本当に伝えなければならないこと

先日訪れてくれた高校生とその指導者、予定の時間を大きく超えて、私自身にとっても納得のできるレベルの指導ができたと思います。

何をもってそう思えるのか、それは選手と指導者それぞれの立場の人間が見せてくれた会心の笑顔でした。

選手は勧められてここにやってきたので、実際には私がどういう人間で何をしてくれるのかもよく分かっていません。

指導者はnumberwebやこのブログを通して私の存在を知り興味を持ち、自分の指導に活かせる何かがあると感じてくれたようです。

膝や背中といった体の部分に違和感を感じ、いまひとつ伸び悩んでいる選手の動きを、私がどうやって改善して行くのか、自分の目で見たいと、運転手を買って出て、保護者の代わりに引率してきてくれました。

一期一会とは言いますが、指導者の方は次回の西本塾にも参加を希望してくれています。

スタート時点では、私の言っていることをすぐに理解してくれるはずはなく、とりあえずそうなのかなという感じでトレーニングが進んでいきます。

室内で行うトレーニングだけでは、実際に自分がプレーをする感覚とリンクさせるのは難しいことだと思いますが、まさに体そのものに対するアプローチがきちんと行われていなければ、実際の動作を改善することなどできるはずがありません。

この辺りの感覚は、長年の経験で養われてきたもので、どこかのドリルでつまずいてしまい、先に進めなくなっても、角度を変えてアプローチする方法はいくらでも考えてありますので、まったくあわてる必要はありません。

それどころか、これでもダメかこれでも分からないのかという状況が続けば続くほど、また新しいアイデアが湧いてくるので、こちらとしても望むところです。

選手自身にはまだまだ手応えというか、理解できている様子はなくても、私の中では今日中に到達させたい目標に向かって着実に進んでいるという感覚がありますので、多少予定の時間を過ぎてもまったく問題はありません。

そういう選手を相手にしていて一番のテーマとなるのは、やはり「頑張らないことが頑張っている」という感覚を知ってもらうことです。

屈筋に頼らず、伸筋の連動を生かした体の動きづくりという、究極のテーマに対する挑戦です。

外に出て、歩くことから走ることへの移行、スラローム走や上半身と下半身をわけて使う一対一の対応、前後左右そして回転動作における重心移動の方法など、自分が実際に必要でなおかつできていなかったと実感できる動作のドリルになると、選手の目つきも変わってきます。

そしてそれらが自分の思っている以上に改善されていくのが分かってくると、行っているトレーニングのドリル自体が楽しくて仕方がないという表情に変わっていきます。

指導者として日々接している教員の方から見ても、ほんの数時間前とはまったく別人のような動きを見せる選手を、まさに狐につままれたようにというか、何が起こったのか理解できないという表情に変わっていくのです。

そこにたどり着かせるために、時間をかけて室内でのトレーニングを行い、それらができるようになるための下準備を行っているのです。

私にとってはまったく当然の流れで、不思議なことでもなんでもありません。

1人の人間に対して、現状を正確に把握して、問題点を洗い出し、何がしたいのかどうなりたいのか、プラス私が見て、何ができるようにならなければいけないのか等々、与えられた時間の中で、できるだけそれに沿った動きづくりを提案していきます。

これは競技の種目を選びません、もしかしたらスポーツ以外の例えば楽器を演奏する方や声楽家の方にも応用できると思います。

人間の体は無限の能力を秘めているように思います。

私にとってこういう仕事が一番楽しく、簡単なことのように思います。

現状把握と目標設定が間違わなければ、結果はすでに見えているのですから。

悪く言えば、その後の結果責任を負う必要がないというのも、気楽に感じる大きな要素かもしれません。

ここにきてくれた目的に関しては、十二分に効果を実感してもらえますが、その後の個人やチームとしての結果については、正直私の力の及ぶところではありませんから。

そういう意味では、熱心な指導者がきちんとした態度ですべてやることを見届けてくれたというのは、本当にありがたいことでした。

やはり指導者が変わらなければ、次々と入れ替わっていく選手を変えることはできませんから。

私が伝えられることは、とりあえずしっかりと伝えられたと思います。

あとはそれをどうやって継続していけるかという環境の問題がありますが、今回は指導者が一緒に来てくれたので安心して今後に期待ができます。

やはり自分が実際に指導するという、これまでやってきたことの延長線上の仕事はやりやすいというか、すべて自己責任において行うことができるのでストレスになりません。

しかし、同じ立場の方々や指導者の方々に私の考えを伝えるという作業は、まったく別のもので、色々と考えることが多くなっています。

元々西本塾を行うきっかけとなったのは、このブログを読んでいただいた方から、書いてあることを実際に体験したい、直接話を聞いてみたいという要望からでした。

そんな人が本当にいるのならと回を重ね、多くの方に私の経験や技術を伝える機会をいただきました。

いわゆる技術を教える講習会や勉強会といったものとは一線を画しているつもりです。

指導を受ければ、私のやっていることと同じことができたり、私と同じものの見方ができるようになるほど簡単なことをやってきたつもりはありませんから。

では何を伝えたいのか、一年間やってきてもう一度考えてみたいと思います。

私が指導を受けた恩師である「渡辺栄三」先生、この方の存在なくして今の私は語れないと思います。

最も印象に残っているシーンは、西本塾の中でも紹介していますが、参加者の皆さんに片方の腕を伸ばした状態から肘を曲げさせ、それぞれ一人一人に今自分がやった動作を言葉に出して説明させるというものでした。

先生からそのことに対しての答えはありませんでした、「みなさんいろいろなことを思って動いているのですね」ということばだけでした。

第三者的に見れば、全員まったく同じ動きをしているように見えても、それに対する動きの意識は全員同じではなく、同じ人であっても意識を変えれば動きも変わるし、その状況によって意識も動きも同じではないということが、人間を見るという立場の人間にとって、最も大切なことである、ということを教えていただけたことでした。

もちろん先生はそんなことを言われたわけではありません、私がそう受け取っただけです。

もしかしたらその場に居合わせた、他の受講者の方々には、そのシーンは全く記憶にも残っていないことかもしれません。

今私が指導する立場になると、どうしても正しい答えを教えたくなり、分からないではなく分かるように教えたいと思ってしまいます。

指導を受ける側にもその雰囲気は伝わってしまい、細かいところまで私の答えを引き出そうと質問されてしまいます。

まったく矛盾しているようですが、私が口を酸っぱくして言い続けている「木を見て森を見ずにならないように、枝葉のことに気を取られず、根っこを掘る為の考え方を身につけて欲しい」という表現はどこへ行ってしまったのかということになります。

「正しいことは教えてあげたい、しかし、どこまで教えるかという境目が難しく、聞けばなんでも教えてくれる存在になってしまっては、私を超える存在とはなり得ない」、まさにそういう状況に陥っています。

自分には聞ける人も答えてくれる人もいなかった、すべて自分の意思で切り開いてきたという自負と誇りがある中で、安易に答えを求めて質問を繰り返す人たちに、どう対応したらいいのか、正直迷っています。

今すぐに答えが必要な、結果を求められる選手に対しては、相手がどう思おうと教えなければならないことはきちんと教える、後で心残りがないようにすべてを出し切るのが私の主義です。

自主性を待っていては終わってしまう選手の方が多いことは、嫌という程味わってきました。

本人のやる気次第で、指導する側が教え魔になっては、選手が本当の意味で自立できず良い選手に育っていかないという考え方もあるでしょう、しかし、選手や指導者も含め、私が知っていること気づいていることで、彼らが知らないこと気づいていないことがあると分かっていて、黙っているわけにはいかないのです。

これが同じ立場の方々や、それを目指している方々に対してとなると、少し話は違ってきます。

私のものの見方や判断の仕方を、文字や言葉にして伝えることは不可能です。

どうして私がそういうものの見方、考え方をするようになったかというプロセスから、何かを感じ取る感性がなければ、私に近づくことはできないでしょう、同じ人間ではないのですから。

そういう意味も含めて、西本塾に参加してさらに学び続けたいきたいという方を対象にして「深める会」を行っています。

この会も、その趣旨である深めるということから、西本塾では体験できなかった実技の部分で、個人的に私の手技や施術を受けて、理論だけではなく体で体験したいという補習というか復習の会という様相を呈しています。

それが悪いと言っているわけではありませんが、その先にこそ深める会の趣旨が待っているのです。

時間もお金もかかりますが、本当の意味で深めていくためには、とにかく私の前に何度足を運ぶか、これ以外に方法はないと思います。

残念ながら繰り返し深める会に参加してくれる人はいません。

今、関東地方から参加してくれた人たちを中心として、深める会の東京開催が企画されています。

本来ならばありがたいことなのですが、ここでの深める会も人数を5人と制限し、一人ひとりのニーズにできるだけ沿った内容と、私の思いを深く伝えるためのくふうもしています。

それが10名を超える参加者一人一人に向き合って、本来の深める会の趣旨を全うできるものになるのか、自信がありません。

また参加して下さる方々も、やはり枝葉の質問を山ほど準備して私を待ち構えていることでしょう。

私がやりたかったのは、私が目標にして欲しいと思ったことは、本当にそれだったのでしょうか。

私と同じ手技ができて、私と同じように走れて、私と同じような身のこなしができるような指導ができるようになることが目的ではなく、本当の意味での西本理論を深く受け継ぎ、それを超えるような考え方にたどり着いてくれるような、そんな気概を見せてくれる人に出会える日はくるでしょうか。
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Re: タイトルなし
小野さん、お疲れ様でした。
まさに全身汗だくになって、一生懸命走り、ドリルをこなしていただきました。
せめて高校生くらいの時に私と出会っていれば、私でなくても、こういう考え方や方法論が、もっと一般的なものとなっていれば、人生が変わっていたと思う人はたくさんいると思います。
それがなぜなのか、本気で知りたいと思った小野さんの気持ちは、これからの人生や子育ての中できっと生かされると思います。
何年か後、いや何十年後かもしれませんが、世の中の人が私の考えに注目してくれる日が訪れた時に、胸を張ってこう言ってください、「僕はもうとっくの昔に知っていて、身につけているよ」と。
熱心に取り組んでいただき本当にありがとうございました。
  • 2014-10-05│10:41 |
  • 西本 直 URL│
  • [edit]
昨日お世話になった小野です。
半日という短い時間の中で、本当に真剣で熱い御指導ありがとうございました。
西本先生のことをブログで知り、読んで行くうちにどうしても直接話しを聞きたいと思い広島まで来てしまいました。
今回自分の中で「走る」ということを1番のテーマに先生の所に来ましたが、今まで自分がいろいろ疑問に思っていたことが殆ど解決されたように思います。
しかし実際に走ってみると頭で理解できていても、体はなかなか思うように動いてくれないものです。昨日ホテルに着いてから狭い部屋の中でアイドリング状態からの走りを何回も
繰り返してしまいました。これからはスピードを上げていく動きを中心にいろんな動きを練習していきたいと思います。
昨日先生と一緒に走らせて頂いて思いましたが、先生の走りや動きは凄いです。あんなに走れる56歳もいるんだなぁって驚きました。
これから自分もトレーニングを続けていき、先生の年齢まで走れるようになりたいです。
そして自分の子供と走りたいと思います。
今後先生から教えて頂いたことを自分自身に生かし、子供達にも伝えていければと思います。もちろん西本直という人物に広島まで行って教えて頂いたということも伝えます。
最後になりますが、今回広島に来て1番の収穫は先生に会えたことです。本当に楽しい時間をありがとうございました。先生の活躍をこれからも応援しています。

  • 2014-10-04│11:48 |
  • 小野 URL│
  • [edit]
Re: ご報告
ご報告ありがとうございます。
指導したことが、その後どう生かされているのか、もっとも気になることですから。
もちろん仕事としてやっていることですから、この場限りの関係だと思われたらそれまでです。
一人ひとりに、そこまで気持ちを込められても、相手の方が嫌がるかもしれませんが、私はずっとそういう気持ちで仕事をしてきました。
現場を離れてしまい、少し寂しい気持ちの中、本間さんの指導する選手たちの練習をじかに見てみたい、などと思うようになりました。
近ければ、ふらっと車を走らせ、遠くから眺めてみたいものです。
あの選手があの走り方で走り回り、他の選手たちも真似をしてくれていたら嬉しいですね。
きっと良い指導をされているのだと思います。
またお会いできること、楽しみにしています。
  • 2014-10-02│22:20 |
  • 西本 直 URL│
  • [edit]
ご報告
先日は、大変お世話になりました。「全身全霊」で指導いただいたことを選手本人が定着させることはもちろん、チームに正しく伝えなければという思いで、中間試験開けの練習が30日にスタートしました。「グー」と「パー」という喩えをいただいたことも選手への説明の際に非常に役立ちました。
二人組のペアを作らせ、「グー」対「グー」のぶつかりあいから、「パー」の伸筋の使い方を50人の選手に簡単に説明し、一人が「パー」になって、「グー」とぶつかってみるよう指示を出しました。すると…こんなことを「成果」だと喜んで報告するには「勇み足」なのは十分に承知しているつもりですが、言わせてください。「パー」役の選手から歓喜を伴う驚愕の表情を見せたものが何人か見受けられたのです。本当は、その日のうちに報告したいくらい嬉しかったのですが、「それだけで喜んでいてどうするんだ。」と、自分を戒めました。チーム全体に定着するには、まだまだ私自身が勉強不足です。
ただ、yoshiがいいパイプ役になってくれていて、彼から吸収しようとする者が多数出てきていること、なにより、彼の自信の「走り方」が、目に見えて変わってきたことを報告したく、連絡させていただきました。本人の感覚から本当の疑問が生じたときには、きっと連絡があると思いますが、そのときには、相談に乗ってやっていただけると嬉しいです。
長々と、つまらないことを申し訳ありません。西本塾への参加までには、もう少しましな報告ができるよう、私自身も自分の身体も整えながらチャレンジします。再会を楽しみにしております。

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プロフィール

Author:西本 直
1993年、Jリーグサンフレッチェ広島を皮切りに、社会人野球三菱重工広島・協和発酵・ヴィッセル神戸・川崎フロンターレ、そして広島カープ佐々岡真司投手など、プロアマ問わず競技レベルのスポーツ選手から一般の方まで、トレーニングやメンテナンスの指導を行ってきました。
その経験と知識の蓄積を「西本理論」としてまとめ、一人でも多くの方に実践していただくことが、これからの私の使命であると信じ、このブログから発信していきます。
私の理論はスポーツ選手のみを対象としたものではなく、ビジネスマンや家庭の主婦まで老若男女すべてに当てはまる不変のものです。
指導や講演のご依頼も受け付けています。
実名でツイッターも書いていますので、チェックしてみてください。
また、2013年9月9日にConditioning Studio 操をオープンしました。こちらもご覧ください。
また、遠隔地にお住まいの方を対象とした動き分析とアドバイスを行っています。
詳細は「スタジオ操」のホームページ内の「遠隔サポート」をご覧ください。
今年2回目の西本塾を8月26・27の土日に開催を予定しています。
詳細はstudio操のホームページ内の「講習会情報」をご覧ください。
なお、今回も参加者が5名に満たない場合は開催しません。
9月10日には深める会も予定しています。

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