止まることとその場にとどまることの違い

いきなり本題に入ります。

スポーツ選手にとって走るという行為が重要なのは言うまでもありません。

その競技種目の特性に合わせて、同じ走るという行為に求められる能力は、当然ですが微妙に異なってきます。

陸上競技のトラック競技やロードレースでは、単純にスタートからゴールまでの時間を競いますから、その目的に特化した走り方というものが存在することは当然だと思います。

しかし、他の競技を行うに当たって、走り方に関して陸上競技と同じ感覚でいいのかという問題は、過去このブログで何度も取り上げてきましたので、ここでは割愛します。

私の提唱する体の使い方で、静止した状態から股関節と肩関節を縦に連動させ、体の水平面を捩じることなく前に進むという感覚を身に付けると、指導を受けた方はほぼ例外なく、今までの走るという行為との違いに驚きます。

いわゆる筋力というものを使っている感覚はほとんどありません。

自分の体重を移動させるために、強く地面を蹴ったり、ストライドを広げるために太腿を強く引き上げ、腕を前後に大きく振るとか、ピッチを上げるために腕を速く振るという感覚もありません。

にもかかわらずスムーズに加速し、自分が思った以上のスピード感を得られ、なおかつ何度も練習のために短い距離ではありますが、走ることを繰り返しているのに、疲れを感じない。

この疲れを感じないという言い方は、今までの走り方で同じ距離同じ本数をこなしていれば、おそらく疲労の度合いはこんなものではないであろうという、人間としての経験値にもとづく感覚です。

この感覚もほぼ全員が同じ感覚になりますから、間違ってはいないと思います。

スピードの上げ下げ、スタート時の動き出し、ターンやスラローム走などのドリルを繰り返しているうちに、指導されていることが特別なことではなく、今やっていることの方がずっと自然な動作であることに気づきます。

ならば今まで当たり前だと思わされてきた走るという動作は一体なんだったのでしょう。

歩くことも同じです、軍隊の行進のように、手を大きく振り、上半身と下半身をしっかり捩じる歩き方が自然だと思っている人はいないと思いますが、なぜか子供の頃から、行進の練習といえばあの歩き方を指導されてきたのです。

走ることに関しても、たとえば卓球の選手がラケットを持って、卓球台の周りをものすごいスピードで飛んでくるボールに対応し、打ち返すために、陸上選手のような走り方ができるわけがありません。

それでもトレーニングとして走るという動作を行う時には、みんな同じ動きになってしまうのです。

走るという動作をトレーニングとして行う際の目的は何なのでしょうか、たんに心肺機能を養成するのなら、卓球の動作であるラリーを延々続けていることの方が意味がありそうですし、下半身の強化というのなら、別にもっと効率的な方法があります。

我々日本人は、走るという動作の目的をどこかで見誤ってしまったのではないでしょうか。

バツとしての長距離走など、根性論にすり替わって、トレーニングには欠かせないもの、走ることこそがトレーニングだと思わされてしまっただけなのではないでしょうか。

走ること自体が嫌いになってしまっては、本来身に付けなければならない競技動作や戦術的な指導も、思ったほどの効果を上げることができなくなってしまいます。

私が提唱している走り方というのは、走るための走り方ではなく、競技動作の一つとしての走るという動作なのです。

実際に指導を受けた方々が、それぞれの立場と環境の中で、それぞれの対象者に広めて成果を上げていただいています。

当然の結果です、こうやって走った方が楽に速く走れて、ボールを蹴ったりラケットを振ったりとう本来の競技動作がしやすくなるのですから。

走ることが直接的な目的である陸上競技の選手にも、この発想が取り入れられ成果を出してくれている選手もいます。

既成概念から離れて新しいものを取り入れることは難しいとは思いますが、自分がやってきたことが本当に正しい唯一無二の方法なのかを、もう一度じっくり考えていただけば、その根っこが実は怪しいもので、それしかないと信じ込まされたものだったことに気づいていただくことに、そう時間はかからないと思います。

そんななか、先日も改めて指導を受けたいと来ていただいた方からこんな質問がありました。

このことはすでに私の中で、指導する際にきちんと押さえておかないと、こういうことになるなと思い、最近の指導ではテーマとして加えていました。

それは「止まる」という状態をどうとらえるかという問題です。

止まるという感覚を間違えると、次の動き出しやターンという動作にもつながっていきません。

質問されるときの論旨はほとんどの方が同じです。

私の言う正しい体の使い方で、自分の思った場所まで到達した、サッカーで言えばボールをもった相手の前にいち早く到達し、静止してディフェンスの態勢を取った、さて次の動きへの対応と意識はどうすればいいのですか、というものです。

私の目の前でその態勢を取ってもらうと、私はいとも簡単にその人の左右どちらかを抜いていくことができます。

これではどんなに早くその場に到達しても意味がありません。

何が起こったのか、相手は私の前で「静止」してしまったのです。

攻守交代して私が相手の前に立ちふさがり、フェイントをかけて私をかわしていこうとする相手の動きに対応して、簡単に抜かれることはありません。

何が違うのか、私は相手の前に立ちふさがって、その場所には居続けていますが、走るという行為の実際のやり方でじっくり説明した、アイドリングの状態は続けていたのです。

今の車は、省エネや環境保護のため、信号待ちの際エンジンが止まってしまい、ガソリンを消費しなくなります、青になってアクセルを踏めば何事もなかったように、スムーズに発信してくれます、アイドリングストップという素晴らしい技術の進歩です。

しかし、我々人間の体はそうはいきません。

走ってきました、相手の前に仁王立ちで両足を踏ん張り、その場に居付いてしまっては、次に起こる相手のフェイントをかけながらの動きについて行けなくなってしまうのです。

どちらかの足に体重がかかってしまえば、逆方向に動くにはもう一度踏ん張りなおすという動作が必要になり、相手はそこを狙ってフェイントをかけ、態勢を崩そうとしているのですから。

私がやったことは、走り方の練習の基本である、骨盤を引き上げ股関節の自由度を確保し、足首膝を柔らかく使ってその場で足ふみをする、その際股関節を前後に動かさず、上下に動かすことで肩甲骨・肩関節との連動性を高め、前後左右どちらの方向にでも動き出せる状態を作り、その動きを早めて、つま先が浮いて歩幅が広くなっていくことが、結果的に走るという行為に変化していくというドリルの、逆を行ったのです。(走るという行為のページ参照)

素早い上下の動きがスピードを生み、全身がくねくね動くように見える一見不格好な動作ですが、目的地に到達しスピードを瞬間的に緩めるという、動き出しの感覚の真逆を行うことで、その場所には居続けているけれども、体の中の動きは止まっていない、つまりアイドリング状態を保っているという感覚が、私の言う「止まっている」ことで、質問者の言う「止まる」という状態とは全く違うものです。

これがわかれば、止まることから動き出すこと、さらには方向転換やスピードの上げ下げなど、一連の動作をスムーズに行うことができるようになります。

言葉でいうのは簡単で、実際にやってみると難しいということが世の中には多いですが、1時間と少し屋外で一緒に走って体験していただければ、ほとんどの方はなるほどそういうことかと納得していただいています。

その先、人のお手本になるような動作まで練り上げていくのは、もちろん練習が必要になりますが、持ち帰って教えた子供たちの方がさっさとできるようになって、大人を悔しがらせるなどという報告もたくさんいただいています。

既成概念に縛られた大人と、自由な発想で取り組んでくれる子供の違いだけです、難しいことでも何でもありません。

大人は今回のW杯の結果を踏まえて、まだ走りきれるスタミナがどうのこうのと言っています。

残念ながら仕方がありません、5年後10年後、私の提唱する走り方が当たり前のことになってくれれば、体力スタミナ強化のための意味のない走り込みなどという、選手にとってありがたくないトレーニングは必要なくなってくると思います。

そう聞くととラッキーと思っている選手がいると思いますが、もし私がその立場で指導をするなら、その時間を使って、もっとうまく動けるようななるためのドリルや、ボールを使ったドリルを、たくさんやってもらいますから、結果的にはただ走っていた方が楽だったのにと、泣きが入るかもしれませんよ。

何のために走るのか、しっかり考えて動作を突き詰めてみませんか、みんながやっているから、自分もそうやって来たから、それでは何の説明にもなっていませんよ・・・。
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プロフィール

Author:西本 直
1993年、Jリーグサンフレッチェ広島を皮切りに、社会人野球三菱重工広島・協和発酵・ヴィッセル神戸・川崎フロンターレ、そして広島カープ佐々岡真司投手など、プロアマ問わず競技レベルのスポーツ選手から一般の方まで、トレーニングやメンテナンスの指導を行ってきました。
その経験と知識の蓄積を「西本理論」としてまとめ、一人でも多くの方に実践していただくことが、これからの私の使命であると信じ、このブログから発信していきます。
私の理論はスポーツ選手のみを対象としたものではなく、ビジネスマンや家庭の主婦まで老若男女すべてに当てはまる不変のものです。
指導や講演のご依頼も受け付けています。
実名でツイッターも書いていますので、チェックしてみてください。
また、2013年9月9日にConditioning Studio 操をオープンしました。
また、遠隔地にお住まいの方を対象とした動き分析とアドバイスを行っています。
詳細は「スタジオ操」のホームページ内の「遠隔サポート」をご覧ください。
「第25回西本塾」を11月18・19日の土日に開催を予定しています。
詳細はStudio操ホームページ内の「講習会情報」をご覧ください
尚、深める会も12月10日に予定しています。

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