体の動きがキレてますね

昨日の代表戦、途中で寝てしまったので、ゆっくりビデオでチェックしました。

それにしてもアナウンサーや解説者から発せられる「体がキレてますね」という表現、これこそ日本語の曖昧さを端的に表している言葉ではないでしょうか。

私は指導者と選手の間で交わされる言葉は、お互いがその言葉の意味やニュアンスを共有できるものでなければならないと考えています。

指導する側として伝えたいことを言葉にするわけですから、この部分できちんと整理された言葉をもっていなければ、選手がそれをどう受け止めるかが、それぞれ選手によって違ったものになりかねません。

野球界で伝説のようになっている長嶋茂雄さんの擬音を使った感覚的な指導法、「強くビシッと、そう今の感じで」と、その場で指導を受けている選手にも、本当に指導の内容が具体性をもって伝わっているのか、理解に苦しむシーンがよく見受けられました。

松井秀喜選手とは、電話口を通して素振りの音だけを頼りに指導したという逸話もありますが、天才同士それだけで通じるものがあると言われればそれまでなのですが、凡人には生涯理解できない感覚だと思います。

最近話題の研究論文のように、第三者が記載されている実験内容どうりに追試すれば必ず同じ結果が得られるというところまではいかないにしても、自分が指導して伝えたはずのことと、実際に選手が受け止めたことが違っていれば、それははっきり言って指導したことにはならないと思います。

ですから私は選手にもある程度の解剖学的基礎知識をもってもらい、感覚的な理解ではなく、再現性のある共通言語で会話ができることを要求しています。

いきなりすべてを理解できるはずはありませんから、同じことを何度も繰り返さなければなりませんし、より分かりやすい説明も必要になってきます。

そうした中で、指導に対しての疑問点を具体的に質問してくれるようになったり、より深い説明も可能となってきます。

段階を踏んで進んで行くと、その会話には途中からは参加できないほど深く専門的なものとなって行きます。

そのためには伝える側のコミュニケーション能力を向上させることが必須となります。

いつまでも自分の経験や感覚重視の指導では、伝わるものも伝わりません。

そういう意味ではマスコミの使う曖昧な言葉には、正直辟易しています。

プロ野球のトレーニングキャンプでは、「今シーズンを乗り切るための体力強化を主眼として」と 、当たり前のように使われますが、誰がどう考えたって一年分の体力を貯金するなどということができるはずはありません。

またゴルフの中継でも、「今のスイングは股関節に乗っていませんね」と当たり前のように使う解説者がいますが、本人は股関節の構造や、そこに乗っているという感覚が正確に理解できているのでしょうか。

分かっていないからこそ、一般の視聴者に対して使える言葉なのだと思います、この言葉ほど解説者と視聴者の認識が一致しない言葉はないと思います。

例を出せば他のスポーツでも数え切れないほどあると思います。

その中で競技のジャンルを問わず登場するのが、今日のタイトルとした「体がキレてる」という言い方ではないでしょうか。

一般的に言えば、「たんに元気よく動き回っている」選手がそう言ってもらえる場合が多いと思いますが、動きの少ないアーチェリーや弓道でも、実際にはキレを感じる選手の動きはあります。

私は技術という言葉を「自らの意図(企図)した筋肉の収縮活動を、反復継続して行うことのできる能力」と定義しています。

読んで字の如し、まぐれで時々できますというレベルではなく、どんな状況でも繰り返し同じことができなければ、技術として身についたとは言えません。

もっと大切なのは、自分が意図(企図)しとこと、簡単に言えば自分がこういう風に動きたいと思ったことが、きちんとできなければならないということです。

私がよく使う言葉で、「頭の悪い選手はダメだ」というものがありますが、これは最も大事な「自らが意図(企図)」する能力のことを言っているのです。

言われたことができるのではなく、今この瞬間、自分が何をしなければならないのかを瞬時に判断する能力がなければ、高いレベルに作り上げた身体的な能力も、絵に描いた餅となってしまうからです。

サッカーであれば後半途中から投入された選手が、前半から出ずっぱりの選手に比べて元気があって走り回れるのは当然です。

日本のスポーツは、例えて言うとそのレベルを指してキレがある、という表現を使っている気がしてならないのです。

昨日の試合、後半13分くらいにピッチに入った大久保選手、今例を出した選手のように、ただたんに元気良くピッチに飛び出し、他の誰よりも積極的にボールを追い走り回ったのではありません。

しかし誰の目にも彼の動きには「キレ」を感じました。

鹿児島の合宿で、いわゆる体力的に追い込むトレーニングを多く行ったことで、選手の疲労はピークに達していたのだそうです。

途中出場とはいえ、前半のスタート時の選手たちの動きに比べても、明らかに彼の体は動いていました。

彼はそういう追い込むトレーニングも、過去には嫌という程やらされてきたと思います。

短かい期間でしたが、私が彼に伝えたことは、そういうトレーニングであっても、ただがむしゃらにこなすのではなく、いかに効率的に体を操って疲れにくい動き方を身につけるかということだったのです。

考え方としては、自分のもっている限界を超えるような追い込み方をして、いま以上の持久力なり走力を獲得するというものもあるでしょう。

しかしサッカー選手は、ただそういう能力が向上したことと、選手としての能力が向上することはイコールではありません。

私はそういう考え方の元に、いわゆる追い込み型のトレーニングは行いませんでした。

それよりも90分間自分の技術を発揮し続けられる体力を維持するためのトレーニングや、体の使い方を提案したのです。

彼の動きには他の選手のような、その場の地面を踏ん張って蹴って、地面の反力を使って体重移動によって走り出す、いわゆる力感はありません。

そいうい体の使い方ではなく、背中の筋肉がすっと伸びて骨盤を引きあげ、重心が移動し、それを足が追いかけてくれるという感覚で動いています。

だから無駄に筋力を使いませんから、他の選手に比べて疲労しにくいのです。

おそらくは追い込み型のトレーニングにも、この使い方は反映されていたと思います。

サッカーの専門の方は、判断が早いとか、相手の動きの先を読んで動いているところがすごいと、戦術眼的な部分で評価もされているようですが、もちろんそういう部分もあると思いますが、私はその動き方そのものが 、他の選手とは異次元の身のこなしで、それを当たり前のことのように見せてくれているところがすごいのだと思います。

私の影響を言ってくださる方もいますが、私が与えられたのはヒントだけであって、それを実際に表現してくれている大久保嘉人という選手が本当にすごい選手なのです。

彼にはいまほとんど無駄な動きが見えません、止まっているように見えても、いつでも動き出せるように股関節には小さなアイドリング動作が見えます。

そして滑らかにエンジンの回転数を上げることで、相手が気づかないうちにスルスルと離れたり、相手より一歩も二歩も早く動き出せることによって、自分のイメージ通りのプレーができるのだと思います。

ディフェンスを背負ってボールを受けるシーンでも、それほど大きくないというよりも小柄な身体で、相手の圧力に押されることなく力を吸収して、無理なくボールを受けています。

自分がイメージしたことを、無駄に体力を浪費することなく正確に表現していく、これが技術です。

こういう動きのできる選手に対して、「大久保選手本当に体のキレが抜群ですね」と、理由も含めて是非大きな声でアナウンスして欲しいと思います。
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プロフィール

Author:西本 直
1993年、Jリーグサンフレッチェ広島を皮切りに、社会人野球三菱重工広島・協和発酵・ヴィッセル神戸・川崎フロンターレ、そして広島カープ佐々岡真司投手など、プロアマ問わず競技レベルのスポーツ選手から一般の方まで、トレーニングやメンテナンスの指導を行ってきました。
その経験と知識の蓄積を「西本理論」としてまとめ、一人でも多くの方に実践していただくことが、これからの私の使命であると信じ、このブログから発信していきます。
私の理論はスポーツ選手のみを対象としたものではなく、ビジネスマンや家庭の主婦まで老若男女すべてに当てはまる不変のものです。
指導や講演のご依頼も受け付けています。
実名でツイッターも書いていますので、チェックしてみてください。
また、2013年9月9日にConditioning Studio 操をオープンしました。
また、遠隔地にお住まいの方を対象とした動き分析とアドバイスを行っています。
詳細は「スタジオ操」のホームページ内の「遠隔サポート」をご覧ください。
「第25回西本塾」を11月18・19日の土日に開催を予定しています。
詳細はStudio操ホームページ内の「講習会情報」をご覧ください
尚、深める会も12月9・10日に予定しています。

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