部分の痛みにとらわれず体を一つに

今朝の広島は気持ちの良い青空が広がり、目の前に広がる宇品港と、瀬戸内海の内海に浮かぶ島々がいつも以上に美しく見えています。

今週は個別指導を受けにきてくれる方が二人と一組あって、その都度新しい気づきがあります。

昨日も、もう一昨年になりましたが、第2回の西本塾に参加してくれ、現在サッカー界で話題になっている今治FCで育成年代のコーチを務めている渡辺憲司さんが久し振りに私の元を訪れてくれました。

初めてお会いした時から、そのサッカー指導にかける情熱は十分伝わってきましたが、当時所属していた組織を離れ、心機一転、新しい組織と環境を求め、今治での指導にやる気が満ち溢れているようでした。

そんな彼が、改めて私の指導を受けにきてくれたのですから、こちらもいつも以上に彼の、そして彼から指導を受ける子供達のために出来る限りの指導をしました。

私はこれまでの人生の中で大きな目標というか、こうなりたいこうしたいという気持ちを、あまり感じたことがありません。

今なぜ自分がここでこうしているのか、ましてやサッカーの選手や指導者に対して、体の使い方などという一般の方には説明することさえ難しい意味不明なことを指導しているのか、自分が一番不思議なことだと思っています。

流れるままに、今必要だと思ったこと、自分ならこうする、こうできると思ったことをやり続けてきた結果、今があるという感じです。

J リーグのトレーナーになりたかったわけでもないし、プロ野球選手のパーソナルトレーナーになりたかったわけでもありません。

需要と供給というのでしょうか、必要とする人間がいて、それに応える能力を持っていて、たまたま縁があって結びつき、その関係が崩れた時には、その環境を離れるということを繰り返してきました。

常に自分の思いが優先されてきた結果です。

もし私がサッカーの経験者で、常にサッカーを身近に感じていたいという人間だったとしたら、サンフレッチェ広島から誘っていただいた時点で、それから先の人生は決まっていたのかもしれません。

その後は、幸か不幸か様々な環境で仕事をさせてもらったおかげで、過去の自分からは思いもよらない、まさに波乱万丈の人生となっています。

そんな私の経験や、知識また技術を見たい聞きたい学びたいという人がたくさんいるということも、まったく想定外の展開でした。

そうは言いながら広島に来て22年、神戸と川崎での短い生活もありましたが、人生で一番長く生活している場所となりました。

今治FCの代表兼監督を務められる木村孝洋さんは、私が3年間広島に在籍した最後の年に、一緒に仕事をさせていただいたことがある方です。

あの頃の選手やスタッフだった方の多くが、サッカー界で指導者として活躍されており、みんなすごい人たちだったんだと改めて感じています。

さて今日は、痛みと体の関係について書いて見たいと思います。

私の元を訪れる方の目的は大きく二つに分かれます。

ひとつは現在こちらの方が本業に思われている感もある、「動きづくりのトレーニング」を指導して欲しいという方です。

もう一つは、いわゆる整体や施術施設に行くような感覚で、私の操体法をベースにした施術で痛みを取り、体の不調から解放されたいという目的で来られる方です。

トレーニングが目的で来られる方は気持ちも前向きで表情も明るく、こちらも「さあ来い」という感覚でお迎えする事ができるのですが、痛みを抱えてくる方は、一様に表情も冴えずどちらかと言えば、どうせ何をやっても良くならないことはわかっているけれど、勧められたからとりあえず来てみたという雰囲気が感じられます。

当然といえばそれまでですが、自分の期待通りの結果を短期間で見せてくれる施術者には、そう簡単に出会えるものではないと思います。

それは施術者側にももちろん問題はありますが、私はそれ以上に当の本人の考え方に問題があると思っています。

痛みが出たのもなかなか良くならないのも、正直こちらのせいではありません。

私が蹴飛ばしたわけでも無理をさせたわけでもありません、私の前に立った時点ですでに痛みを抱えているのですから。

それを私を含め、治せないお前が悪いという顔をされても、それは筋が違うというものです。

お互いが前向きな気持ちでコミュニケーションを図り、どうすれば少しでもその痛みから逃れることができるのか、私は治してもらう人、あなたが治してくれる人、という感覚では絶対に良い結果は得られないと思います。

名人上手と呼ばれる人がいて、黙って私のやることを受け入れていれば、悪いようにはしない、黙ってそこに横になっていればいい、そう言ってはばからない人もいるようです。

残念ながら私にはそんな能力はありません。

いつからどのような痛みなり違和感を感じていたのか、それに対してどのような対処をしてきたのか、私が必要とする情報が得られるまでしつこく聞き続けます。

その情報さえ聞き出すことができれば、自ずと改善方法は見つけ出すことができます。

さらにはどうしてそういう問題を抱えることになったのかという、原因究明のヒントも与えてくれます。

体にとって無理なく効率的な動かし方使い方をしている限り、そう簡単に壊れてしまうほど人間の体はいい加減に作られてはいないのです。

必ず原因が潜んでいます、逆に言えばそれを見つけ出すことなく、痛みがなくなったとか動きやすくなったことをゴールとしてしまうと、必ず同じような状態になることは誰が考えても分かることです。

一般の方はそこまで求めてはいないでしょうが、それでもできるだけその部分にまで踏み込んで行くのが私の流儀です。

ましてやスポーツ選手であれば、一般の生活ではありえないような筋力の発揮方法だったり、関節の可動域が要求されます。

当然それに耐えうる準備とケアが必要になるはずです。

それにもまして、どういう風に体を動かすことが、本来人間という動物に与えられた本能の能力なのかも知らなければならないのです。

「グローイングペイン」という病名というか診断を下される選手が増えているようです。

私は昨年、ここを訪れてくれたエルサマニ・オサマ君からの状況報告のメールで、初めてその名前を知りました。

これは20年前にはスポーツヘルニアという呼び方をされていた症状のようで、たぶん正式な医学用語ではなくスポーツ医学の中で使われている呼び方だと思います。

機序は別として、鼠蹊部から恥骨周辺にかけて、ボールを蹴ったりサイドステップで踏ん張ったり、中にはまっすぐ走るだけでも痛みを訴える場合もあります。

当然選手も医師も医療スタッフも、その部分に意識が行きます。

レントゲンを撮り、さらにはMRIの画像で診断し、痛みの部位や組織としての損傷具合を明確にしようと努力します。

治癒の経過も、その画像診断がすべてとなり、そこがこうなったから治った治っていない、動いていいまだ動いてはいけない、そういうことになります。

そういう見方をするならば、みんな同じような時間の経過を経ながら、治療からリハビリへと移行し、練習に合流していくという流れになるはずです。

しかし現実にはそうはいきません。

本当に組織としての変異や損傷があり、それが痛みの原因となっていたとしても、その部分の器質的な治癒がイコール痛みの改善、そして動くという機能の改善には結びついてはいかないのです。

私がそういう状態の選手に対する時まず考えることはこうです。

同じような動きをしていても、こうならない選手の方が多いことは明らか、ならばこの選手の動きの中に痛みを産んだ原因があるのではないか、それは単純なフォームの違いではなく屈筋と伸筋という筋力発揮の概念を持たず、歯を食いしばり頑張り続けた結果なのではないかと。

事実、そういう選手の多くは私が知る限る運動量の多い、いわゆるハードワークをする選手たちでした。

最終的にはその部分、まさに「動き作り」を指導しなくては、その選手に対して私のベストを尽くしたとは言えないことになります。

それは最後の仕上げの部分で、現実的にはまずその部分の痛みを軽減させることから始まります。

ここでも私は局所からできるだけお互いの気持ちをそらせるようにしています。

現実に痛いのはこの部分、それは分かっています、しかし、体というのは一度痛みという感覚を持ってしまうと、そこを守るために全身が協力して、その部分に負担がいかないようにカバーし合おうとしてくれます。

痛みはまさに外、と言っても痛みを訴えている本人の脳に対して発する危険信号です。

これ以上無理をさせないでくれ、もう限界だという、黄色もしくは赤になっているかもしれないSOS信号なのです。

こんなことぐらいでと頑張り続けた結果が、組織として画像診断で分かるほどの損傷を受けてしまうことにもなるのです。

そうは言ってもスポーツ選手です、毎日付いていられる立場であれば、そうならないように普段から気をつけてあげることがトレーナーとしての仕事ですが、痛みが出たしまったことは事実でなんとかしなければなりません。

そこで考えることは、痛みを訴えている部分そのものではなく、そこをかばうために生じた体の他の部分の歪みや緊張を取り去ってあげることなのです。

子供の頃遊んだ「だるま落とし」を思い出してください、何段かに積み上げられた積み木の一番上に、だるまの顔が乗っていますよね。

たとえ10段くらいであっても、9段目までをきちんと積み上げておけば、最後の顔の部分は、小さな子供でも簡単に乗せることができるでしょう。

しかし、9段目ですでに不安定な積み方になっていれば 、最後の一つを乗せられないどころか、すべてが崩れてしまうかもしれません。

私はいつもこのことをイメージしています。

どこが痛いと言われても、治すべきはその人の身体そのもの、足でも手でも鼠径部でもないのです。

体全体の負担が減って、というか、痛みの部分が治っていこうとしても、周りのかばってくれていた部分がいつまでたってもそれを止めず、それどころかかばってあげていたつもりが、その部分自体の歪みや緊張を生んで、新たな問題を自ら抱え込んでしまっていることが本当に多いのです。

私は体に語りかけます、「ご苦労さんでした、もういいんだよ頑張ってくれなくても」と。

しかし、現実の痛みを知っている体は、そう簡単に言うことを聞いてくれません、「今自分がかばってあげることをやめたら、またあの痛みが体を襲うのではないか」、そう言っていつまでも緊張を解いてくれないのです。

私はこの状態を「根に持っている」と、表現しています。

良い言い方ではないかもしれませんが、それほど体というものは全身が一つになって協力しあってくれているのです。

ですから、体全体に対して「もういよゆっくりリラックスして」と語りかけるのです。

そのお願いが届いた時、不思議なことに局所の痛みも消えていくのです。

最後の顔の部分を乗せるために、最大限の集中力を発揮して乗せ切ることで、不安定な状態を続けることを選ぶよりも、一番下の段から時間をかけて積み直し、最後の一段も当たり前のように乗せられるような体を取り戻してあげることこそが、私にできる最高の施術だと信じています。

そうやって折り合いがついた体だけが、次のステップであるリハビリのトレーニングから実戦的なトレーニングへと進んで行けるのです。

局所の痛みにだけ目を向け、意識を取られ一喜一憂していては、本当の体の言い分に耳を傾けることはできません。

局所に対して何もするなと言っているわけではありません、それでもそこにしか気持ちのいかないスタッフのために、いつまでたっても最後の一段を乗せられず悩んでいる選手のどれほど多いことか。

「動く作りのトレーニング」を広めていくことと同じくらい、このことは重要なのです。

故障をしない体など作れるはずはありません、そうならないためにも動きづくりは絶対に必要な考え方で、その上で、そうやって作り上げられた体のケアをどうやって行っていくか、すべては一つに繋がっていきます。

体は部分の集まりではありません、丸ごと一つの存在です。

こらが私の師である「渡辺栄三先生」から学んだ、体と向き合うための操体法の本質だと信じています。

ぜひこういう考えでトレーニングを行い、また指導し、体のケアのできる人材を増やしていかなければなりません。

前回、最後にお願いしたことに応えていただき、拍手の数がなんと100を超えました。
それがどうしたということなのですが、その数字を見て一人ほくそ笑んでいます。
共鳴する部分があるとしたら、その足跡を残していただければと思います。
押してくださった方々ありがとうございます。

明日も中学生とそのお父さんが、個別指導に来ていただくことになっています。
昨日より今日、今日より明日と、皆さんからいただく経験を積み重ねて、いい指導を続けて行きたいと思います。
スポンサーサイト

Trackback

Comment

Re: No title
早速の嬉しい報告をありがとうございます。
一生懸命指導させていただいた甲斐がありました。
父子二人して真剣に取り組んでくれた賜物ですね。
試合を通して動き続けることができれば、サッカーがもっと楽しくなるでしょうね。
スポーツは先ずは楽しくなければ始まりませんから。
広島にこんなおじさんがいたと、息子さんも驚いてくれた動きを、私が見せられるのも、動き作りの積み重ねです。
息子さんの延びしろは無限大です。
二人で夢を追いかけてください。
頑張ったねと、お伝えください。
  • 2015-02-11│21:30 |
  • 西本 直 URL│
  • [edit]
No title
先日は熱心なトレニーング指導を頂き、ありがとうございました。
短期間ではありますが、この1週間、教わった基本動作を繰り返し練習し、本日試合に出場しました。
結果から申し上げますと、試合後半にもかかわらず、走力が落ちることなく、試合を終えることができました。予てより息子の悩みはサッカーのボランチというポジションで後半に足が止まる事でしたが、この短期間での変化に驚いております。
教えて頂いた動作とかけ離れたディフェンス時でのアイドリングがタコ踊りのようで笑ってしまいましたが、まだまだ未熟な状態でのこの結果に、さらなる変化を期待しております。
取り急ぎご報告申し上げます。
  • 2015-02-11│21:20 |
  • mr.k URL│
  • [edit]

Post a comment

Secret


プロフィール

Author:西本 直
1993年、Jリーグサンフレッチェ広島を皮切りに、社会人野球三菱重工広島・協和発酵・ヴィッセル神戸・川崎フロンターレ、そして広島カープ佐々岡真司投手など、プロアマ問わず競技レベルのスポーツ選手から一般の方まで、トレーニングやメンテナンスの指導を行ってきました。
その経験と知識の蓄積を「西本理論」としてまとめ、一人でも多くの方に実践していただくことが、これからの私の使命であると信じ、このブログから発信していきます。
私の理論はスポーツ選手のみを対象としたものではなく、ビジネスマンや家庭の主婦まで老若男女すべてに当てはまる不変のものです。
指導や講演のご依頼も受け付けています。
実名でツイッターも書いていますので、チェックしてみてください。
また、2013年9月9日にConditioning Studio 操をオープンしました。
また、遠隔地にお住まいの方を対象とした動き分析とアドバイスを行っています。
詳細は「スタジオ操」のホームページ内の「遠隔サポート」をご覧ください。
「第25回西本塾」を11月18・19日の土日に開催を予定しています。
詳細はStudio操ホームページ内の「講習会情報」をご覧ください
尚、深める会も12月10日に予定しています。

最新記事

カレンダー

09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -

カウンター

検索フォーム

QRコード

QR