ボールを投げるということ

今日から5月、広島の空はまさに五月晴れという言葉がぴったりの気持ちの良い青空が広がっています。

ゴールデンウイークの3・4・5日には、市内中心部の平和大通りで「フラワーフェスティバル」と銘打ったイベントが開催されます。

これは広島東洋カープが初優勝した1975年に行われた優勝パレードを契機に、広島にも賑わいを取り戻そうと毎年行われるようになったそうです。

イベントの中心は、数えきれないくらいの団体が参加するパレードで、その主役はダンスを踊る女性たちです。
このイベントを目標に活動しているグループもあると聞きます。

私のように田舎育ちの人間から見ると、お祭りというのは地域の神社の祭礼を意味し、古くから行われている伝統行事や神輿など、歴史を感じるとともに、大きくなったらあの神輿を担ぎたいとか、あの行事に参加したいと、大人に肩車されて後ろを付いて歩いた子供の頃を思い出します。

残念ながら広島にはそういうお祭りは少ないようで、フラワーフェスティバルでの各団体の踊りやダンス、その他の演技もなんとなく私のお祭りに対するイメージが違って、とくに見に行こうと思ったことがありません。

その発端となった広島東洋カープ、今年は一味もふた味も違った戦いぶりを見せています。

地元のカープファンが自嘲気味につぶやく言葉に、「カープ(鯉)じゃけー、鯉のぼりまでよの」というものがあります。

スタートから1か月は何とか頑張っても、1か月を過ぎたあたりからずるずると後退していき、気がついたら定位置の5位6位争いと低迷してしまうというのが毎年の恒例となっていたからです。

私は広島に来るまでカープファンでも何でもありませんでしたから、初優勝のことや毎年のように優勝を争っていた時期があったことも知らず、主力選手の名前もほとんど知りませんでした。

縁があって佐々岡投手のパーソナルトレーナーを9年間勤めましたが、その間も鯉のぼりまでどころか、スタートと同時につまづいてというシーズンもありました。

どこかの球団のように、毎年毎年戦力を補強し、勝って当たり前のチーム作りができるはずがないのは、コアなカープファンでなくてもみんな分かっていることです。

だからこそ、そういうチームに勝つことで溜飲を下げ喜びを感じている人も多いと思います。

それが昨年、3位に入りクライマックスシリーズに進出したことがチームを変え、育ってきた選手たちが力をつけ、下馬評でも上位にあげられる評価を受けていました。

私としては6チームの中で3位になったことでこれほど喜んでいる広島の人たちってなに、サンフレッチェは18チームがひしめき合うJリーグで2連覇したんですよ、こっちの方がどれだけ大変な偉業で評価されるべきものですよと言いたいのですが、地元広島ではそういう対応になってしまうのです。

原爆投下からの復興のシンボルとして、市民県民が守り育ててきたカープの歴史は、Jリーグ2連覇をもってしても対抗できないものだったのです。

そのカープですが、今年の勝利の原動力は圧倒的な投手力の充実です。

プロ野球の場合、基本的に5人から6人の投手が先発投手として中5日か6日の間隔をあけ、ローテーションを組んでいます。

そして試合展開によって、勝ちにいく試合と今日は難しい試合だという判断があり、リリーフ投手の顔ぶれが決まってきます。

4月の戦いは、その両方がたぶん12球団で一番安定していたのです。

それが防御率という数字に表れていました。

それに引き替え打線の方はまったく逆になってしまい、それでもこの成績でいられるというのは、野球という競技の勝敗にとって、いかに投手の占める割合が大きいかという証明です。

6枚の先発投手でスタートしたカープですが、私が関わっている篠田投手は二軍でのキャンプスタートながら、その6番目の扱いで、なんとか滑り込みで先発の座を勝ち取りました。

それが1か月経ち、私のひいき目を差し引いても先発投手として4番目の評価を受ける位置にいると思います。

私にとっては当然のことですが、この活躍をシーズン前に予想していた人はおそらくゼロだと思います。

それは本人も同じだと思います。

逆に私が心配していた選手は、申し訳ないですが予想通りの結果となってきました、結果論ではありません。

私が投手の動きに興味を持ち、その動きの良し悪しを判断する目を持ち始めたころから、この投げ方ではダメといった選手は本当にダメになっています。

実名を出すのは恐縮ですが、あの松坂投手にして私は高校時代から、本当の意味で大成はできないと言い切り、甲子園を沸かせた斉藤投手に関しては、あの人気をほおっておかないと思うけど、プロで活躍できる隙間があるとしたら短いイニングに中継ぎ投手としての役目だろうと、身近な人に話していました。

本当にプロとして長く一線級の投手として活躍できる条件は、なにはなくともまずはコントロールと故障をしないでコンスタンとに登板できることです。

そしてそのコントロールをよくする条件が、リリースポイントを一定にするということです。

ここから私の根っこ堀が始まるのですが、リリースポイントを一定にするためには、いわゆる腕を振るという感覚を捨てなければなりません、これは投手にとって一番難しいことで、スピードが出なくなるという不安を伴います。

ではスピードが速ければ打者を打ち取れるのでしょうか。

打者は投手の動作中、握られたボールが視界に入ってからしか打ちに行く動作のタイミングが取れません。

幼い子供にボールを投げて、受けさせる練習をするときのことをイメージしてください。

投げる前から、「ここだよ、このボールだよ」と子供の視界にはっきり認識させて、視界から消えないようにゆっくり腕をスイングして子供が受け取りやすく投げますよね。

このまったく逆のことを野球の投手はしなければならないのです。

この動作の究極ともいえる動作ができていたのが、1984年の阪急からオリックス、最後は2002年阪神でで活躍した星野投手だと思います。

18年間で、11年連続の二けた勝利を含む176勝を挙げた、超一流と言ってよい投手です。

細身の左投手で、失礼ながらあたっても痛くないような130キロ程度の直球と、90キロにも満たないようなスローカーブを武器に、打者を翻弄しました。

私が佐々岡投手と初めてゆっくり話をした時、例に出して投手とは、と語ったのが、この星野投手の成功の秘訣と、残念ながら150キロを超えるスピードボールを持ちながら、短命に終わった当時巨人の投手だった西山投手の比較でした。

事実私とコンビを組んでからの佐々岡投手は、スピードガンで140キロを超えることはありませんでしたが、引退までの9年間安定した投球を続けチームに貢献し続けました。

なぜ私がプロ野球の投手をも納得させる理論を構築できていたのか、それは自分自身のつらい選手時代から始まっていました。

星野投手以上の細身の体で、アンダースローという変則投法に活路を見出そうと努力を続けましたが、腰から肩・肘とどうにもならない状況となり、諦めざるを得ませんでした。

それが全く畑違いのサッカーのチームで、それも発足したばかりのJリーグ、サンフレッチェ広島で仕事をすることになり、視野が広がっていく中で、体の使い方の何たるかを考えるようになり、在籍中に投手にとって何が大切で何が必要なのか、そのためにはどういうトレーニングをすればいいのかというアイデアが完成していったのですから不思議なものです。

そして3年後縁あって仕事をさせていただいた社会人野球三菱重工広島での指導に活かされ、都市対抗準優勝という結果に結び付いたのです。

その当時から、肩甲骨から肘、そして手首の使い方をことあるごとに様々なレベルで指導させていただいていますが、いまだにそのことが正しいことであるという認識を得ておらず、私の言っていることが理解できないのを通り越して、間違ったことを教えていると思われている場合もあるのです。

体を使って、最終的にリリース直前の手首の角度は、小指が一番前を向き、手のひらは右投手であれば一塁方向を向いていなければならないと教えるのですが、「これじゃダーツじゃないですか、ボールを投げるのはこっちじゃないですよ」と、決まりきった反論が返ってきます。

その人たちがどう指導しているかと言えば、投げる相手に対して真っ直ぐ足を踏み出し、上体は正対し、その時にはすでに手首は投げる方向に向いていなければならないというのです。

確かにそれでもボールを投げることはできます。

その投げ方を繰り返し、経験値を積み重ねプロの選手になっている場合もあります。

私が言っているのは、投手はできるだけ打者に近い所でボールを離した方が有利だということです。

良く解説者が使う「球持ちがいい」という言葉と同義語です。

そのためには手首は最後の最後まで相手の方に向けてはいけないのです。

手のひらが前を向いた瞬間ボールは手から離れます、そうすると本来つかえたはずの「指先にかかる」という感覚がえられず、ボールにスピンがかかりません。

いわゆる置きに行くとか、投げるではなく放るという感覚となります。

ボールは18.44メートル先のホームベースまで空気抵抗を受けながら進んで行きます。

それを切り裂いていくためには、ボールに強い回転力を与えなければなりません、直球こそが最大のスピン量を必要とする変化球なのです。

甲子園のスピードガンで140キロ後半を記録しても、普通に高校生に打ち返されるのはほとんど押し出している投げ方だからです。

小指から振りだせないと、ボールを持った手首から先は遠心力で頭から離れ、体の外側を遠回りすることになります。

遠回りするということは打者から白いボールが見え始めるタイミングが早くなるということです。

そして何より肘への負担が大きくなります。

屈強な筋肉を持った大リーグの投手たちは、私の理論などお構いなしの何でもありで投げていますが、その彼らにして経験的に100球が肉体の限度であると知っているのです。

だから100球が近づくとほとんどの投手が代わってしまいます、6回3失点が最低限のノルマだそうです。

キャンプでも日本式の投げ込みはしません。

我々日本人がいくら鍛えても、元々の体が違うのですから、我々は体の仕組みに沿った理に適った投げ方を追及してこそ、本来の能力を発揮できるのです。

大リーグの指導者たちが、もしこんな発想に変わってしまったら、それこそ我々は付け込む余地がなくなってしまいます。

彼らには彼らのやり方で続けてもらい、我々は人間本来の体の使い方で勝負する、いかがでしょうか。

西本塾に参加していただいた方が、私の理論で投げ方を指導しても受け入れてくれないという話がありましたが、まずは自分がやって見せて、なるほどこういう回転のボールになるのかと驚かせるレベルにならないと、とくに野球の指導者は既成概念の塊のような人が多いですから難しいかもしれませんね。

野球を始める最初の段階で、私の理論を理解し、サッカーボールやどっちボールを使ったドリルを行わせれば、肩肘の故障で野球を離れる選手は激減すると思います。

昨日KOされた投手、このことに気付かなければ、根本的な解決は不可能でしょう。

高校時代から見ていますが、まったく変化がないばかりか、チェンジアップという変化球でごまかそうとして、なお一層肘が下がりボールが遠回りし、それではと直球勝負に行くと下がったままの肘から繰り出されるボールは打者から見やすく、スピンもかからず、まったく通用しないという結果が待っていたのです。

自分のどこが良くてこのマウンドに立っているのか、自分のどこが悪くてこういう結果になったのか、気持ちの問題などという所へ逃げてはいけないのです。

はっきりとした原因があっての結果です、だれかきちんと指導してあげないと、櫛の歯が抜けるように気がつけばいつものように、となりかねませんよ。

このボールを投げるという動作の基本、もちろん投手だけの問題ではありません、野手も同じです。

イチロー選手のレーザービームは、こういう使い方の見本なのです。

さて、初めて広島以外で行う「西本塾IN札幌」の開催が、17・18日に迫ってきました。

現在7名の方から申し込みをいただいています。

そして今回初めて申し込んでいただいた方を、結果的にお断りすることになってしまいました。

申し込みフォームを送っていただくのですが、皆さん参加動機の欄にご自分の熱い思いを書いてくださいます。

それがあまりにも簡単で、ブログを読んだのだろうか、私のことを本当に理解してくれているのか、また本気で私から何かを学ぼうとしているのか、まったく伝わってこなかったのです。

何度かメールでやり取りをして、「今回は参加を辞退させてください、改めて自分の気持ちが西本塾を必要としたら、改めて申し込みます」という言葉をいただきました。

私もそれに応え、「それがいいと思います、いつでも広島で待っています」と返しました。

西本塾は、単なるトレーナー養成講座でも、操体法やオクタントトレーニングの勉強会でもありません。

私が歩いてきた道の中で経験してきたことを、今現在悩みもがいている人たちにお話しすることで、私と同じ人間はできないにしても、私に直接出会うことのできないたくさんの人たちにも、間接的にお役に立てるかもしれないという思いで行っていることです。

塾生の皆さんには、いつもどこかに「西本直」という人間を感じていてほしいのです。

以前の私は、「来る者拒み、去る者追わず」要するに何も残っていませんでした。

今でもそういう部分は残っているかもしれません。

おそらくはまだ、私の技術を盗みたい、私と同じことができるようになりたい、そう思って参加している人もいるでしょう。

それは仕方がないことです、しかし、最低限のルールというか礼儀というものはあるはずです。

何回参加しても、その時々の参加動機や興味を持ってさらに深めたいことは違ってきて当たり前です。

それをきちんと伝えていただいてこその「深める会」です。

コピペして数行記入するだけの申し込みフォームですが、そこから伝わってくるものはたくさんあります。

気持ちが伝わってこない人には、こちらの気持ちも向かなくなります。

以前にも書きましたが、西本塾はみなさんとの真剣勝負です。

私は中途半端な気持ちで皆さんの前に立っていません、そのことをしっかり受け止めて参加してください。
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Re: 指導すること、やって見せること
西本塾ブラッシュアップ、いいですね。
これこそ私が期待していたことです。
3人寄れば文殊の知恵と言いますが、まさに3人それぞれが私から感じていただいたことを摺り寄せることで、新たな気づきがあったり深めることができたりと、自分だけでは得ることができない貴重な場を作っていただいたのですね。
こうして皆さんが深めていただくことで、自信をもってどこそこには誰々さんがいますから、と推薦できる方が増えて行くと嬉しいです。
月末にはまた来ていただけるとのこと、楽しみにしています。
  • 2014-05-07│13:42 |
  • 西本 直 URL│
  • [edit]
指導すること、やって見せること
お世話になります。
今回のblogも心に響きました。
GWの4日、予定通りに三宅さんと尾崎さんと西本塾ブラッシュアップを行いました。その後の取り組みと近況報告から始まり、それぞれに浮かび上がった疑問を、あの2日間の先生の言葉をを思い出しながら、お互いにアドバイスを送りました。中でも、この『ボールを投げるということ』では、サッカーボールを使って、お互いの動きを確認し「ボールの落ちる位置とタイミング」「先生はこういう意識でって言ってましたよね⁉」「右・右・右」と、階段を沢山作って検証と再現しました。野球未経験者の私達は、「まずはこのトレーニングで、自分たちが身体に負担が掛からない動きを身につけ、ボールを投げられるようにしよう」と再認識しました。
誰かのために、あなたのために…と、「からだほわっと」も練習しましたが、まだまだ打率が上がりません。引き続き、取り組みます。
今月末の「西本塾を深める会」、お世話になりますので、宜しくお願い致します。
  • 2014-05-07│13:15 |
  • 髙橋 直己 URL│
  • [edit]
気合が伝わってきました
今日(5/3)の篠田投手は残念ながら3回ノックアウトでした。
人のことを教材のように見てしまうのは失礼なのかもしれませんね。
しかし、やはり映像を見れば過去の登板との違いが確認できるのだろうかと思っているのですが、映像が見られないのは非常にもったいない思いです。

今回の記事は非常に参考になりました。西本さんの気合がこもった文章を堪能させていただいた気持ちです。
そしてやはり僕自身が手本を見せられるようにならないと、選手や指導者たちを黙らせることはできないと、改めて思いを強くしています。

開催予定の深める会にはまた動かしがたい予定が重なっていて、なかなか参加させていただくことができませんが、広島に伺って、西本さんの指導を受けたいと思っています。

またご連絡します!
  • 2014-05-03│16:54 |
  • 森孝寿 URL│
  • [edit]

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プロフィール

Author:西本 直
1993年、Jリーグサンフレッチェ広島を皮切りに、社会人野球三菱重工広島・協和発酵・ヴィッセル神戸・川崎フロンターレ、そして広島カープ佐々岡真司投手など、プロアマ問わず競技レベルのスポーツ選手から一般の方まで、トレーニングやメンテナンスの指導を行ってきました。
その経験と知識の蓄積を「西本理論」としてまとめ、一人でも多くの方に実践していただくことが、これからの私の使命であると信じ、このブログから発信していきます。
私の理論はスポーツ選手のみを対象としたものではなく、ビジネスマンや家庭の主婦まで老若男女すべてに当てはまる不変のものです。
指導や講演のご依頼も受け付けています。
実名でツイッターも書いていますので、チェックしてみてください。
また、2013年9月9日にConditioning Studio 操をオープンしました。こちらもご覧ください。
また、遠隔地にお住まいの方を対象とした動き分析とアドバイスを行っています。
詳細は「スタジオ操」のホームページ内の「遠隔サポート」をご覧ください。

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