肉離れについて

以前にも書いたことがあると思いますが、肉離れについて今思うことを書いておきたいと思います。

西本塾でも時間をとってこのことに関してはお話をしていますが、そもそも肉離れとはどういう機序でどういうことが筋肉の内部で起こっているのでしょうか。

一般的なには、◯◯筋という名前が付いているひとかたまりを筋肉としてイメージすると思います。

痛みを訴え医療機関で検査を受けて付けられる疾患名も、大腿四頭筋の肉離れなどと表現されます。

第三者的にも客観的にわかるように、MRIの画像でこの部分に炎症があり、筋肉に損傷がみられるということになり、全治6週間とか8週間という診断が下されることになります。

まずは患部を動かさないようにして安静を保つことを要求されます。

本人の感覚が優先され、痛みの感覚の軽減度合いと、受傷してからの経過日数が勘案されリハビリが開始されていきます。

そして何よりも優先されるのが、画像診断による組織の回復度合いです。

しかし現実には、組織として異常を認められなくなったとしても、それがイコール治癒ということにはならず、本来の動きを取り戻せないばかりか、再発を繰り返すことが多いのも、このケガの特徴です。

まず私が考えるのは、どうして肉離れという状況が起こってしまうのかということです。

「筋肉の仕事は骨を動かすこと」ですから、筋肉は関節の角度を変えるために存在し、単純に言うと関節を曲げる筋肉と伸ばす筋肉が、それぞれの関節に配置されています。

筋肉が付くとか落ちる、また筋肉が無いとまで表現されることがありますが、人間の筋肉は平等に体の中に存在し、どこかに落としてくることもなければ、後から付け足すこともできません。

屁理屈を言っているように聞こえるかもしれませんが、これは大事なことで、きちんと配置されている筋肉を、その役割通り使っていなかったり、ほとんど負荷がかからない生活を続けていることで、きちんと使えている人や、トレーニングや日常の生活で負荷がかかっている人に比べて、筋肉の発達が見られないというだけの違いなのです。

箸より重いものを持ったことがないと言う人は、当然筋肉の発達は期待できません、というより必要ないから発達しないというのが筋肉の特性でもあります。

その筋肉が関節を曲げたり伸ばしたりの運動をしてくれる時、必要な筋力で必要な角度に動かすという繊細な作業を、屈筋と伸筋の微妙な関係を保ちながら行ってくれています。

私が今こうしてキーボードを叩いて、自分の思う文章を書けているのは、それがきちんと行われているからです。

屈筋と伸筋のどちらかだけが単独で行う動きは皆無だと思います。

そのバランスが崩れた時、筋肉に大きな負荷がかかり滑らかな収縮ができなくなってしまったために起こるのが肉離れではないでしょうか。

私が筋肉を語るとき、筋肉の最終単位である「アクチン線維」と「ミオシン線維」の滑走説から話が始まります。

西本塾では、まず体の仕組みを学んでいただくのですが、その際もっとも重要だと言って時間をかけ図を書いたりプリントした写真を見せながら説明します。

一般的にイメージされる、筋膜に包まれた筋肉のかたまりの中は、蜂の巣かレンコンをイメージしていただくと分かりやすいと思いますが、筋繊維束と呼ばれる束の集合体で、それは同じく筋形室の束で出来ていて、さらにそれは筋原繊維の束で出来ていて、その筋原繊維を構成している最終単位がアクチン繊維とミオシン線維ということなのです。

難しい話に聞こえるかもしれませんが、最終的に組織としてダメージを受け、痛みを発したり炎症を起こしたり、動かしにくかったり、と言うのはこの部分のことを言っているはずなのです。

それをその一歩手前や二歩手前、三歩手前の筋肉の名前を持ち出して、診断名に使われているのです。

私が考える肉離れの原因は、屈筋と伸筋の連携不調であると言いました。

体にとって無理のない動き方をしていれば、連動であり連携を重視して動き方をしていれば、防げるケガだと思います。

大雑把に言ってしまうと、体の関節の動きに対してブレーキになっているのが屈筋で、アクセルの働きをしているのが 伸筋であると私は思っています。

ですからブレーキをかけながらアクセルを踏めば、筋肉にとって当然不自然な動きとなり故障しないほうがおかしいということになります。

サイドブレーキをかけたまま、またフットブレーキを踏んだままアクセルをいくら踏まれても、車はどうしてい いのかわからないのです。

太腿の前側にある大腿四頭筋は、股関節に対しては屈筋ですが、膝関節に対しては伸筋の働きを持っています。

そうなると体の前側に力を入れ、体を丸めるようにして股関節を屈曲し膝を引き上げた状態から、今度は膝を伸展してボールを蹴る動作をしたら、大腿四頭筋はどうやって動けばいいのでしょうか。

股関節の屈筋としての役割を求められたと思ったら、次の瞬間には膝関節を伸展させるための伸筋としての役割を要求される、文字で書くとゆっくりに思うかもしれませんが、これが実際にはほぼ同時に行われるのです。

まさにブレーキとアクセルを同時に踏んでいるようなものです。

走る時も同じです、腕を振って太腿を引き上げるという屈筋主体の動作を行わせておいて、膝から下を大きく踏み出す、膝を伸ばすことでストライドを稼ごうというのですから、屈曲に使われた大腿四頭筋はブレーキのかかった状態で着地という体重の数倍の重さを受け止めなければならないのです。

まっすぐ走るだけならまだしも、スピードの切り替えや方向転換、スタートやストップなどの瞬間的な負荷は想像をはるかに超えるものがあります。

にもかかわらず、それに耐えうる体を作ることがトレーニングであると信じて疑わないのです。

私はそれは無理な相談だと思います、体はそういう風に使うようにできていませんから。

だからもっと伸筋に活躍してもらえるような体の動かし方を提唱しているのです。

そうは言いながら不幸にも肉離れを起こしてしまった時、本来の状態に戻すにはどうしたらいいのでしょうか。

何度も言いますが、自覚的に痛みが取れ、客観的にも画像に写る炎症部位が消えて無くなったことが治癒ではありません。

それは医学的には患部の治癒でしょう、それが医学の目標とするところですから。

しかし現実には本来の動きができない、器質的には改善したが機能的な改善がはかれない、これがケガをしたスポーツ選手にとってもっとも悩ましいところです。

またやるんじゃないかという精神的な不安ももちろんあります、それ以上に問題なのは、アクチン繊維とミオシン線維が、本来の滑らかな滑走を取り戻せているのか、ではないでしょうか。

これを説明するために、私の考えた3・5・7理論が必要となります。

肉離れや剥離骨折の発生機序も、この模式図を使えば、誰にでも理解できるはずです。

その滑らかさを取り戻すことこそが、リハビリトレーニングの最大の目的だと思います。

リハビリではなく、通常の動き作りのためのトレーニングも、実はこの3・5・7理論によって構成されたトレーニングなのです。


まさに何キロを何回持ち上げられるようになったとか、患側が検測に比べて何十%まで回復した、などというレベルでリハビリの効果を確認しているようでは絶対に本来の動きを取り戻すことなどできないと思います。

その具体的な方法まで文字で表すことはできませんが、2年前この考え方を基本とするトレーニングの恩恵を一番受けたのは、今年他のチームに移籍したベテランの選手ではなかったかと思います。

その前年には90分どころか45分も動き続けることができないような状態だったと聞きましたが、2年前のシーズンではシーズンを通して、今までにない長い時間ピッチに立ち続けてくれていたようでした。

彼は肉離れを何度も繰り返し、年齢的なこともあって、患部に対して大きな負荷をかけることを避けているようでした。

マッサージや電気治療を受け、自分なりのトレーニングも行ってはいたようでした。

それでも全体的な運動量も減り、色々な意味でのスタミナが衰えていくことは明らかでした。

その彼に提案したのが3・5・7理論の中で、いかに筋肉の収縮の幅を広げていくかということでした。

その収縮が滑らかになることで動きが改善され、負荷もかけられるようになり、スピードトレーニングにも挑戦できるようになっていった思います。

他の選手にも同じような状態の選手がいましたが、自覚的な痛みの感覚が優先され、私の理論は受け入れてもらうことができませんでした。

周囲のスタッフも、まさに私の独自理論という扱いで、協力を得ることができなかったため、その選手の状況を改善することはできませんでした。

「自分にはこの考え方や方法論は合っていると思うが、それぞれ考え方があるからお前もいうことを聞いたほうがいいとは言えない」と言うのが、ベテラン選手の言葉でした。

もちろん選手どおしで強制はできません、しかし私に言わせれば誰には合うけれど、別の誰かには合わないなどということはあり得ないのです、同じ人間の体ですから。

育ってきた環境や選手個人の考え方がありますから仕方がなかったことですが、肉離れの恐怖から逃れ、思い切って動き回れるような体に戻るためには、アクチン繊維とミオシン繊維にまで目を向けた取り組みを行う以外に方法はないと思います。

その一つの方法として、受傷直後からまったくの他動運動で患部に関係する関節を動かすという発想になりました。

まだまだキリがないほど、肉離れに対する思いはありますが、すべては人間同士の信頼関係なくして成り立たないものですね。

私を信じて私の手を必要としてくれる人には、絶対にその信頼に応えられるよう常に準備しています。

これは私の職人としての自信でありプライドです。

まだまだ腕を磨いていきますよ。
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来週が楽しみです。
こんにちは。
西本塾がいよいよ来週に迫ってきました。とても待ち遠しく思います。フィットクラブ内や河川敷で運動している装備を持参すればよろしいですか?

さて、今日の話題の肉離れですが、私も一度だけそれっぽい経験があります。まだ、たいして運動を再開していなかった40歳頃だったでしょうか、芝生の上で走っていて、グッとスピードアップした瞬間、腿裏がバキッと、本当に音がした感じでした。しばらく立てず、まともに動けるようになるまで2-3か月はかかった記憶があります。自然治癒しかないと思っていたので、特に医者にも行かなかったために時間がかかったのかもしれません。

今日の日記を読んで、当時の肉離れの原因を考えると、体の可動域がかなり狭かったため、筋力の無理なパワーに頼ったからだろうと思います。可動域が狭いと、小さな動きでものすごい大きなパワーを必要とするので筋肉へ余計な負荷がかかったのでしょう。

ランニングに取り組んでいることはご案内の通りですが、以前であれば、スピードアップのためにはグイグイとパワーをかけて足を踏み出していましたが、最近は、全身から力を抜き、自然と後方に流れる蹴り足を柔らかに伸ばす感じで走っています。どこかの筋肉に負荷がかかる感じはなく、以前との相対感ではありますが、軽やかにスピードアップできるようになってきました。

力を抜く方が速く走れる。人間の体って不思議です。
  • 2015-02-15│15:35 |
  • 阪井徹史 URL│
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プロフィール

Author:西本 直
1993年、Jリーグサンフレッチェ広島を皮切りに、社会人野球三菱重工広島・協和発酵・ヴィッセル神戸・川崎フロンターレ、そして広島カープ佐々岡真司投手など、プロアマ問わず競技レベルのスポーツ選手から一般の方まで、トレーニングやメンテナンスの指導を行ってきました。
その経験と知識の蓄積を「西本理論」としてまとめ、一人でも多くの方に実践していただくことが、これからの私の使命であると信じ、このブログから発信していきます。
私の理論はスポーツ選手のみを対象としたものではなく、ビジネスマンや家庭の主婦まで老若男女すべてに当てはまる不変のものです。
指導や講演のご依頼も受け付けています。
実名でツイッターも書いていますので、チェックしてみてください。
また、2013年9月9日にConditioning Studio 操をオープンしました。こちらもご覧ください。
また、遠隔地にお住まいの方を対象とした動き分析とアドバイスを行っています。
詳細は「スタジオ操」のホームページ内の「遠隔サポート」をご覧ください。
西本塾を深める会を9月10日(日)に開催を予定しています。
詳細はstudio操のホームページ内の「講習会情報」をご覧ください。

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