動きを診る

昨日Jリーグが開幕しました。

個人的に気になる選手がいたことと、監督個人を応援したいという気持ちもあって、14時から行われたサンフレッチェ広島対ヴァンフォーレ甲府戦を観戦しに行っていきました。

私自身はサッカーの経験者でもありませんし、試合を見る観点はチームとしての戦術という部分ではなく、個人として、チームとしてどれくらい動き続けていられるのかという所を一番のチェックポイントとして観戦しています。

ですから、観戦というより「診る」という言い方が適当かもしれません。

こういう診方をするきっかけになったのは、2012年10月に行われた日本代表対ブラジル代表の試合を、テレビで観戦した時からだったと思います。

ちょうどその時期、翌年から川崎に行くことを決断し、私がどういう形でチームに貢献できるかを考えていた頃でした。

今サッカー選手に対して指導している根本的な考え方となっている、「90分間走り続ける能力」から、「90分間動き続けることが出来る能力」という発想の転換です。

Jリーグでも今年の開幕に合わせて、どこかの試合を指定して、選手の総走行距離や、瞬間最大スピードをデータ化する試みを始めたようです。

そういうことが好きな人たちには、待ってましたとばかりに数値をもとにした分析をして、話が盛り上がることになるのでしょうね。

実際に私も、川崎というチームをテレビで見て感じたことは、前半後半ともに終盤になると足が止まる選手が多いということでした。

と言うことは、90分間走りきれる体力を養成すれば、このチームはもっと強くなるはず、そう考えるのが自然でしょう。

この発想は今に始まったわけではありません、と言うよりどの時代のどのチームも、もっと言えばどんな年代のどんなレベルのチームも同じことを考えてきたはずです。

長い時間走らされたり、短い距離のダッシュを延々と繰り返させられたり、階段や坂道をいやというほど駆け上がったり、誰でも同じことをやってきたはずです。

そのことで本当にその目的は達せられたのでしょうか。

そうであれば、今頃になって「後半足が止まってしまいました」などという指摘を受けたり、自分でそれを自覚して、リードしている展開であれば交替させてもらったりという必要もないわけです。

その目的が達せられないからこそ、同じことを指摘され、同じトレーニングを繰り返してしまうことになっているのではないでしょうか。

体力があるフィジカルが強い、この漠然とした表現を延々と追い求めてきたことが、サッカーという競技を根本的に進化させられない原因ではないでしょうか。

川崎の試合を見ながらそんなことを考えていた時に目に飛び込んできたのが、ブラジルチームの選手たちの動きでした。

私が「90分間動き続ける」という表現を使うと、試合中一時も休むことなく動き続けるのかという言われ方をすることがありますが、もちろんそんなことを言っているわけではありません。

ブラジルの選手たちも、後ろでボールを回し、素人が見ていると、何をのんびり休んでいるんだという風に見えることがよくあります。

ところが一つのパスを起点にして、まさに全員が流れるようにゴールに攻め上がるシーンは、目を離していると別のチームがそこにいるかのような錯覚に陥るほどのインパクトがありました。

その一瞬を待っていたかのように、全員が同じ意図を持って動きだして行く様は、もちろんテレビでしか見たことしかありませんが、何千何万という子魚の群れが、誰かが号令をかけたわけでもないのに、一瞬にして方向を変える、あの瞬間に似ていると思いました。

もし本当にボスのような魚がいて、急に方向転換をして他の魚について来いと言っても、はいそうですかとあのスピードでまったく同じ動きが出来るはずがありません。

実際のところは分かりませんが、あの魚の群れのような感覚が、ブラジルの選手たちにはあるのではと思ってしまいました。

後ろで何度もボールを回しながら、味方と相手の陣形を確認し、ただ単に大きな穴やほころびを探すのではなく、相手の体の向きや重心の移動を確認しながら、味方が一番ボールを受けやすく、そして次の展開がチームとして共有できる、最も有効な場所へ正確なパスを出せるタイミングを狙っているのでしょう。

その時ボールに絡んでいない選手たちの姿勢が、とても良いと感じたのです、ボールから遠いポジションにいるからとか、自分のところには来ないだろうとか、少し休んでいようなどという雰囲気はまったくありません。

全員が呼吸を整え、一瞬の動きだしのタイミングを待っているようでした。

見ていて「鳥肌が立つ」というのはこういうことなのでしょう、他の人がどう感じたかは分かりませんが、私は後方でのボール回しが始まるたびに、その瞬間を待っていました。

そこに必要になってくるのが、走り続けるではなく、ここ一番で正確に動くことが出来る能力だと思ったのです。

日本人はとにかく一生懸命という言葉を好みます、ハードワークできる選手が評価されます。

メッシ選手は特別中の特別でしょうが、さすがにあの運動量では日本では使われないような気がします、他の選手の負担が大きすぎますから。

ただやみくもに頑張っても、ここ一番に正しい動きが出来なければ何の役にも立ちません、3人の交代枠しか認められていないのですから、基本的には最後の最後まで責任を持ってピッチに立ち続けなければならないのです。

昨日の試合、そういう意味でまだまだ日本的な走り方の選手が目につきました、と言うよりある選手を除けば全員そういう走り方です。

日本のサッカーにスピード感がないのは、そういうことが原因ではないかと思います。

つねに一生懸命、疲れてきたときには周りの選手も疲れているから、それほど目立つことはないでしょうが、交代選手が入ってくるとやたら元気よく見えるということは、そういうことなのでしょう。

ウォーミングゾーンでアップを行っている選手にも注目しましたが、やはりもろに屈筋を使って、腕を激しく振り腿を引き上げ、ただたんに速いステップを踏みと、心拍数を上げ筋肉に刺激を入れることが目的であることは一目瞭然です。

当然ピッチの中で行う動きは、その延長線上にあるわけで、私の提唱する走り方とは程遠いものとなってしまいます。

広島を応援に行ったのですから、まずは開幕戦の勝利に安堵しつつも、他のカードが気になっていました。

その中でも、昨年3冠を達成したガンバ大阪とFC東京の試合は、2対0でガンバリードの速報を知っていたため、悪くても逃げ切りは間違いないだろうと思っていたら、何と2対2のドローで終わっていました。

パトリックと宇佐美の強力2トップが1点ずつ取り、最高のスタートだったはずなのに何が起こったのかと確認すると、武藤が2点取って追いついたというのです。

それも最後は90分を過ぎてからのスーパーゴール、先ほど試合を見直しましたが、同じ22歳で注目を浴びる二人のストライカー対決の結果は、今日ずっと書き続けてきた、姿勢と体の使い方が二人の明暗を分けたと言っても過言ではないと思います。

追いつかれた時、すでに逃げ切りを図るガンバは宇佐美を交替させていましたが、リードされているFC東京はエースストライカーの武藤を替えるわけにはいきません。

宇佐美も疲れていたでしょうが、武藤も同じだったと思います。

武藤の1点目、ゴール前の密集で、ディフェンスを背負いながら反転し、ボールを押し込んでのシュートでしたが、ディフェンスを背負っているにもかかわらず、力任せに踏ん張ることなく相手をいなして、自分の態勢を維持できたからこそのゴールです。

相手と力で押し合っていたら、自分の態勢も崩れてしまうからです。

同点に追いついたシュートはさらに秀逸で、ボールをコントロールした瞬間に迷わず放ったミドルシュートでしたが、この時にも彼の姿勢は素晴らしく安定していました。

あの時間帯に、よくあれだけ姿勢のコントロールができたなという感じです。

それはとりもなおさず、彼が「90分間動き続けることが出来る」体の使い方をしていたからです。

今の時点で宇佐美選手にはそれは難しいと思います、それが二人の差というか違いです。

宇佐美選手にももちろんよい所はたくさんありますが、良い意味でも悪い意味でも体の使い方に、日本的な感じが見受けられます。

「動き続ける能力」をどうやったら獲得できるのか、もっと本気で取り組んだ方がいいのではないでしょうか。

サッカーを診る時、私は個人個人のそういう体の使い方を診ています。

個人個人がもっと成長しなければ、チームとしてまた日本代表チームとしての成長はないと思います。

Jリーグのレベルがもっと上がって、スタンドで観戦することが楽しくなるようなゲームをたくさん見せてほしいと思います。

もう「足が止まってきましたね」というアナウンスは聞きたくありません。
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プロフィール

Author:西本 直
1993年、Jリーグサンフレッチェ広島を皮切りに、社会人野球三菱重工広島・協和発酵・ヴィッセル神戸・川崎フロンターレ、そして広島カープ佐々岡真司投手など、プロアマ問わず競技レベルのスポーツ選手から一般の方まで、トレーニングやメンテナンスの指導を行ってきました。
その経験と知識の蓄積を「西本理論」としてまとめ、一人でも多くの方に実践していただくことが、これからの私の使命であると信じ、このブログから発信していきます。
私の理論はスポーツ選手のみを対象としたものではなく、ビジネスマンや家庭の主婦まで老若男女すべてに当てはまる不変のものです。
指導や講演のご依頼も受け付けています。
実名でツイッターも書いていますので、チェックしてみてください。
また、2013年9月9日にConditioning Studio 操をオープンしました。こちらもご覧ください。
また、遠隔地にお住まいの方を対象とした動き分析とアドバイスを行っています。
詳細は「スタジオ操」のホームページ内の「遠隔サポート」をご覧ください。
今年2回目の西本塾を8月26・27の土日に開催を予定しています。
詳細はstudio操のホームページ内の「講習会情報」をご覧ください。
なお、今回も参加者が5名に満たない場合は開催しません。
9月10日には深める会も予定しています。

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