動きの再構築

二日間、正確には一日半のトレーニングを終えて、選手が帰って行きました。

今日のトレーニングを第三者が見ていたとしたら、彼が両膝とグローイングペインの手術を受け、この数年間リハビリに明け暮れ、まともにサッカーが出来ていない選手だとは思わないでしょう。

それくらいしっかりした動きをしてくれました。

医学的にはきちんとした手術を受け、教科書的にも間違いのない段取りを踏んでリハビリを行ってきたのにもかかわらず、現実にはサッカーが出来る状態には戻ることが出来ていませんでした。

グローイングペインに関しては、イタリアで手術を受けリハビリも行い、左右の膝の手術は日本で受け、病院やチームのスタッフ、また私もお会いしたことのあるドクターが開設したリハビリ施設にも通い、自分で出来ることはすべてやってきたのでしょう。

それでも復帰はかないませんでした。

人間の体も痛みに対する感覚も、まさにそれぞれ違います。
ドクターの指示の元、決められたメニューをこなして行くだけでは、日常生活には支障のない状態には戻れても、スポーツ選手それもトップレベルのアスリートとしての動きを取り戻すことは容易ではありません。

そのまま第一線から退いて行った選手は数え切れないくらいいるでしょう。

では私は何をしたのか、まずは事実として過去どういう怪我をしてどういう処置をしたのかという情報を、出来るだけ正確に把握することです。

それを踏まえた上で、今度は私の感性で体をチェックして行きます。

単純な関節の可動域や、筋肉の柔軟性を見るのではなく、体全体がどう連動して機能的に動いているかという部分を見ます。

そして本人が体を使う動かすという行為を、どういう意識で行っているかを見極めることが必要になってきます。

実はここが一番大切で、一番難しい部分なのです。

本人すら気づいていない体の使い方の意識を、私の目に見えたことを、相手が理解出来るような言葉で説明し、それが解決できなければ、今の状況を脱することができないことを、本当にそうだと思ってもらわなければ始まらないのです。

正しい体の動きを身につける、無理なく無駄なくという効率的な動きとは何かをしっかり理解してもらうのです。

これが私の指導するトレーニングの基本で、10年20年と同じことを言い続けている部分です。

体は日本人でも外国人でも同じ筋肉があり骨があり、何ら違うところはありません。
ただその体を、長い年月をかけて何を食べ、どう使ってきたのか、ここには大きな違いが生じてきます。

自分が正しいと思って行なってきたトレーニングや体の使い方の意識が、正しいものでなかったとしたら、間違っているとは言わないけれども、もっと良い動き方があったとしたら、それを知らないで現状を続けていても、良い方向へ変化するわけはありません。

その自分が正しいと思っていることの既成概念を取り払い、シンプルに体を動かすにはこういう意識で動くと、楽に動けますよという提案を体に向けると、間違いなく体はそのやり方を選んでくれます。

当たり前のことです、今まで歯を食いしばってもできなかった動きが、何の苦もなく出来たとしたら、無駄に体に負担をかけ苦しい思いをしようとするはずがありませんから。

彼にも徹底して体の使い方を指導しました。
昨日まで不安でできなかった動きが出来てしまう、昨日の外のトレーニングで、あれだけ走っていろいろなステップを行ったのに、今までであれば、翌朝になっても来るはずの膝の痛みがこない、それよりもこれまで使えていなかった背中の筋肉が驚いて悲鳴をあげているという、初めての経験をしたと、今朝嬉しそうに話してくれました。

怪我をした今のような状況になっている選手で怖いのは、怪我をしていなければ自分はこんな選手になっていたはずだという、自分に対する過大評価です。

本当の自分が認識出来ておらず、タラレバが続く選手も多く見てきました。

正確な自己分析があって、初めて目指すべき高みが見えてきます。
そこを見極める手助けをするのも私の仕事です。

今日の終了時点で、私が常時診てあげられる立場にいれば、遅くとも2週間位では通常練習に入れることは出来るのではと思いました。

手術した膝はもう元のようには戻りません、しかし、その膝を使って、まだまだ選手生活を続けなければならないのであれば、無い物ねだりではなく、今現状の体をどういう風に使って、膝や鼠径部に負担をかけないで済むかを考えた方がよほど現実的で正しい方向性だと思います。

昨日、地面を蹴って足の裏で着地し、膝に大きなストレスを感じる走り方ではなく、股関節をフリーにして一番負担のかからない重心の位置に、足をおいて行く走り方を指導しましたが、これまで指導した方々と同じよに、不思議なくらい走れるしターンもできる、魔法にかかったようだと不思議な顔をしていましたが、それが本来の人間の走り方なんだよという説明しかありません。

私が考えたのではありません、一流選手がみんなやっていることの受け売りです。

彼の取り組む姿勢は素晴らしいものでした。
私の発する言葉を一言一句聞き漏らさないように真剣に耳を傾け、実技の合間には忘れないようにと確認し、東京に帰ったらすぐにでもトレーニングに行きたいという顔をして帰って行きました。

何かをやらせようにも不安げな顔をして、まだ痛みがあるのになぜこんなことをやらせるのだろうという顔をされたら、とても指導は出来ません。

こちらもプロとしてたくさんの選手に接し結果を残してきた人間です。
信頼して任せてくれなければ何も出来ません。

今回のようにわらをも掴む想いできた選手は、そういう意味で素直に話を聞き、指導を受け入れてくれます。
それだけに責任も重く、中途半端な指導は出来ません。

近い将来彼がまた表舞台で活躍することを信じて、せっかく出来た縁ですから、見守って行きたいと思います。

私がやっていることに興味を覚える人も多いと思いますが、いたってシンプルです。
特別なことなど何もありません。
相手を見て、相手のために何ができるかを考える、これだけです。

気をてらったようなトレーニングではなく、体の機能に沿って、無理なく連動させ、筋力も筋持久力も明らかに優位な伸筋を使えるように意識付けして行くのです。

必ず動きが変わります、あとはその意識をどう継続させるか、本人の努力はそこから始まります。
この二日間を無駄にしないよう、しっかり継続してもらいたいと思います。

自分にしかできないと思える仕事は、やはりやりがいがあります。
自分の思った通りに変化して行く様子を見ていることはとても楽しいです。

動きを変えるために一番大切な、意識の改革、今回はうまく行ったと思います。

復帰し活躍してくれることを信じて朗報を待つとしましょう。
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こんにちは。

その選手、あの選手かな?と思っていたら、過去のコメントをたどるとやはり、あの選手でした。

僕の住んでいる近くのチームに所属しておりまして、かつそのチームには僕の教え子が何人かおります。
ずーっと怪我で…というのは聞いていたのですが、西本さんの指導のもと彼のプレーがまた見れるようになると思うとワクワクしています。(チームの調子もそれ程よくなく、チームメイトも彼が早く復帰してくれたら…と前々から言っていました。)

そのくらい、ユース年代ではスーパーな選手でした。

彼が復帰した際は試合を観に行って来たいと思います!




  • 2014-07-02│17:49 |
  • 鬼木 URL│
  • [edit]
Re: タイトルなし
話だけでもと言われても、お答えのしようがありません。
このブログを最初から隅から隅まで読んでいただければ、私の経験してきたことや考え方は分かると思います。
それ以上の人間でも、それ以下の人間でもありません。
ブログを読み込み、それでもまだ直接私にあって自分の目で見て体験したいという方が多くなったため、「西本塾」という形で勉強会を開いています。
来年以降は未定ですが、今年いっぱいは予定を決めて開催しています。
詳細はホームページの方で募集告知をしますので、本気で勉強しようという気持ちがあれば参加してください。
  • 2014-07-01│16:45 |
  • 西本 直 URL│
  • [edit]
初めまして。
今年3月柔道整復師になりました。
今は鍼灸師になるため
学校に通っております。

西本さんの記事をnumberで初めて読んだ時に
とても衝撃をうけました。

お話を聞くことだけでもできますか?
  • 2014-07-01│14:36 |
  • 橋本 URL│
  • [edit]

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プロフィール

Author:西本 直
1993年、Jリーグサンフレッチェ広島を皮切りに、社会人野球三菱重工広島・協和発酵・ヴィッセル神戸・川崎フロンターレ、そして広島カープ佐々岡真司投手など、プロアマ問わず競技レベルのスポーツ選手から一般の方まで、トレーニングやメンテナンスの指導を行ってきました。
その経験と知識の蓄積を「西本理論」としてまとめ、一人でも多くの方に実践していただくことが、これからの私の使命であると信じ、このブログから発信していきます。
私の理論はスポーツ選手のみを対象としたものではなく、ビジネスマンや家庭の主婦まで老若男女すべてに当てはまる不変のものです。
指導や講演のご依頼も受け付けています。
実名でツイッターも書いていますので、チェックしてみてください。
また、2013年9月9日にConditioning Studio 操をオープンしました。
また、遠隔地にお住まいの方を対象とした動き分析とアドバイスを行っています。
詳細は「スタジオ操」のホームページ内の「遠隔サポート」をご覧ください。
「第25回西本塾」を11月18・19日の土日に開催を予定しています。
詳細はStudio操ホームページ内の「講習会情報」をご覧ください
尚、深める会も12月10日に予定しています。

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