伝えることと教えること

「伝えることと教えること」、この似て非なることをどう使い分けるか、私の中でも大きなテーマとなっています。

日本で一般的に言われているトレーナーという立場は、おそらくそのどちらもする立場にはないと思われているかもしれません。

しかし、人間の体そのものを、さらにはその心の部分にまで踏み込んで対応することが求められる立場であることには異論はないと思います。

戦術やその競技種目に特化した、いわゆる技術を指導するコーチという立場の人間たちが、人間の体の仕組みやその使い方という部分に目を向けていないことが、選手の能力向上や体調管理にマイナスになっていることは否定できないでしょう。

そのためにトレーナーという立場が存在し、選手のためにという同じ目的に向かって協力していくことが求められているはずなのですが、分業といえば聞こえがいいのですが、自分の経験や立場が優先され、相互理解というところまでは行き着いていないと思います。

私は単純に選手の能力向上という目的に沿って、良いと思われることはどんどん提案し指導してきました。

そうやって行っていることの中には、他の担当のコーチや指導者の領域に踏み込んでいる場合もあったと思いますが、選手との関係の中で必要と思われることを発展継続していく過程でそうなっただけで、選手にとっては、これは誰これはどのコーチが指導するという区分けは、かえって混乱させるだけになるのではと考えています。

そうは言いながら、組織というものはややこしいところがあるようで、自分の仕事の領域を荒らされたとか、自分に黙ってそんなことをされたら困るとかいう、組織の論理が働いてしまうようです。

初めてプロのチームで仕事をした時、私は選手にこう言っていました、「チームの外の人間に頼ることは個人の問題だから否定はしない、もしその人間が自分より優れた腕を持っているのだったら、チームに話をして、その人と契約してもらってくれ、自分はいつでも辞める覚悟はできている」と。

まだチームに合流して日が浅く、人間関係も出来ていなかったこともあると思いますが、それだけの自信とプライドを持ってチームと契約したつもりでしたから。

あれから20年以上経ちました、知識も技術も経験もあの頃とは比較にならないくらい向上させてきたつもりです。

あの頃20代だった多くの選手たちも、すでに40を越え指導者として立派な活躍をしています。

彼らの子供たちも大きく成長し、同じ道に進み私の指導を受けてくれる立場に育っています。

そういう関係であれば、これまでほとんど関わりのなかった選手ではあっても、自分の父親の信頼が厚い人間だということで、私に対する信頼は初対面の選手に比べればまったく違うものとなります。

何れにしても、私が個人の立場で指導をしているからこそ、私の思ったことを思ったように指導できることは十分心得ているつもりです。

またここを訪れていただく選手や指導者をはじめ、様々な立場の皆さんも、私の本音というか誰に遠慮することもなく自分の体験から導き出された理論を学びたいという気持ちだと思いますので、何の問題もなく指導する側とされる側の関係が成り立っていると思います。

つい先日ネット上のスポーツニュースで、ソフトバンクに新加入した松坂大輔投手に対しての、佐藤義則投手コーチの指導の仕方が、大きく取り上げられていました。

文字で知っただけの情報ですが、以下のような内容でした。

松坂投手の方から、このキャンプで初めてブルペンに入るにあたり、佐藤コーチに対して、自分のフォームで気になっている部分があり、それをチェックして欲しいという内容の話し合いが事前にもたれていたそうです。

松坂世代という言葉さえ生み出した、野球界の超一流選手が、日本球界に復帰して初めてブルペンでの投球を公開するという、マスコミにとってはこんなにも美味しいニュースはないという状況でした。

その注目度は高く、多くのマスコミや関係者が注目する中で始まった投球練習で、佐藤コーチはまさに手取り足取りという表現がぴったり(このマスコミ表現はかなり大げさだと思いますが)の、指導を行ったということが、松坂という一流選手に対して失礼だとか、中にはマスコミの前で晒し者にされたという表現まで使われていたのです。

球界OBの元名投手であり、指導者であった方のコメントでも同じ論調で佐藤コーチのやり方に批判的な言葉が並んでいました。

松坂投手の投球フォームに関しては、私自身、彼が高校時代飛び抜けた能力と結果を残していた当時から、このままの投げ方では必ず故障をする、長くは続かないという意見を持っていて、聞かれることがあると必ずそのフォームの問題点を指摘し続けてきました。

もちろんそのことが彼の耳に入ることなどあるはずもなく、一向にあの頃のフォームが改善される気配はありませんでした。

日本で野球をやっている時でも、初回から調子良くすいすい投げ続けていると思ったら、7回か8回あたりになると、突然肩をぐるぐる回すような仕草を見せたかと思うと、コーチがマウンドに歩み寄り交代してしまうというシーンを何度も目にしました。

細かい解説は今回はしませんが、もともと大リーグ志向の強かったか彼は、いわゆる体作りのトレーニングに励み、力に頼った投げ方になっていました。

ひとまわりもふた回りも大きな外国人の投手でも、それも生まれ持っての体格や筋力を持ってしても、力任せに見える投げ方では100球が限度で、それ以上の球数は体にとって大きな負担になるということが、経験上分かっているため、日本のように先発完投という美学は通用しない世界となっています。

これは絶対にそうだとは思えません。

体にとって無理のない理にかなった投げ方をすれば、もう少し違う考え方になるとは思いますが、あのパワーを持ってすれば、フォームだ体の使い方だとか細かいことを考える必要がないのかもしれません。

しかし我々日本人の体ではそうはいかないのです、後天的に肉体改造という名の下に作られた体は、先天的なそれとは明らかに違うのです。

話を戻します。

日本のスポーツ界では、教え魔と呼ばれるコーチは、たぶんに嫌われる傾向にあるようです。

さらには、もし大きな期待を背負って入団してきた選手に対して、良かれと思って指導したことが原因で、力を発揮できずに消えて行ったり、調子を崩してしまうという状況が起こった時、それがそのまま指導したコーチのせいにされ、責任問題にまで発展してしまうことが過去何度もあったようです。

オリックス時代のイチロー選手を、それこそ付きっ切りで指導した河村コーチは、イチロー選手の大ブレークに自らの指導が大きく貢献していると球団に訴えましたが、結果は選手が出したもの、コーチは指導するのが当たり前と、金銭的な評価を球団から勝ち取ることができなかったようです。

選手が結果を出したら、それは選手が頑張ったから、もし選手がダメになったらコーチの指導が良くなかったから、これでは本気で指導しようというコーチが少なくなるのは当たり前だと思います。

私の知る限り、本当に指導熱心でこういう人に指導を受けたいというコーチは、選手から煙たがられ、さらには球団も選手のそういう泣き言を間に受け、居辛くなって退団などという話もたくさん聞きました。

指導力があり選手のためにと懸命に努力するコーチは煙たがられ、波風立てず、球団や選手との人間関係を第一とするコーチが居座っていられる状況は、旧態然とした日本球界の縮図にように感じます。

松坂投手は、相対的な比較という意味では、日本でもアメリカでもそれなりの数字を残しています。

しかしそれで満足しているとは思えません。

もっと出来る出来たはずだ、何が違うのだろう、おそらく自問自答の数年間が続いていたことと思います。

もしかしたら私が気付いていることくらい、多くの関係者は気付いていると思います。

それを言えない指導できない雰囲気が、彼を包んでいたことが、ここまで悩みを深くし故障に悩まされ、納得いかない野球人生を送っている原因だと思います。

「彼はもっと素晴らしい投手になれる」今回指導している佐藤コーチも、おそらくずっと思ってきたはずです。

誰が見ていようと見ていまいと、選手とコーチ、納得するまで話し合い、指導をし指導を受ければいいのです。

松坂投手にその気持ちがある限り、もう遅いということはないはずです。

今からでも一味違うニュー松坂になってほしい、私もそれを期待しています。

マスコミがプロ野球を育ててきた功績は否定しません。

しかし、私の嫌いな「キャンプで一年間戦える体を作る」など、日本語になっていない意味不明な言葉もたくさん生み出してきたり、過剰な報道や無責任な報道で、純粋にスポーツとしての野球の発展を阻害してきたことも事実だと思います。

野球選手の社会的な影響を考えれば、試合中にベンチの裏でタバコを吸ったり、試合後の監督のインタビューがくわえタバコで行われていることに、それはダメそれは違うときちんと言えないマスコミなど信に値しません。

もし私の身内や相談される間柄の選手がプロの世界に入ってとしたら、それはその道のスタートラインにつかせてもらっただけであることをきちんと理解させます。

それまでの実績がどうであれ、もう世界が違うのですから、それにこだわっている限り進歩はありません。

本当に自分のためになることであれば、どんどん受け入れて全くそれまでの自分とは違う選手になるくらいの気持ちでないと、厳しい競争を勝ち抜いていけるわけがありませんから。

指導する側も、もっともっと勉強して、もしこの選手が自分の子供であったらと、本気で思うくらい熱い指導をして欲しいと思います。

讃岐での3日間では、指導するにあたって、教えるという一方的な姿勢はとらないように気をつけました。

「こうすればこうなるよ、こういう風にできるようになるとこんないいことがあるよ」と言うことを伝えるにとどまったと思います。

いやいやあなたの指導はもっと熱かった、と言っていただけるかもしれませんが、私の中では、3日間伝えたことで選手個人やスタッフが、チームとして何かを感じてくれて、今シーズンに生かしてほしい、そういう気持ちでした。

私にとっての指導は、分からせたい理解させたい出来るようにしたいという、こちらの思いが優先されるものです。

結果にこだわっているからです。

しかし、伝えるというやり方の中にも、相手の反応や理解の度合いを見ながら、発する言葉を変えたり内容を工夫したりすることで、一方的な指導というスタンスよりも、良い結果を生み出すことができるのかもしれません。

まだまだいろいろなことに挑戦し続けたいと思います。
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プロフィール

Author:西本 直
1993年、Jリーグサンフレッチェ広島を皮切りに、社会人野球三菱重工広島・協和発酵・ヴィッセル神戸・川崎フロンターレ、そして広島カープ佐々岡真司投手など、プロアマ問わず競技レベルのスポーツ選手から一般の方まで、トレーニングやメンテナンスの指導を行ってきました。
その経験と知識の蓄積を「西本理論」としてまとめ、一人でも多くの方に実践していただくことが、これからの私の使命であると信じ、このブログから発信していきます。
私の理論はスポーツ選手のみを対象としたものではなく、ビジネスマンや家庭の主婦まで老若男女すべてに当てはまる不変のものです。
指導や講演のご依頼も受け付けています。
実名でツイッターも書いていますので、チェックしてみてください。
また、2013年9月9日にConditioning Studio 操をオープンしました。
また、遠隔地にお住まいの方を対象とした動き分析とアドバイスを行っています。
詳細は「スタジオ操」のホームページ内の「遠隔サポート」をご覧ください。
「第25回西本塾」を11月18・19日の土日に開催を予定しています。
詳細はStudio操ホームページ内の「講習会情報」をご覧ください
尚、深める会も12月10日に予定しています。

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