人に関わること

広島も梅雨入りしました。

ワールドカップ開幕まで一週間となり、マスコミの報道も毎日過熱する一方です。
日本代表も、故障上がりの選手を何人か抱え、コンディションが心配されていましたが、おそらく初戦には間に合わないだろうという選手も出てきてしまったようです。

こういう短期決戦、それも4年に一度となると、ここに照準を合わせ自分の体調をベストに持っていくというのは、本当に難しいことだと思います。

サッカーには接触プレーがつきもので、思わぬアクシデントによるケガはどんなに準備をしてもゼロにはなりません。

ケガをしてしまったときにどんな処置をして、どんなリハビリをし、そしてどんなトレーニングを行って、ケガをする前の状態、いやそれ以上の動きのできる体を作っていくのかが、選手としての将来にかかわる大きな問題となります。

私はこれまでそういう仕事を主にやってきましたが、その成否を決めるのは、結局選手との信頼関係が築けるかどうかだと思います。

医師の診断のもとに、この時期はこれができる、これをやらなければならない、逆に、これをしてはいけないという指示が下されます。

遅れず急がず、与えられたメニューを確実にこなしていくことが、選手にもそれを補助するトレーナーにも求められます。

その日々の取り組みの中で、今日なぜこのメニューを行わなければならないのか、この動きが明日にどうつながっていくのか、そして大きな変化はいつ訪れるのか、選手の不安を少しでも和らげ、かといって焦らせることもなく、しっかりと階段を登らせていくのがトレーナーの仕事です。

ただ今回のような大きな大会に臨む選手たちには、正直どういうスタンスで接したらよいのか、私には分かりません、何せ経験がありませんから。

この試合に出られたら、もう二度とサッカーができなくなってもいい、そんな悲壮な決意でピッチに立つ選手はいないと思います。

選手はサッカーが仕事であって、この大会がすべてではありません。

終わればそれぞれの所属チームに戻り、プレーを続けなければなりません。

そんな中でも、少し無理をしてでも可能であればピッチに立ちたいと思うのは当たり前だと思います。
国を代表し、子供の頃からの憧れであったワールドカップの舞台を目の前にして、そういう気持ちにならないことの方がおかしいと思います。

代表には23人の選手が選ばれています、誰かが出られなくなれば、待ってましたと代わりの選手が飛び出していきます。

対戦相手と戦う前に、チームの中での競争があります、23人に選ばれ、そして最終的に11人がピッチに立つ、それが勝負の世界です。

私はこれまで、そういう戦いの場で自分を何とかしてほしいという強い気持ちを持った選手を相手にしてきました。

個人と契約しているわけではなく、あくまでもチームと契約しているのですから、選手が何人いてもみんな平等に接しなければならないと言われることもありましたが、私は気持ちがこちらに向いていない選手には力を向けることはできませんでした。

今の子供たちは、何かにつけて平等意識を植え付けられ、運動会の徒競走で順位をつけないとか、学芸会で主役が何人もいたりとか、私の子供の頃には考えられないことが平等という言葉に置き換えられています。

ところが、歳を重ねるにつれて否が応でも競争社会に投げ込まれ、順位をつけられることに不安を持ち、逃避する人間が増えています。

スポーツの世界はその最たるもので、結果が全てです。

体のケアやリハビリ、また能力向上のためのトレーニング、それらのすべてにおいてチーム内での選手としての序列があり優先順位があります。

何でも平等ではないのです。

自分が本当に必要とされていれば、頼まれなくても面倒を見てくれる人がいます。

それが権利のように手を差し伸べられるのを待っている選手には、なかなか順番は回ってきません。

代表選手たちは、全員が大事な選手であり平等にすべてを与えられる選手たちです。

私が言えるのは、国を代表して戦うという気持ちと、自分のこれからをよく見極めて、冷静な判断のもとにピッチに復帰して最高のプレーを見せてほしいということです。

さて、オフシーズンから再生作業を行っていた投手(すでに名前は出していますが、あえて今日は出しません)が、今日から一軍を離れ二軍での再出発となりました。

詳しくは書けないのですが、彼にとっては良いことだと思っています、本人にもそう話をしました。

これまでの野球人生の中で、投手として目指さなければならない様々な要素を、彼はほとんど知りませんでした。
彼はというより、ほとんどの投手はと言った方がよいかもしれません。

私の中で作り上げてきた、投手としての動きの理想像ですから、同じことを考えている人がいない以上そうなることは仕方がないことなのかもしれません。

そうした中で短い期間ではありますが、彼はその本質を分かりかけてきました。

それは一朝一夕に修得できるものではありません。

開幕一軍を勝ち取り、ローテーションの一角としてマウンドに立ち続けてきましたが、理想像が見えてくれば来るほど、それが遠のいていくような感覚になってきました。

最初はどんなに意識の部分を説明しても理解できるはずはありませんから、形から入ります、そして動きができるようになればそれなりの結果が出ます。

しかし、結果が出なかった時こそ、自分を分析できる能力も養われてくるのです。

だから深く考え改善策を探り、修正を加えて次に備えようと努力します、これは彼にとってとんでもなく大きな成長です。

正しい動き、理想の動きが見えれば見えるほど、今の自分とのギャップが大きいと感じるのです。

ただ一生懸命投げている時の意識とは雲泥の差です。

結果が良ければ喜び、ダメだったらさっさと切り替えて、これで成長できるはずはありませんから。

彼に伝えているのは、プロの投手として活躍し続けるために絶対に必要な能力です。

こんなに早くある程度の結果を残せるとは思っていませんでしたし、こんなに早く壁にぶつかるとも思っていませんでした、
彼には本当の意味で、私の求める能力があったのです。

それを今、一生懸命引き出そうとして、一緒に努力しています。

今チームの状態は下降気味で、先発の一角を担う左投手として一軍を離れることは、チームに多大な迷惑を変えてしまうことになりますが、おそらくシーズン前にはこれほどの活躍をしてくれることを予想した人はいなかったでしょうから、このタイミングでしっかり頭と体を整理して、今度一軍に上がってくるときには本物の先発投手として大車輪の活躍をしてくれると信じています。

私はこうして選手と接するとき、たんに動きづくりのトレーニングやフォーム作りのアドバイスをしているつもりはありません。

お互い一人の人間として、縁あって出会ったわけですから、彼の人生に少しでも役に立つ何かを伝えたい、それがトレーニングであったり技術的な問題であったとしても、それ以前に、「おれはお前のことを何とかしてやりたいと思ってやってるんだ」という強い気持ちを、分かってもらいたいのです。

そんな重たいものはいらない、こちらが求めているものだけを伝えてくれればいい、最初はみんなそうでしょう。
でもそれでは何も伝わらないのです。

お互いが真剣に向き合い、同じ目標に向かって進んで行くことが確認できて、初めて道は開けるのだと思います。

厳しいことも言います、手を挙げることこそしなくなりましたが、真剣さが感じなければ、もう来てもらう必要はありません、縁もそこまでです。

どんな仕事でも人と関わらないものはないでしょう。

私の仕事はこういう仕事です、だから仕事だと思ってはやっていけないのです。

これまでもいろいろありました、こんな私ですから受け入れられない環境もありましたし、自分から離れていったこともあります。

これからもまだまだ色々なことがあるでしょう、その中で私が私でなくなったら、私の仕事は終わりです。

私にできることなど本当に小さなことで限りがあります、後継者も、弟子と呼べる人もいません。

そんな中、昨年から始めて西本塾の参加者の方が、私から学んだことを深め、様々な受け止め方をし、それぞれのフィールドで使っていただいていることを共有しようと、交流の場を設けていただきました。

私から何を得ようと思って西本塾に参加していただくのか、それぞれ自由です。

枝葉の技術や知識を得ようという動機で参加していただいた方でも、二日間私と接することで、「木を見て森を見ず」という言葉の意味に気付いていただいたり、根っこを掘り起こすことの大切さを学んでいただいた方も多いと思います。

50人余りの参加者の中で、どれだけの人がそう思っていただけたかは分かりませんが、そういう人たちがそれどれの言葉で、体験や感想を語り合う場ができたことで、西本塾の存在意義は高まったように思います。

私がまいた種が着実に芽を出してきたようです。

私がこの活動をいつまで続けるのか、正直分かりませんが、若い皆さんの活動を広島から応援しながら見させていただきたいと思います。
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  • 2014-06-23│00:24 |
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プロフィール

Author:西本 直
1993年、Jリーグサンフレッチェ広島を皮切りに、社会人野球三菱重工広島・協和発酵・ヴィッセル神戸・川崎フロンターレ、そして広島カープ佐々岡真司投手など、プロアマ問わず競技レベルのスポーツ選手から一般の方まで、トレーニングやメンテナンスの指導を行ってきました。
その経験と知識の蓄積を「西本理論」としてまとめ、一人でも多くの方に実践していただくことが、これからの私の使命であると信じ、このブログから発信していきます。
私の理論はスポーツ選手のみを対象としたものではなく、ビジネスマンや家庭の主婦まで老若男女すべてに当てはまる不変のものです。
指導や講演のご依頼も受け付けています。
実名でツイッターも書いていますので、チェックしてみてください。
また、2013年9月9日にConditioning Studio 操をオープンしました。こちらもご覧ください。
また、遠隔地にお住まいの方を対象とした動き分析とアドバイスを行っています。
詳細は「スタジオ操」のホームページ内の「遠隔サポート」をご覧ください。
今年2回目の西本塾を8月26・27の土日に開催を予定しています。
詳細はstudio操のホームページ内の「講習会情報」をご覧ください。
なお、今回も参加者が5名に満たない場合は開催しません。
9月10日には深める会も予定しています。

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