投げる動作さらに詳しく その2

ほぼノンフィクションです。

「実際にボールを投げるつもりで、スローモーションで動いてください」指導する相手に向かってそう要求します。

右利きの選手で話を進めます。

左足を投げる方向に踏み出し、ボールを持つ右手が背中の後ろから上がってきて、上半身が投げる相手の方を向き、両肩と水平なラインで肘が回ってきたところで、ストップをかけます。

投げる相手に対して上半身は正対し、肘は地面に対して垂直方向を指し、手首と手のひらはすでに投げる相手の方向を向いてしまっています。

「いつもこうやって投げていますか」と確認すると、何度か同じ動作を繰り返し「はいこうやって投げます」と答えます。

その姿勢のままで居てもらって、私は正面に立ち正面を向いた手のひらと手首の境目辺りを、人差し指一本で支え、「はい、そのまま投げる動作を進行させるように、ボールを投げるつもりの手首の動きで、私の指を押してみてください」と指示します。

相手は私が指一本ですから、簡単に押せるものと思い、逆にこちらに気を使って軽い力で押そうとしますが、それではまったく押すことができないことに気づきます。

「もっとしっかり押さないと、私の指一本の力に負けてしまいますよ」と声をかけると、遠慮しながらも徐々に力を加えていきますが、私の指一本の力を押し込むことはできません。

そんなバカなという顔をしている相手に「あなたは150gにも満たない野球のボールとはいえ、私の指一本にも勝てないような力しかボールに加えられていないのですよ」と問いかけます。

次にそのままの姿勢で、相手の正面を向いている手首を、手首だけ90度内旋させます、内旋とは小指が前に親指が後ろに手首を捩じることです。

そうしてもらってから改めて支えている私の指を押してもらうのですが、手首が内旋している状態になると、とても指一本で支えられないことはこちらは分かっているので、親指と人差し指の付け根の広い部分でしっかり支える準備をしてから力を加えてもらいます。

すると先ほどまで指一本で止められていた手首は、こちらが体中の力で支えなければならないほどの力で押すことができるのです。

変わったところはどこか、唯一手首の角度だけです、手のひらが前を向いているか、投げる方向に対して左を向いているか、この違いです。

そしてまたてのひらを正面に向けてもらい、こちらはがっちり受け止められる態勢で押し込んでもらうと、指一本の時の比ではなく、まったく押すことができません。

「もし今の状態が漫画に描かれていて、あなたの肩や肘に吹き出し(セリフが書いてある囲み部分)が付いていたら、その中にはなんて書いてあると思いますか」と問いかけます。

一瞬間があり、「痛ぇとか、グキィとか、やばいって体が言ってそうです」と答えます。

「そうでしょ、あなたが今まで正しいと思っていた投げ方では、こんな力しか発揮できず、無理をさせて頑張ると肩や肘は悲鳴を上げ続けてきたんですよ」という私の言葉にうなずくしかないのです。

「でも西本さん、ボールを投げるのは正面方向ですよ、あなたの体に対する理屈はなんとなく理解できるけれど、現実的には手のひらがまっすぐ前を向かないと、正しい方向へボールを投げることができないじゃないですか、野球はダーツじゃないんだから」と、当然のように反論してきます。

こちらも待ってましたと次の動作をやらせます。

「ではまっすぐ立って目をつぶってください、そして右手を耳につくように高く上げ、小指を正面に向け手のひらが左を向くようにしてください。いいですか、そのまま力を抜いて右手を落としてください、何か作為的に操作して下すのではなく、あくまでも引力で落下させてください」

パタンパタンと、何度かやってもらうと、左を向いていたはずの手のひらは、落下とともに90度内旋して太腿をパチンパチンと叩いてくれます。

「どうですか、あなたは手のひらが左を向いたままではダーツのような投げ方になって、野球のボールは投げられないと言いましたが、今落下した手のひらは小指から太腿に当たりましたか、ダーツじゃないんだからと言いましたが、本当にダーツをやったことがありますか、ダーツの投げる動作も、ダーツが指先を離れた後、手のひらは内旋運動をしているんですよ」と畳み掛けます。

「いいですか、あなたたち野球経験者だと威張っている人たちは、良い投手の条件として球持ちが良いとかリリースポイントが打者に近いことを挙げるじゃないですか、手のひらが早く正面を向いた投げ方と、最後の最後まで左を向き、関節の仕組みで、体から一番離れたところで自然に内旋する投げ方の、どちらがその条件に適った投げ方か分かりますか」

「手首のスナッップを使えと教えますが、手のひらが早く正面を向いてしまったら、あとは招き猫のように手首を屈曲させるのが、あなたが言うスナップですか、やってみてください、そんなスナップでボールが投げられるわけないでしょう」

「あなたたちも、本当はそんな投げ方をしてはいなかったはずだ、招き猫のようなスナップで強いボールが投げられるわけがない、それよりも体の関節や筋肉がそういう動きができるようには作られていない」

「正しい体の仕組みや本当の動き方も知らないで、ただ感覚的に体を動かし、こうやって使っていたんだなどという低次元のレベルで、私と話をしないでほしい」

「そして自分の感覚が正しいものだと思い込んだまま、選手を指導しないでくれ」

私のものの言い方も、だんだん険しくなっていきます、ある意味けんか腰です。

それは相手が私の言っていることが理解できず、ただの理屈を並べているかのような反応になってくるからです。

自分はそうやって来た、そう教えられ自分もまたそうやって教えている、もしそれが間違ったことだと認めてしまうことは、自分がやってきた野球というものを完全否定されているに等しい、そのくらいの衝撃を受けるのでしょう。

きちんと説明をして、動きを確認し、さらにはその動きが正しくできている選手の動画などを見せると、なるほどそういうことだったのかと納得せざるを得ないのです。

それでも、「いやそうは言っても、そういう投げ方、体の使い方ではない大リーガーや日本のプロ野球選手もたくさんいるではないか」そう言ってなんとか自分を肯定しようと、躍起になって反論してきます。

確かに大リーガーの中には、こんな理屈などお構いなしの上半身は早く開き、肘は横振り手首も正面を向いた、いわゆるアーム式と呼ばれる投げ方の投手も多く見受けられます。

だから投げ終わった後、態勢が崩れてしまう投手が多いのです。

「体も頑丈で我々とは骨格も筋量も発揮できる筋力も桁違いの彼らですが、ではそういう投げ方で先発完投150球以上投げても、肩や肘がびくともしない、そんな選手がいますか」

そんな彼らこそ、力任せの投球では100球が限度、それ以上の連続動作は体を痛めてしまうことが経験上分かっているからこそ、先発投手は100球まで、あとはセットアッパーに任せ、最後はクローザーという専門職に任せるという分業制度が確立してきたのです。

悪い見本を盾にとって、あんな投げ方でもできるんだからというのは、自分の勉強不足の言い訳以外の何物でもありません。

投手として求めなければならない究極の動作は、いかに打者に近い所でボールを離せるか、イコール長くボールを持てるか、そして打者の目線からボールを隠し、視覚に捉えられている時間を100分の1秒でも短くできるか、さらには再現性のある同じ動作同じリリースポイントから、直球と変化球を投げ分けられるか、これがすべてなのです。

それが出来ての直球のスピードアップであったり変化球をもう一種類、となっていくのです。

投手の仕事はスピードガンコンテストで優勝することではありません。

バットという道具をもって、18.44メートル先に対峙する打者に、いかにタイミングよくスイングさせないかということなのです。

あたり損ねでも、守っている野手のいないところへ飛べばヒットになり、完璧に捉えられても野手の守備範囲に飛べばアウトになります。

それらはすべて結果論であって、投手として目指さなければならないことはこれまで述べてきた動作を完ぺきに身に着けていくという努力を続けるということなのです。

どんなに素晴らしいフォームを身に付け、ストライクゾーンぎりぎりを突くボールが投げられるようになっても、そのコースや球種を予測していれば、バットは届くのですから、結果として打たれることもあります。

そのレベルになってはじめて、機械のように完璧な動作を、相手に合わせてタイミングを変えたり、配球などの駆け引きという、本当の意味での私が立ち入れないプロフェッショナルな部分になってくるのでしょう。

残念ながらそれを感じさせてくれるレベルの野球を見ることはほとんどありません。

正しい動作が身に付いていないのですから、思ったところに投げ込めるわけがありません。

ただ一生懸命投げました、打ち取りました打たれました、そんな風にしか見えません。

制球力のない投手に、「とにかくストライク先行でいけ、打者を恐れるな」そんな指示が監督コーチから聞かれます。

こんな指示は職場放棄も同然です、テレビを見ている一般の人でも言える言葉です。

ではどうすればよいのか、どういう動きを目標として練習すればコントロールが良くなるのか、そのために必要な身体能力は、トレーニングのドリルは、体を使う意識は、すべてを指導できなくてなぜコーチという立場が与えられているのでしょう。

まだまだ言いたいことはありますがこれくらいにしておきます。

野球はあまりにも感覚的で、きちんとした理論がなさすぎます。

体の仕組みをもっと勉強しなければ、私の言っていることは理解できないかもしれません。

自分ができたからできなかったから、そんなことは関係ありません。

真剣に学び、真剣に伝えようとすれば、必ず正しい方向に導いてあげることができます。

一番大切なのは、それを受け取る選手の本気度、真剣さになってきますが、そういう意味で私の門をたたいてきた選手は、もう底なし沼の底に足がついてしまったような選手ばかりです。

「藁をもつかむ思いで」という言葉がありますが、底なし沼の途中であがいているうちは、まだまだ自分で何とかできる、誰かが助けてくれると思い込んでいるようですね。

そのうちにそのまま沈んで浮かび上がってくることができずに消え去っていく、そんな選手をどれだけ見てきたことか。

そして底なし沼だと思った沈んで行った先に、なんと底があって、その地面を懸命に蹴って這い上がろうとしている。

その底なし沼の主が私です。

ここまで沈んできて初めて私の言葉に真剣に耳を傾けなければならないと観念するようです。

私も相手を選びます、誰でも助けるという気持ちはありません。

私に対して本気で向かってくる選手でなければ、一緒に頑張ることはできません。

またそういう人間が現れてくれないと、私の思いをぶつける相手もいません。

縁がありました、今その作業を行っています。

もし広島に帰ってきていなければ、この縁はありませんでした、だから私にとっても大切な縁だと思っています。

一昨日の試合は大きな分岐点になりました。

失敗が二度続けば、少しずつ積み重ねてきた信頼も一気に消し飛んでしまったことでしょう、彼にはそこまでの実績も信頼もありませんから。

私にとっても大切な試合になると思い、彼には内緒で球場に行き投球を見届けました。

マイナスなイメージは持ちたくないですが、本人にもそして私の中にも口にこそ出しませんでしたが、もし今日ダメだったらの思いがなかったわけではありません。

しかし、正しい方向性と真剣な努力は彼を裏切ることはありませんでした。

結果的に勝ち投手の権利も得られ、また一緒に進んで行ける権利を彼は自分の力でもぎ取りました。

昨日、トレーニングに来た彼との会話でお互いの思いが重なり合い、まさに息子のような年回りの彼の父親になったような気持ちで、彼の健闘を称えました。

私なりに緊張していたのか、昨夜は早い時間から眠くなり、風呂にも入らずそのまま寝てしまいました。

こんな心地よい眠りも久しぶりです、誰かのためにはやっぱり自分に返ってきてくれます。

まだまだシーズンは始まったばかり、一年終わって結果はどうなるか分かりません。

結果だけのために指導しているつもりはありません、一日一日、一瞬一瞬を大切にして、何年後かに引退する日が来たとき、自分の努力に胸を張れる、そんな選手になってほしいと心から願っています。
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屈筋を利用したキックをさせる指導方法について
「第4回西本塾」に参加させていただいた村上です。

「どう動きたいかを意図・企画する能力」の第一弾として、「サッカーにてキックしたボールをとにかく遠くに飛ばしたい。」というテーマについて、自分なりに納得した結論が出ましたので西本理論を理解されている皆様に報告したいと思います。
同様のお悩みや興味がある方には、ぜひ実戦してみてください。

【今回のテーマを選んだ理由と経緯】

自分が現在、指導させていただいている少年サッカーチームで、出会ったほとんどの部員がキック力不足と感じており、4年前からキック力を上げる指導方法を模索していました。

「2014/01/06 : 西本理論 : ボールを蹴る筋肉 屈筋と伸筋」のブログを読んでみて、屈筋を利用したキックを実戦して見ましたが自分ではうまくできませんでした。

そこで4月に西本塾に参加させていただいた時に西本先生に、「ブログを読んで屈筋を利用したキックを実戦して見ましたが、自分ではゴールキックしても、ボールが遠くに飛ばない」と質問させていただきました。
西本先生からの回答は、「それは、屈筋を使ってないから。」との一言。

それ以後、屈筋を利用したキックを自分なりに研究したところ「パントキック」にたどりつきました。
※パントキックとは、ボールを空中で離し、地面にボールがつく前に蹴るキック技術です。

【指導方法について】

1.まずは、選手にパントキックをさせます。これが、この選手の最大飛距離の目安となります。
※パントキックが出来ない選手は、まずはパントキックが出来る様に指導してください。

2.次にワンバウンドさせたボールをパントキックさせます。これを2バウンド、3バウンドと繰り返し、4バウンドぐらいになるとほぼ、ボールを地面に置いて、ボールを蹴るのと同じ高さになります。ここが指導のポイントで、あくまでも「パントキック」で蹴らせます。地面に止まっているボールでもコンマ何ミリかボールがバウンドしているとイメージさせて蹴らせます。

これだけです。

【指導した結果】

指導した10人以上の小学生高学年の選手たちは、見事に屈筋を使ったキックをすることができました。飛距離についてはパントキックと同じ飛距離が出ました。選手みんなが、その結果にびっくりした顔が見れて嬉しかったです。

【今後の改善点について】

今回、指導した足のスイングでは、「第3中足骨の上部」に当てることが難しいようでした。もう一工夫が必要だと感じました。

【さらに発見したことが2つありました。】

1つ目の発見は、利き足以外の足でのキックにも効果がありました。(考えてみれば両足の屈筋の力は均等なので当然でした。)飛距離の面では、こちらの方が効果は高かったです。

2つ目の発見は、助走を行わないでもパントキックと同じ飛距離が出ることです。自分では助走がボールの飛距離を伸ばすに必要だと思って疑わなかったので、意外な発見でした。

この2つ目の発見については、思うところ(空手選手がキックするときは助走しなくても威力があるのと同じ?)があるので、理由については、もう少し深く考えてみようと思います。

【最後に】
今回のブログに記載されてました広島カープのS田投手ですが、自分はお会いしたことがありませんが、西本先生つながりで、今シーズンから応援しています。
このまま先生を信じて今シーズンから良い成績を上げて、選手生活を全うして欲しいと思っています。
話は変わりますが、今週開催される予定の西本塾in札幌についても西本理論を理解される仲間が増えることを楽しみにしています。
札幌はまだ寒そうなので、お身体にお気をつけてゴルフを楽しんでください。(笑)
では、また何か発見したら報告します。
  • 2014-05-12│00:59 |
  • 第4回西本塾」に参加させていただいた村上です。 URL│
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プロフィール

Author:西本 直
1993年、Jリーグサンフレッチェ広島を皮切りに、社会人野球三菱重工広島・協和発酵・ヴィッセル神戸・川崎フロンターレ、そして広島カープ佐々岡真司投手など、プロアマ問わず競技レベルのスポーツ選手から一般の方まで、トレーニングやメンテナンスの指導を行ってきました。
その経験と知識の蓄積を「西本理論」としてまとめ、一人でも多くの方に実践していただくことが、これからの私の使命であると信じ、このブログから発信していきます。
私の理論はスポーツ選手のみを対象としたものではなく、ビジネスマンや家庭の主婦まで老若男女すべてに当てはまる不変のものです。
指導や講演のご依頼も受け付けています。
実名でツイッターも書いていますので、チェックしてみてください。
また、2013年9月9日にConditioning Studio 操をオープンしました。こちらもご覧ください。
また、遠隔地にお住まいの方を対象とした動き分析とアドバイスを行っています。
詳細は「スタジオ操」のホームページ内の「遠隔サポート」をご覧ください。
今年2回目の西本塾を8月26・27の土日に開催を予定しています。
詳細はstudio操のホームページ内の「講習会情報」をご覧ください。
なお、今回も参加者が5名に満たない場合は開催しません。
9月10日には深める会も予定しています。

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