走ることの意味

つくばでの三日間、色々なことを経験させていただきました。

メインは二日目の「少年期におけるトレーニングとコンディショニング」と題した講習会だったのですが、三日目日曜日の夕方から「オトナウム」という名前の、普段あまり体を動かすことのないお父さん方にもサッカーを楽しんでいただこうという趣旨の集まりがありました。

そこに何と前日前々日とお会いしていた、お母さんとお嬢さんそして男の子の三人が来てくれました。
お嬢さんは他に大切な用事があったようですが、もう一日でも私との時間を過ごすことで得られるものがあるのではと思っていただいたようで、わざわざ来ていただいたとのことでした。

私の方が驚くやら恐縮するやら、期待に応えるべく何かをしなくてはと考えました。

ちょうどもう一人、オトナウムに参加していたお父さんに連れられてきていた男の子と、筑波大学蹴球部の学生トレーナー君の4人を相手に、走り方教室をやろうということになりました。

私は、ウォーキング教室やジョギング教室などで指導されている方法に違和感を覚えています。

もともと歩くという行為は移動の手段でしかなかったはずです。
乗り物も何もない時代に、目的地に移動する手段としてみんな歩いていたはずです。

今ブームになっているウォーキングは、どこかに行くための移動手段ではなく、カロリーを消費し筋肉を刺激して、運動不足を解消しダイエット効果を得ようという、昔の人たちから見ればまったく意味不明な動機で行われています。

当然その歩き方は、歩幅を広く大股で歩けとか、軽く肘を曲げて腕をしっかり振ってとか、出来る限り早いスピードでという感じで指導されます。
早朝や夜涼しくなってから、たくさんの方がそうやってウォーキングしている姿を見かけます。

歩くことと走ることの違いは、一瞬でも両足が空中に浮いている状態があれば、走っているということになります。

腰をひねりながらすごいスピードで歩く「競歩」という競技は、審判がその足の動きをチェックしていて、何回か両足が浮いて走っていると指摘を受けると失格になります。

我々が歩くことから走ることに移行するスピードは、もちろん個人差はありますが時速7キロを超えると、速足で歩くよりも両足を浮かせて、つまり飛んで走ることが楽になりますが、競歩の選手はもっともっと早いスピードで、飛ばないで歩くことができます。

我々日本人はもともと着物の文化で、裾を広げて大股に歩くということはできませんし、移動するという時には何かを持って運ぶという目的もあるでしょうから、両手を大きく振ってということもしなかったはずです。

今ならすぐに車に乗ったり電車やバスを利用する距離を、平気で歩きとおすためには無駄にエネルギーを消費しないことが最も大切だったはずです。

走るという行為は、歩いて目的地に到達する時間を少しでも短縮するための行為のはずです。
ですから歩くことと同じで、出来るだけ無駄なエネルギー消費をしない走り方を考えたはずです。

それが数年前から話題になった「なんば走り」と言われるような体の使い方だったのかもしれません。
「なんば走り」については関連本がたくさん出ていますので読んでいただきたいと思いますが、単純に右手と右足同側を出して歩くというものではありません。

一言で言ってしまうと、腕は振ろうとも思っていないし、振らないようにしようとも思っていないということになります。

例えば神社の石段を大急ぎで駆け下りようとする姿を想像してみてください。
肘を何度に曲げてしっかり前後に振ってとか腿を高く上げて、みたいなイメージにはならないはずです。

石段の角の部分を踏み外さないように、出来るだけ小さな足の運びで下っていくスピードに対応しなければなりません。
当然腕もそのスピードを邪魔しないように、体のバランスを取っているだけで、腕を振っているという感じもないと思います。

下りの石段という特殊な条件とはいえ、早く走るための条件は一般的に指導されているそれとは明らかに違います。

平地を走るときにもそれが応用できないでしょうか、腕を振れ腿を上げろしかアドバイスの言葉はないのでしょうか。

その答えとして考え付いたのが、私が4人を相手に指導したやり方なのです。

実技の説明は文字にすることが難しいのですが、股関節と肩甲骨を含めた肩関節をローリングさせるという使い方です。

腕を前後に振る、腿を上下にピストン運動させるというイメージだと、関節の可動域に対して限度いっぱいまで使うことになりますから、そのこと自体にかなりのパワーを必要とします。

それをまた逆方向に向かって戻していくのですから、私の3・5・7理論で説明しても、かなりのパワーを必要とし、なおかつそのパワーが前に進むことに対してロスになっているどころか、ブレーキになっている角度まで存在します。

ならばこういう考え方はどうでしょう。
関節に対して常に円運動をさせる、車のエンジンに例えるとマツダのロータリーエンジンのイメージです。

常に前に進むという目的に対して、ロスが少なくパワーをかけ続けることができます。
さらに可動域の端っこまで使わないところで関節の運動が連動していきますので、地面に対してもドンドンという衝撃インパクトも少なく、筋肉や関節に対するダメージも少ないという良いことづくめの体の使い方です。

スピードに乗るまでは、腕は肘を柔らかくしておけば上下に自然に振れて、スピードに乗ってくれば自然に前後に振れているように見えますが、私の中ではそもそも腕を使うという感覚すらありません。

足が体を運んで行ってくれていることの邪魔をさせないように、ブレーキにならないようにぶら下げているだけです。

イメージが湧きにくいとは思いますが、もうすぐ55歳になる私の年齢からすれば、走るスピードという意味でもそれなりに速いと思っていただけるスピードではあると思っています。

大学生の彼はなかなか素直に体が反応してくれませんでしたが、男の子二人はあっという間に感覚をつかみ、楽しそうに走ってくれました。
女の子も、最初はうまくいきませんでしたが、最後の時間でマンツーマンの指導ができたので、こちらも見事に私が求めている動きを体現してくれました。

前日の講習会の終了近く、あるお父さんがこう言われました、「私たちがこれまで正しいと思ってやってきたことと、今日の話はほとんどが正反対のことばかりでしたが、西本さんの言われていることが正しいのはよく分かりました、ではなぜこういう考え方が広まっていかないのでしょうか」結局そこなのです。

人と同じことを言っていれば、それが現時点においてセオリーとして確立されていることなら、結果に対して教える側に何の責任もないのです。
こういうことは世の中にたくさんあります。

でもそれではおかしいと気付いたとき、私のような発想になる人がいないことのほうが、私には不思議なのです。

機会をいただければ、歩く走るという人間の本質的な運動について、一緒に学んでいただきたいと思います。

名前は出せませんが、可愛い名前のお嬢さんと、カッコいい名前の男の子、そしてお母さん、三日間ありがとうございました。

最後に、講習会に参加していただいた方から非公開ですがコメントをいただきました。
なんと外科のドクターをされている方で、私の話を真剣に聞いていただき参考になったと、お褒めの言葉をいただきました。さらに本も買っていただけるそうです。
どんな立場の方でも、素直に心を開き自分にとって有益であると思ったことは実践していくべきではないでしょうか。
そういう意味でも、本当にありがたい言葉をいただきました、ありがとうございました。
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Comment

Re: タイトルなし
コメントありがとうございます。
私の使う言葉は、現実の動きに合う言葉を探して当てはめているという感覚的なものなので、これ以上文字で説明することは不可能なのです。
ブログの最初から、隅から隅まで読み込んでいただいて、私という人間そのものを少しでも理解していただけたら、西本という人間はこういう言い方をするのか、という感じでわかっていただけるかもしれません。
申し訳ありませんがご了承ください。
  • 2014-11-22│12:57 |
  • 西本 直 URL│
  • [edit]
いつも読ませていただいてます。
競技柄体の使い方を日々考えている僕にとって雷に打たれたような気分です。
ところで今回の記事に出ていた「股関節と肩関節のローリング」とはどういう動きなのでしょうか。イメージも湧いてきません。よければ教えていただけないでしょうか。
  • 2014-11-22│08:56 |
  • たくみ URL│
  • [edit]

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プロフィール

Author:西本 直
1993年、Jリーグサンフレッチェ広島を皮切りに、社会人野球三菱重工広島・協和発酵・ヴィッセル神戸・川崎フロンターレ、そして広島カープ佐々岡真司投手など、プロアマ問わず競技レベルのスポーツ選手から一般の方まで、トレーニングやメンテナンスの指導を行ってきました。
その経験と知識の蓄積を「西本理論」としてまとめ、一人でも多くの方に実践していただくことが、これからの私の使命であると信じ、このブログから発信していきます。
私の理論はスポーツ選手のみを対象としたものではなく、ビジネスマンや家庭の主婦まで老若男女すべてに当てはまる不変のものです。
指導や講演のご依頼も受け付けています。
実名でツイッターも書いていますので、チェックしてみてください。
また、2013年9月9日にConditioning Studio 操をオープンしました。こちらもご覧ください。
また、遠隔地にお住まいの方を対象とした動き分析とアドバイスを行っています。
詳細は「スタジオ操」のホームページ内の「遠隔サポート」をご覧ください。
西本塾を深める会を9月10日(日)に開催を予定しています。
詳細はstudio操のホームページ内の「講習会情報」をご覧ください。

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