駒を磨くということ

西本塾も数えて第4回が、来週末に行われます。
現在7名の方から申し込みを頂いています。

この半年間の間にもいろいろなことがあり、少しずつ考えも変わってきた部分もあります。
私は常に今この時この瞬間に、最も正しいと信じることをお話ししているつもりですので、前回話をしたことと今回話をすることが少し違っているかもしれません。

日々考えを新たにして、昨日の自分より今日の自分と成長していかなければ、生きていて楽しみはありませんから。

といっても、それほど大きな変化ではありません、人間の体の仕組みを理解し、それに沿って体を動かすということが、我々人間に与えられた本来の能力であるという真理は、なんら変わることはありませんから。

スポーツトレーナーという仕事を通して、これまでいろいろなことを経験してきましたが、私が身につけてきた技術や知識を、最大限に生かししてできる最高の仕事を言葉に表すと「駒を磨く」という言い方になると思います。

この言葉を最初に使ったのは、サンフレッチェ広島で仕事をしていた2年目、Jリーグがスタートして2年目の前期シーズンを制覇し、私の存在も多くのマスコミで取り上げられた時でした。

まだまだトレーナーという仕事が、一般的に認知されておらず、プロ野球のトレーナーのイメージからか、選手にマッサージをする人という認識を持たれてしまっていたトレーナーという立場の枠を超え、故障後のリハビリとしてのトレーニングだけではなく、個々の能力の向上を目指したトレーニングの指導にまで手を広げて、私が行なっていたことが、当時は珍しく、マスコミとしては話題として取り上げやすかったのだと思います。

様々な媒体から取材を受ける中で、なぜ私がそいうことまで仕事の幅を拡げたのか、というより拡げられたのかを考えた時、チームの中に自分しかやれる人間がいなかったということもありましたが、私の能力を的確に評価し任せてくれた、当時のスチュアート・バクスター監督の存在が大きかったと思います。

現実、バクスターが神戸に行った後に就任した監督は、私の仕事をことごとく制限し、すべて自分の考え方で進めようとした為、私のモチベーションが下がっただけではなく、選手個々のコンディショニングに影響し、チーム全体の成績にもマイナス要素になったと思います。

前期優勝の後に受けた取材で、改めて自分のやっていることを整理する中で浮かんだキーワードが「駒を磨く」という言葉でした。

将棋自体は駒の動かし方くらいしか知らない私ですが、チームにあっては監督という立場の人間が、勝負の責任をすべて背負って対局に臨む棋士ということになります。

指し手である棋士が信頼に値する人間であり、その戦術が間違いなく勝利に結びつくものだという確信がなければ、一つ一つの駒は自らの力を存分に発揮することはできないでしょう。

とはいっても将棋の駒は生き物ではありませんので意思を持って動くことはできません、それがサッカーという競技となれば、またプロという個性をぶつけ合う集団であれば、なおさら指し手に対する信頼感は大きな要素となります。

1年目、私は何もわからないままにチームの一員として、選手と一緒にミーティングの輪の中に入れてもらいました。

それは当然のことかと思いましたが、3年目はその輪の中に入ることを許されず、他のチームでもトレーナーは基本的にミーティングには加わらないのが普通のようでした。


素人なりにその内容を聞いていると、バクスターが描くゲームプランは、単なる理想論ではなく、当時の選手たちの個性をよく把握していて、それを90分間具現化できていないことが、結果として勝利に結びついていないと、私なりに理解したのでした。

2年目の シーズンをスタートするに当たって、トレーニングの内容を決める全権を与えられた私は、そのための準備を行うべく、個人としての能力アップを図るためのメニューを考えていきました。

それぞれ能力が違いますし、与えられたポジションや期待されている動きもみんな違います。
一律にチームとして、全員が同じことをやっても意味がありません。

かといって限られた時間の中で、全員がバラバラな内容でというわけにもいきません、選手一人一人の顔を思い浮かべながら、大変でしたが楽しく苦労することができました。

ゴールを奪いゴールを守るという戦いの中で、それぞれに与えられ期待されたポジションがあります。

将棋でいえば、歩には歩の桂馬には桂馬のそれぞれの役割があり、捨て駒という概念はありません。

将棋の駒は動かせるのは一手だけですが、すべての駒の配置に意味があります。

サッカーであれば、一つのボールに対してピッチ上にいる敵味方全員がプレーに関わっています、一人として傍観者になる瞬間があってはならないのです。

1年目はそれが少しあったような気がしました。

ボールを扱う技術は別として、いるべきところに人がいない、それが戦術を理解していないためなのか、それとも体力的なものなのか、私にできることは90分間自分が走りたいところに走り、動きたい動きをできるようにしておくこと、まさに一枚一枚の「駒を磨く」ことでした。

結果は思いの外早く出て、そのまま前期のシーズンを制覇することができたのです。

磨き上げた駒を並べ、優秀な指し手が戦略を練れば、こういう結果になって当たり前だということでした。

生意気にも私が発した 、「私がここにきたから優勝したとは言わない、ただここにいなければ優勝したかどうかはわからない」という言葉が活字になり、その頃からこの自信はどこから来るのかと話題にされたのを覚えています。

「まあそれくらいの気持ちでやらないと楽しくないでしょ」という言葉も付け加えたつもりだったのですが・・・。

勝負の世界に身を置いたのなら、どんな立場の仕事であれ私にしかできないという強い自負がなければ、ただそこにいるだけの仕事にはしたくありませんでしたから。

野球の場合とくに投手に関しては、この「駒を磨く」という言葉が ピッタリします。

ただ一対一の密な関係で、相手が生身の人間である以上、感情の問題が大きな比重を占めてしまいます。

これまでの私は、その関係に入り込んでしまうところがあり、自分が傾けた情熱と同じものを要求してしまうことがありましたが、自己満足に陥ることなく、あくまでも相手の目標達成のお手伝いをしているという立場を超えないよう、自分の力を発揮していかなければなりません。

畑仕事に使う鍬や鋤を作ったり直してくれる、村の鍛冶屋さんの職人が減り、村でその方が仕事をできなくなったら、その先どうなってしまうのだろうという番組を見ました。

高価な治療器械を使いこなし、医療スタッフの一員としての仕事を全うできるトレーナーはどんどん増え続けて行くと思います。

それでも私は、「トレーナーの仕事は駒を磨くこと」、そのための技術を追求していきたいと思います。

様々な競技の様々なレベルの選手が、「西本に自分を磨いてもらいたい」そう思ってもらえる職人であり続けたいと思います。
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プロフィール

Author:西本 直
1993年、Jリーグサンフレッチェ広島を皮切りに、社会人野球三菱重工広島・協和発酵・ヴィッセル神戸・川崎フロンターレ、そして広島カープ佐々岡真司投手など、プロアマ問わず競技レベルのスポーツ選手から一般の方まで、トレーニングやメンテナンスの指導を行ってきました。
その経験と知識の蓄積を「西本理論」としてまとめ、一人でも多くの方に実践していただくことが、これからの私の使命であると信じ、このブログから発信していきます。
私の理論はスポーツ選手のみを対象としたものではなく、ビジネスマンや家庭の主婦まで老若男女すべてに当てはまる不変のものです。
指導や講演のご依頼も受け付けています。
実名でツイッターも書いていますので、チェックしてみてください。
また、2013年9月9日にConditioning Studio 操をオープンしました。こちらもご覧ください。
また、遠隔地にお住まいの方を対象とした動き分析とアドバイスを行っています。
詳細は「スタジオ操」のホームページ内の「遠隔サポート」をご覧ください。

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