肩背部に強い痛みがあり、右肩関節屈曲・外転とも90度でコートを脱ぐのも大変でした。
もつれた釣り糸を両端から解いていく様にと言う話を思い出し、足指もみから股関節の緩いオクタントトレーニングの様な施術をし左肩関節を同様にし最後に右肩関節を治療しました。
肩関節は動く様になりましたが、痛みは少し残りました。
最後に子供を抱くしぐさをして貰いましたが、上腕二頭筋で持ち上げ肩甲骨は固定したままでしたので、肩甲骨を意識して抱き上げる様に指導しました。
帰りは、コートをスーッと着られました。
これも西本先生の丁寧な実技指導と説明と「誰のために」の話を聴いたお陰です。
これも参加して行きますので宜しくお願いします。

すみませんが、第3回西本塾でゴルフを例に「股関節の位置、はまり具合?」を説明して貰ったと思うのですが、その感覚が分かりません。また、深める会に参加した時に教えて下さい。
よろしく、お願いします。
  • 2014-03-18│17:53 |
  • 石本和也 URL│
  • [edit]
Re: 深まってます!
神野さん、体調不良でしたか、気付かないまま一番大変なオクタントトレーニングの実技の相手に指名してしまい申し訳ありませんでした。
帰りの船の中は爆睡だったでしょうか。
メガネを掛け替える必要があった、その度数が少し合ってきた、うまい表現ですね。
時流に乗って有名になっている人間が言うことだから、権威ある人間のやっていることだから、そんな尺度でものを見てしまうと、本当に正しいものが見えなくなると思います。
神野さんの目に映った西本という人間の考え方が、納得いくものであっても、今までのメガネでは見えていなかったと気づいていただいたとしたら、それはすごいことだと思います。
とことん付き合いますよ、愛媛はお任せしますという存在になってください。
  • 2014-03-18│13:04 |
  • 西本 直 URL│
  • [edit]
深まってます!
昨日は、ありがとうございました!
実は、子供の体調不良から、嫁は熱でるわ自分も前日に熱でるわで、とにかく寝て翌朝に賭けようと寝まくったお陰で、楽しみにしてた当日を迎える事ができました。
第二回に参加し、今まで掛けてたメガネじゃダメな事に気づき又当日の皆さんの理解度に焦りを感じ今回も参加させてもらいました。
足指もみ、操体法、オクタント、フライングバック、バランスボールなど実技のみで出来た事で、実感出来る事で掛け替えたメガネの度数が少し合ってきた感じです。フライングバックは、質問しようと思ってた事が払拭できましたし(ちょっと勘違いしてました~)オクタントに至っては、しょぼいながら体感する事で、いつも練習台になってくれてる患者さんの思いを感じました!
深めるコースで自分をもっと進化させ、対象となる方へ、最高の形で還元したいと思ってます。(田舎からでも世界を相手に!)現に、操体法、足指もみも今日来た患者さんに行ってみると、今までと違う結果を感じます!
又行きます!よろしくお願いします。
追伸
奥様のゆび、心配ですがありがとうございました!

  • 2014-03-17│22:57 |
  • 神野慎哉 URL│
  • [edit]

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プロフィール

Author:西本 直
1993年、Jリーグサンフレッチェ広島を皮切りに、社会人野球三菱重工広島・協和発酵・ヴィッセル神戸・川崎フロンターレ、そして広島カープ佐々岡真司投手など、プロアマ問わず競技レベルのスポーツ選手から一般の方まで、トレーニングやメンテナンスの指導を行ってきました。
その経験と知識の蓄積を「西本理論」としてまとめ、一人でも多くの方に実践していただくことが、これからの私の使命であると信じ、このブログから発信していきます。
私の理論はスポーツ選手のみを対象としたものではなく、ビジネスマンや家庭の主婦まで老若男女すべてに当てはまる不変のものです。
指導や講演のご依頼も受け付けています。
実名でツイッターも書いていますので、チェックしてみてください。
また、2013年9月9日にConditioning Studio 操をオープンしました。こちらもご覧ください。
また、遠隔地にお住まいの方を対象とした動き分析とアドバイスを行っています。
詳細は「スタジオ操」のホームページ内の「遠隔サポート」をご覧ください。
今年2回目の西本塾を8月26・27の土日に開催を予定しています。
詳細はstudio操のホームページ内の「講習会情報」をご覧ください。
なお、今回も参加者が5名に満たない場合は開催しません。
9月10日には深める会も予定しています。

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