骨を動かす意識

「筋肉の仕事は骨を動かすこと、それ以上でも以下でもありません」

これが私の体に対する基本的な考え方です。

これを基本として考えることで、「力んでいる」という状態や、屈筋に頼らず伸筋の自然な収縮で運動が行われているといった状態を判断することが出来ます。

では骨を動かすという意識で体を操るためには、どういう意識が必要になるのでしょうか。

施術として操法を行う場合、相手の動きを、まさにその意識で行わせることが、全身の筋肉と関節の連動を誘発させ、体の歪みを改善していくための絶対条件となります。

体操と操体の違いはまさにここにあると思います。

普通人間は、体を動かすという行為に対して、何処かの筋肉に力を入れることだという認識を持っています。

肘を曲げたり伸ばしたりするという、単純な動きであれば、上腕二頭筋と三頭筋に力を入れることを意識すれば事足りると思ってしまいます。

少し複雑な幾つかの関節の動きを組み合わせた動きを求められると、「どこの筋肉を使えば良いのですか」と、具体的にどこに力を入れたら良いのか質問して確認しようとする人もいます。

そこには筋肉に力を入れるという概念はあっても、骨を動かすという意識はありません。

しかし現実に求められているのは、人間が動くこと、イコール関節の角度を変えて行くということですから、その角度を変えていく時のスピードや、どこまで動かして行くかなど、動きそのもののはずです。

ゴルフの宮里藍選手が、1スイングに1分間くらいかけてゆっくりスイングし、正しい骨の位置を確認しながら、脳と筋肉にその動きを覚えこませて行くという練習をするそうですが、速い動きではごまかしてやり過ごしてしまうような微細な動きを確認しているのでしょう。

体のバランスを整え、健康のために自分で行う操法を行う時に、この「骨を動かしているという感覚」 がわかるようになると、私の書いた本の中に紹介した幾つかのパターンの動きにも深みが出ると言うか、私が本当に求めていた動きに近づけるのではないかと思います。

どうしても角度はどうの回数はどうのと、体操や運動を行う時のような感覚で行ってしまい、そういう意味の質問を受けることも多くありました。

今回、仰向けに寝たままで行う「踵伸ばし」という動きを例に、骨を動かすという感覚を探してみたいと思います。

まずはこの「踵伸ばし」というネーミングが微妙で、この言葉を聞いたり、文字で見て動作を行おうとすると 、真っ先に意識がいくのは踵そのものです。

仰向けに寝られる人はその場で横たわってみてください、「気持ちを楽にして右足の踵を伸ばしてください」という言葉に応じて体を動かしてみてください。

いかがでしょう、体の末端にある踵という部分を伸ばそうとすると、かなり無理があるというか不自然な動きになりませんか。

踵自身が伸びていくはずはありませんから、少なくとも下半身全体に力が入り、上半身も下半身を動かすためにぐっと力を入れてしまうかもしれません。

これでは本来の目的である、踵を押し出すように動かすという意識から、体全体がどう連動し、骨盤の動きを誘発し、それに伴って背骨から肋骨、肩甲骨から肩関節、そして首から頭の先まで、あくまでも自然な骨の連動を促すことにはなりません。

まさに踵を伸ばすためには、どこに力を入れたら良いのだろうということを、体に考えさせているだけです。

ではどうすれば骨を動かすという感覚になれるのか、骨を動かすのが筋肉の仕事なのですから、筋肉を差し置いて骨だけを動かすなどという言い方は、理屈に合わないはずです。

それでもなお私が、筋肉ではなく骨だけを動かしている感覚に固執しているのかというと、今、「筋肉を使って体を動かしている」と実感出来る時に使われている筋肉こそが「屈筋」だからです。

「伸筋」は、そういう感覚がないままに、骨だけが動いていると思えるほど微妙な働き方をしているのです。

だから、この骨だけを動かしている感覚こそが、「伸筋」を正しく機能させられている状態なのです。

この感覚をつかむことが、スムーズな動き出しやスピードの切り替えを可能とし、無駄な動きを排除することで疲れにくい動きが出来るようになります。

強さという面でも、屈筋に頼らず相手の力を吸収する体のぶつけ方という使い方にもつながります。

西本塾で指導していることの根本は、この「骨を動かす意識」を理解し身につけてもらうことなのです。

私が実技のデモンストレーションでお見せしている「技」に近い身のこなしは、そういう意識の元に行われているのです。

仰向けに寝て踵を伸ばす動作に一工夫入れてみましょう。

まずはどちらかの脚の膝を曲げて、足の裏を反対側の足の太ももあたりに置いてください。

こうすることで伸ばした足の骨盤が少し浮いて、骨盤自体と股関節を動かしやすくなります。

この姿勢から、骨盤を意識して、伸ばしている足のお尻を踵方向、下向きにそーっとずらしてみてください。

いかがですか、多分筋肉を使って体を動かしたというよりも、骨盤を伸ばした足の方へずらしたという感覚に近づけたと思います。

もう一度やってみましょう、伸ばした足の方へ骨盤(骨ですね)をずらした、それにつられて背骨が動き肩甲骨から肩・首そして頭の先、さらには肩から肘、手先まで、骨という骨が連なって動いてくのが感じられるはずです。

まてよ、この動きは踵を伸ばす、押し出すことが目的ではなかったのか、そうです、もちろん骨盤の動きは股関節から太ももの骨を伝わり、膝から下の骨にも伝わって、結果として踵という部分も動かしています。

ですからこの動きを求める時に「踵伸ばし」という言葉を使ってはいけないのです。

どうしても名前が必要と言うならそれも仕方が無いかもしれませんが、実際に行う時には、もしかしたら一番使ってはいけない言葉かもしれません。

いや自分はやっぱり筋肉を使って動かしている意識が強いという人も多いでしょう。

これこそまさに筋肉あり気の既成概念から抜け出せていない証拠です。

骨を動かすという強い意識を持ってください、後は自然に体が動いてくれます。

そうなるまで練習です、自分は出来ない、そんな動き方など出来るはずがない、そう思ってしまうのならそれも仕方が無いでしょう、意識を変えることほど難しいことはありませんから。

ただ出来てしまえば、体自身がどちらの動きを選ぶか、それは明らかです。

筋肉あり気の力任せの効率の悪い動きを、体が続けようとするはずがありませんから。

何度も言いますが一朝一夕で出来るようになるものではありません。

きちんと頭と体で理解し、継続しなければ身につくはずはありません。

「筋肉の仕事は骨を動かすこと」、その本当の意味は、意識して屈筋を使うことではなく、「骨を動かすために働いてくれている伸筋の自然な連動」によって行われているということです。




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No title
さっそくのご指摘ありがとうございます。
人間は一つの事しか意識出来ない、これを痛感しました。
実技の時は、西本先生の肩甲骨の動きに目を奪われていました。
もちろん、骨盤を引き上げて、広背筋を使い、上腕骨が後方へ引かれている状態が出来ていての事ですが、あの肩甲骨の動きは初めて見ました。
私の体の感覚でも同様の事をしたいと思う気持ちが、肩甲骨一つに意識を集中してしまった原因ですね。
今後は骨盤を前後ではなく、縦に動かす意識をもって走ってみます。
とはいっても骨盤を縦に動かす感覚を掴むのにまた直接指導を頂きたくなると思いますので、その際は深める会へ参加しますので、宜しくお願いします。
また、長く走る時に疲れるのが、肩や上腕、上半身との事ですが、とても共感します。上半身が重く疲れてきて、背中が丸まり、酸素を上手に吸えなくなり、酸素供給が間に合わなくなり、足が重くなる。何度繰り返したことか。
ですが、西本塾で学んだ、ゴミを捨てて走る動きをすると、不思議なくらい肩に疲れがでません。なぜ、今まで肘を曲げて走っていたのか疑問に思うほどです。
今後も、継続して走り続けます。
また、質問などさせて頂きますが、何卒宜しくお願いします。

  • 2014-09-04│06:40 |
  • 望月 URL│
  • [edit]
こういうコメントを待っていました。
望月さん、コメント&質問ありがとうございます。

西本塾での二日間をさっそくお仕事に活かしていただいているようで何よりです。

私の伝えたことを入り口と考え、これからそれぞれの感性で深く進んで行っていただければいいと思います。

質問に関してですが、二日目の実技で私が見せた動きが、少し誇張した動きをやってしまったためか、股関節の動きと肩甲骨の動きの連動に関して正しく伝わっていないように感じます。

「筋肉を使って走らない」という感覚自体は間違っていないのですが、「肩甲骨を走る方向に押し出す」という表現は少し私の動きとは違っています。

私が実際に「走る」という動きの最中に意識しているのは、骨盤を縦に動かすということだけです。

それを可能にしているのが、広背筋による骨盤の引き上げであり、上腕骨の上後方への引き上げなのですが、お話ししたとおり、人間は一か所しか確実な意識はできませんので、私は骨盤を縦にということだけに集中しています。

肩甲骨を前に押し出すというイメージは、柱の間をスピードの切り替えをしながら走ったり、スラロームやターンの練習をした時に私が見せた動きのイメージが強すぎたのだと思いますが、その際にも、前に押し出すというよりも、肩甲骨を後ろから下に回し下すという感覚で動いています。

それが重心を下げてギアチェンジをし、肩甲骨を前方に押し出しているように見えたのだと思います。

短い時間で細かいニュアンスを伝えることは難しいことですね。

実技の時の動画を見返すと、望月さんの動きは、やはり上半身を起点にして、肩を動かして走っているように見えます。

他にもそういう人が見られましたが、繰り返し練習しているうちに、骨盤と股関節の意識に変わってくれればいいと思っていました。

見る限り、肩甲骨というよりも肩自体を前に振りだしているように見えますが、この動きはご指摘の通り、大胸筋の上部や三角筋の前部繊維、また上腕二頭筋を使ってしまうため、肩関節を固める動きになり、結果血行を阻害してしまいます。

走るという動きには、極力上半身を使わないことが、疲れにくい走りの絶対条件になります。

実技では短い距離のスプリントしかできませんでしたが、一定スピードを維持して長距離を走る際には、骨盤を前後に動かさず、高い位置に保持して、骨盤を最低限の上下運動をさせることで、左右の股関節の自由度を交互に確保することで、自然に足が振りだされるというのが理想だと思います。

長距離を走って疲れるのは、意外に背中や腕、または肩といった上半身に出てくるものですが、これこそ余計な動作である、二頭筋を使って肘を曲げ、その肘を振ろうすることを動力源として走っていることに他なりません。

歩きから走りへのスムーズな移行、そのために最も大事な動きは骨盤の上下動です。

肩甲骨を回し下す使い方は、あくまでもギアチェンジや方向転換の時に必要なことと理解してください。

こういう質問をしていただけると、また直接指導をさせていただきたくなりますね。

私の理論を広めていただくためには、まずはご自分が自信を持って、自分の体で表現できるようになることが一番大事なことだと思います。

是非継続していただくようお願いします。
  • 2014-09-03│22:39 |
  • 西本 直 URL│
  • [edit]
No title
いつも深く考えさせられるブログありがとうございます。
第7回西本塾から10日が経ちました。
西本塾で学んだこと体験した全ての事が、今の自分に生きています。
妻からも、生徒や患者さんに接する態度や説明の仕方が、すごく説得力があり良い方向に変わったね。と言われるようになりました。自分としても、西本先生の元で指導を受け、今までの点と点で今ひとつ自信がなかった所が、点と点が線で繋がり自信たっぷりに言えるようになりました。
これは理屈だけでは出来ない行為であると思います。
というのも、西本塾実技での走り方の授業で見に付けた動きを現在も走りながら練習をして、やっと骨で動く感覚を掴んだからです。筋肉で走らない、肩甲骨を走る方向へ押し出す、自然と足がついてくる感覚なんともいえません。上手に出来ている時は、ハイペースで走っていても会話が出来て、息があがりません。今後は、
これを、42.195km出来るようにするのが目標です。このような自分でも出来るといったことが、自信をもって人へ伝えられるのかなと最近感じています。
ここで一つ、走っている際の肩が疲れる疲れないについて質問ですが、骨を動かすことを意識して上手く出来る時は、肩が痛くならないのですが、少しでも屈筋に力が入ると肩が痛くなります。
これは血液内の酸素の供給によるものでしょうか?
伸筋が使えている時は、血液も無駄に寄り道せずに酸素を運べてスムーズに体を動かせるけど、一度、屈筋を使い出すと、無駄な寄り道をして酸素を運ぶため息もあがり、無駄な力が入り肩が痛くなる。
これが、私の考える答えですが、いかがでしょうか?ご指摘、ご教授のほど宜しくお願い致します。
  • 2014-09-03│21:28 |
  • 望月 URL│
  • [edit]

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プロフィール

Author:西本 直
1993年、Jリーグサンフレッチェ広島を皮切りに、社会人野球三菱重工広島・協和発酵・ヴィッセル神戸・川崎フロンターレ、そして広島カープ佐々岡真司投手など、プロアマ問わず競技レベルのスポーツ選手から一般の方まで、トレーニングやメンテナンスの指導を行ってきました。
その経験と知識の蓄積を「西本理論」としてまとめ、一人でも多くの方に実践していただくことが、これからの私の使命であると信じ、このブログから発信していきます。
私の理論はスポーツ選手のみを対象としたものではなく、ビジネスマンや家庭の主婦まで老若男女すべてに当てはまる不変のものです。
指導や講演のご依頼も受け付けています。
実名でツイッターも書いていますので、チェックしてみてください。
また、2013年9月9日にConditioning Studio 操をオープンしました。こちらもご覧ください。
また、遠隔地にお住まいの方を対象とした動き分析とアドバイスを行っています。
詳細は「スタジオ操」のホームページ内の「遠隔サポート」をご覧ください。

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