正しい位置の着地は、なぜ筋肉の負担が少ないのか。

予告していました、「走るという行為の中で、地面と接地している時の位置と感覚について」の考察です。

歩くことも走ることも、足の裏が地面に接しているからこそ行える行為であることは間違いありません。

しかし、それが全てであり他に何があるのかを考えてこなかったことに、私は疑問を持ちました。

速く走りたければ、地面を強く蹴ってその反力によって体重を移動していく、そのためには体重が70キロであれば、それ以上の力を地面に対して加えなければ、その場から移動することができない。

専門外ですので間違っているかもしれませんが「質量保存の法則」というものがありますから、静止した物が動き出すためにはそれ以上のエネルギーが必要になるということなのでしょうね。

そう考えてしまうことで、体重移動という概念が生まれ、踏み出した足には体重の何倍もの負荷がかかる、スピードが増せば増すほど、その負荷は高まり、もちろん体重が重ければ負荷は大きくなる。

こういう考え方が当然のように思われ、その負荷に耐え、なおかつ次の一歩を蹴りだすための筋力も必要になるという発想から、ふくらはぎや太ももの裏側、そして大きなストライドを得るためには、太ももを引き上げる筋力も必要となるということで、太ももの前側の筋肉も鍛えておかなければならないということになります。

目的はそうなのですが、トレーニングとして行っていることは、たんにその部分の筋力強化であり、私の言う動きづくりのためではなく、その部分の体づくりが優先されてしまいます。

私が知る限り、陸上競技の短距離を専門にする選手たちは、同じ陸上競技の他の種目の選手に比べ、故障が多いように思います。

これはデータをとったり、見たりということではないので、統計的には有意差はないのかもしれませんが、テレビで見る短距離の選手はスタートしてほんの数秒後に足を押さえて棄権したり、それどころか本番前のアップで肉離れをしたなどという、にわかに信じられないことが起こっているようです。

また他の競技であれば、全身どこも痛いところがなく万全な状態で競技に臨んでいる選手のほうが少ないように思いますが、短距離の選手は少しでも体に不安があるとリタイヤしてしまいます。

これは根本的に何かが違うというか、問題があるのではないでしょうか。

サッカーをはじめ、様々な距離を繰り返し走り続け、ただ走ることが目的ではなく、素早いスタートダッシュやストップ、ターンやジャンプ、それに加えて本来の目的であるボールを蹴ったり、ラグビーやバスケットであればボールを投げたり受け取ったりという、様々な動きが要求されます。

筋肉の動きをコントロールするという意味で言えば、こういう種目の選手たちのほうが故障をしやすい状況にあると言っても過言ではないと思います。

そんなことを考えながら世界の超一流と呼ばれる選手の動きを分析していくと、一定の法則というか動きを見出すことができました。

今日のテーマからは外れますが、広背筋の正しい収縮によって、骨盤の後上方への引き上げがきちんと行われており、背筋がきちんと伸びていて、いわゆる良い姿勢が保たれています。

そのことができていないと今日の話は始まらないのですが、彼らの走りを見ると、着地の瞬間に、着地する方の足の股関節が伸展しており、けっして太ももを引き上げ、重心となる股関節より前に着地しているようには見えないのです。

人間が走る移動するということは、 人間の本体である骨盤から上方に連なる背骨を移動させるということで、手先や足先、また胸を前に突き出すということではありません。

安定した状態で骨盤から背骨を移動させるためには、いわゆる猫背になったり、地面を強く蹴って太ももを引き上げ、股関節を屈曲した状態で、股関節よりも前側に着地してはいけないのです。

前方に着地することによって、せっかくスピードに乗って移動しようとしている重心に対して、ブレーキがかかり 、太腿の前側に大きな負荷がかかります。

さらに、着地した足を重心である股関節が追い越した後、重心の後方に残された接地している部分が、改めて強く働いて、体重を前に押し出さなければなりません。

これでは下半身の負担は想像を絶するものとなり、いわゆる筋トレで鍛えていればいるほど、無駄に強い筋力を発揮しようと頑張ってくれるため、故障に結びついてしまうのです。

走ることを説明してきた過去のブログの中で、マイケルジョンソン選手や伊東浩司選手の走り方を例に出したと思いますが、それらを見ると、そうではない走りのヒントが隠されていると思います。

背中がしっかり反っていて、骨盤の後ろ後方への引き上げもきちんとできていて、足裏が地面と設置する瞬間、接地する足の股関節前側が伸びていて(これが股関節の伸展状態)、全身が一直線になったような状態で、股関節の真下にほんの一瞬、ポンっとハンコをつくような感じで着地しているように見えます。

実際にそれに近い状態で着地してみると、いわゆる体の重さを足で受け止めたという感覚がありません。

さらに次の局面で、今までなら推進力を得るために強く地面を蹴っている感覚もありません。

にもかかわらず、体は前に前にと進んで行きます。

ほとんどの方がこの感覚がわかると、「不思議です」という言葉以外に見つからないと言います。

前に進むためには、速く走るためには、腕を大きく振って腿を高く振り上げ、しっかり地面を蹴ることが唯一の方法だと思ってきたからです。

例えば「きをつけ」をして良い姿勢を保ち、目をつぶって体をまっすぐにしたまま前に倒れてみてください。

顔が地面にぶつかるまで、そのまま倒れていく勇気はないですよね。

途中で必ず目を開け、どちらかの足が前に出て体を支えてくれたはずです。

その時太ももを引き上げようとか、足を踏み出そうとか一瞬でも考えたでしょうか。

股関節の自由度が確保されていれば、何も考えることなく一歩が出たはずです。

ですからその時には、いわゆる筋力を使ったという感覚はありません。

振り出された時にも、踏み出された足にも、意識した筋肉の収縮はなかったはずです。

これが重心移動による動き出しの方法と意識です。

これを応用して、接地する足の裏が、常に自分の股関節の真下にあるような感覚で走ることができれば、今までに味わったことのない走る時の感覚が味わえるはずです。

先週来ていただいた方が、もともと陸上競技をやっていて、走り方が綺麗だと褒められていたそうですが、ドリル終盤になって、以前の走り方で走ってみてくださいとお願いしたところ、10メートルも走らないうちに、「これダメです」と、走るのをやめてしまいました。

なんと余計な力を使っていたことか、体に対する大きな負荷を、これがあるから速く走れるんだと思い続けてきたが、体に対して申し訳ないことをしてきた事が分かったと言われるのです。

だから疲れるのです、だからケガをするのです。

体に対して無理なく無駄なく、そして速く走ることができる。

いつも同じことを言いますが、そんなうまい話があるわけがないと思うのなら、興味を持ってもらう必要はありません。

私はひたすら体が喜んで動いてくれる動き方を考えてきただけです、既成概念など関係ありません。

この走りをマスターするためには、多少の時間がかかります。

私流の体の仕組みを理解していただくための講義が少しと、フライングバックトレーニングで、広背筋にこれから少し働いてもらうからねとお伺いを立てるトレーニングを行い、それを使った基本的な骨格の連動動作を行い、準備ができたところで実際に走りをマスターするためのドリルへと進みます。

一度で完璧にとはいきませんが、なるほどそういうことだったのかというところまでわかっていただければ、あとはそれを継続していただくだけのことです。

そのためにも、私はお手本として、それらしい走り方をお見せしなければなりません。

私の走りが大したことないなと思われてしまえば、真似をしようなどという人はいませんから。

週末にも、その走りを教えて欲しいという、私より年長の方が来ていただくことになっています。

もちろん普段から走り込んでいるランナーの方ですがとても興味を持っていただいているようです、負けないように走らなければなりません。

なんだか色々なことをやることになってしまいましたが、私自身の野次馬根性はまだまだ続きそうですので、どんな方が来られるのか、どんな理解をして何を持ち帰っていただけるのか、私の方がワクワクしています。

まだまだ頑張りますよ。
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Re: はじめまして。ご提案、お願いです。
このブログを最初から熟読していただければ、私がなぜ動画どころか、イラストや写真も使わず、文字だけのブログを書いているか分かっていただけると思います。
このブログは、トレーナーの養成や選手また一般の方に対しての指導を目的としたものでもありません。
西本塾や個別指導で、個人的に指導をしても、私の思いをすべて理解していただいているわけではありません。
申し訳ありませんがご要望にはお応えできません。
まずはしっかり読み込んでみてください。

  • 2014-10-13│17:46 |
  • 西本 直 URL│
  • [edit]
はじめまして。ご提案、お願いです。
西本先生のことをサッカーを通じて知った者で、
Newspicksを機会に、先週から勉強を始めた者です。

まだまだ、自分の身体で表現できないことばかりですが、西本先生の哲学でもっとサッカーを上手くなりたいと思っており、
勉強を続けていきたいと思っております。

僕はブログや著書を通じて勉強をしているのですが
僕の文章理解能力が低いというのもあり、
文字で身体を理解するのに、手こずっております。

そこで「これが股関節と肩関節の連動だよ」「これが足踏みから、歩く、走るということだよ」というような動画があると、イメージが膨らみ、理解が進みます。

機会があれば、広島に足を運びたいのですが
なかなか行けない人と思っている人は、僕だけではないかと思うので、YouTubeなどを活用したレクチャーがあればなぁと思っております。

忙しいかとは思いますが、理解を少しでも促進させたいので、よろしくお願いできれば、と思います。

これからもよろしくお願いいたします。
  • 2014-10-13│17:21 |
  • そーた URL│
  • [edit]
Re: ブログを踏まえて走ってみました
私がお話ししている理屈めいたことは、体がそうやって使うと喜んで動いてくれているという実感を得られたこと、また超一流と呼ばれる選手たちの動きを分析すると、ほぼ例外なくそうなっていること、そういう動き方を皆さんに伝えるために、私なりの言葉にしているだけです。
どんどん走ってください、きっと体は喜んでくれているはずです。
  • 2014-10-11│11:40 |
  • 西本 直 URL│
  • [edit]
ブログを踏まえて走ってみました
初コメントします。川端です。
6月以降ジョギングが楽しくなってます。
今回表現されたハンコを押す感じ、すごく腑に落ちます。
普段の走りでは肩甲骨や背中を地面に突き刺すという感じで走ってました。ハンコ押しのイメージで走ってみたら(まだ1回ですが)足首が柔らかく使える感じがします。
普段5キロ程度(キロ5分30秒)走ってますが、上手くいくときは、広背筋の軽い張りが出でむしろ肩甲骨が動きやすいです。
上手く走れないときは四頭筋や前脛骨筋が張ってしまいます。
まだ距離を伸ばしたり、短距離のようなスピードで走ったりすると上手くいかない現状です。
  • 2014-10-10│20:34 |
  • 川端 URL│
  • [edit]
Re: 今回の日記はイメージできます。
コメントありがとうございます。
走るという行為についての記事は、参考にして頂ける部分が多いようですね。
動きを言葉にすることは難しいことです。
さらにそれを見て、自分の動きに取り入れることは、さらに難しいと思います。
私の言わんとしていることが、きちんと伝わっていれば良いのですが。
どんどん試してください、自分の体が納得してくれる動きが、正しい動きだということですから。
頑張って、走り続けて下さい。
  • 2014-10-10│20:04 |
  • 西本 直 URL│
  • [edit]
今回の日記はイメージできます。
こんにちは。
西本さんからヒントを頂戴して、ちょうど1ヶ月になります。9月に人生初のトレイルラン(白馬)に挑戦しましたが、厳しいアップダウンで大腿四等筋等をやられ、脚が思うように動かない展開でしたが、比較的平坦な場所では背中の力で骨盤を引っ張り上げて走ることで、脚の力を極力使わずに走ることができ、目標の上位半分で完走できました。とはいえ、まだまだ先は長いと、全く満足してはいません。

さて、ここから本題ですが、今回の日記は西本理論を非常にイメージしやすいと思いました。背中の力で骨盤を引っ張り上げることまでは身体で分かってきたのですが、なかなか安定的にはできず、特にスピードを上げると数分でバラバラになる状態です。「背中の力で骨盤を引っ張り上げる」だけではダメで、安定させるにはどうすれば良いかを考えていました。私の解は単純に「スピードを落とす」でしたが、そのスピードが「着地ポイント」を正確に踏み続けられるスピードなのかな?と思った次第です。

今月は初のフルマラソン(大町)ですが、早速、試してみようと思います。
  • 2014-10-10│18:51 |
  • 阪井徹史 URL│
  • [edit]

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プロフィール

Author:西本 直
1993年、Jリーグサンフレッチェ広島を皮切りに、社会人野球三菱重工広島・協和発酵・ヴィッセル神戸・川崎フロンターレ、そして広島カープ佐々岡真司投手など、プロアマ問わず競技レベルのスポーツ選手から一般の方まで、トレーニングやメンテナンスの指導を行ってきました。
その経験と知識の蓄積を「西本理論」としてまとめ、一人でも多くの方に実践していただくことが、これからの私の使命であると信じ、このブログから発信していきます。
私の理論はスポーツ選手のみを対象としたものではなく、ビジネスマンや家庭の主婦まで老若男女すべてに当てはまる不変のものです。
指導や講演のご依頼も受け付けています。
実名でツイッターも書いていますので、チェックしてみてください。
また、2013年9月9日にConditioning Studio 操をオープンしました。
また、遠隔地にお住まいの方を対象とした動き分析とアドバイスを行っています。
詳細は「スタジオ操」のホームページ内の「遠隔サポート」をご覧ください。
「第25回西本塾」を11月18・19日の土日に開催を予定しています。
詳細はStudio操ホームページ内の「講習会情報」をご覧ください
尚、深める会も12月10日に予定しています。

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