操体法のこと

私は今年の8月で57歳になります。

昨日NHKの番組で瀬戸内寂聴さんの元気な姿を拝見しましたが、1年近く寝たきり状態が続いて、こんな形で生きているくらいなら死んだほうがいいとまで思われたそうです。

今日で93歳になられるそうですが、こういう方の生き様に接すると、たかだかその半分くらいの年月しか生きていない私の、これまでの経験や今の時点で考えていることなど、ほんの通過点にしか過ぎないことを痛感させられました。

今となっては恥ずかしい話ですが、つい最近まで私は誰に対してもこう言い放っていました、「50数年の人生ではあるけれど、他の誰にも経験できない様々なことを、良いことも悪いことも含めてたくさん経験させてもらってきた、もういつ何が起こっても人生にやり残したことはない」と。

その時々の環境の中で、自分にできる精一杯のことをやってきたつもりです、それに対してどんな評価をされようと何も恥じるところもないし、慢心することもありません、自己満足と言われればそれまでですが、やることはやったという気持ちだけは常に感じることができていました。

最近少しづつではありますが、自分の中に小さな変化を感じています。

自己満足で終わってもいいと思っていたことを評価してくださる方が、意外にも多くいたことに気づかせてもらったからです。

ここ数年の環境の変化は、これまでの人生の中でも大きなものであることは間違いないのですが、これまではこういう事態に陥った時に、いくらプラス思考に捉えようとしても、現実に押し潰されてそれどころではなかったように思います。

しかし、振り返るとその時々に、なぜか私を支えてくれる人が現れてくれるのです。

もちろん家族の支えは一番ですが、思い出してみるだけでもたくさんの方々から、どうしてここまで親身になって私ごときのために力を与えてくれるのだろうと思うほど、古い言い方ですが、足を向けて寝られない方が私にはたくさんいます。

今もそうです、私の考え方を理解して真剣に学ぼうとしてくれる方や、私の知識や技術を信頼して体を預けてくれる人がたくさんいます。

今この瞬間にも、どこかでだれかが私を必要としてくれていることを、何の疑いもなく素直に思い描くことができるのです。

毎日ここを訪れる人がたくさんいるわけではありませんし、経済的に潤っているわけでもありません。

だからこそいざという時、いつでも対応できるというか断らなくても済むことで、信頼に応えることができています。

人間が生まれてきて良かったと感じられる一番の瞬間、自分の存在価値を確認できるのは、自分のことを信頼し必要としてくれている人がいると思える時ではないでしょうか。

自己満足ではなく、そういう気持ちがもてるようになってきました。

だからこの気持ちのままで、一人でも多くの方との信頼関係を築けるように、努力したいと思うようにもなりました。

目には見えませんが、たくさんの糸でたくさんの人と繋がっている、そう思っています。

Newspicksの連載もその一つです。

「アスリート解体新書」というタイトルで、様々な競技の一流選手の動きを私なりの視点で分析したことを言葉にすることから始まりましたが、今連載されているのは一般の方向けに、健康指南書としての内容を書いて欲しいという要求に対して書いた二冊の本が、木崎さんの構成編集を経て記事になっています。

一般の方向けに私がやってきたことといえば、まさに「操体法」を学び、その理論と実践を通して、体の不調に対応してきたことでした。

会社員を辞め本業にして3年目にプロスポーツの世界に身を投じたため、いわゆる施術だけを業としてきたわけではありません。

そのために、もしかしたら施術を業としている方々や、そう言う方々から施術を受けるみなさんの持っている既成概念や常識と、私の考えていることは少し違っているかもしれません。

まず施術を受けに行く方の目的は、体が感じる痛みを軽減したい、機能的に不具合が起きている部分を動くようにして欲しい、またたんに施術を受けることで肉体的心理的な安らぎを求めたいと、大きくこの三つに分けられるのではないでしょうか。

残念ながら痛みと動きの改善に関しては、それほど大きな期待を持って施設を訪れてはいないと思います。

どちらかというと三つ目の要素が強いのではないでしょうか。

私がやってきたことは前者を目的とした手技であり施術です、それもまったく道具を使わないやり方です、それが操体法でした。

どんな目的で来ていただいても、それにお応えするために全力を尽くすことが求められるのは当然ですが、ただ施術を受けると気持ちがいいからという理由で来ていただく方には、申し訳有りませんが、「よし私の力で」とは思えないのです。

どこに行っても良くならない、私ならなんとかしてくれるかもしれない、そんな藁をも掴むような気持ちでやって来る相手に対しては、自分でも驚くような結果を出すことができるのですが、自分でなくてもと、こちらが勝手に思ってしまうような場合は、それなりの対応になってしまいます。

それなりというといい加減に聞こえてしまいそうですが、目的に合わせてきちんと対応していることはもちろんのことです。

9年間も一緒に戦ったプロ野球選手の場合、戦列を離れるような大きな故障は、バント処理をあやまって左肩を脱臼した時と、疲労性の腰痛で本人が本来の力を発揮できないと申し出た時の二回だけだったと思います。

そこには日常の操体法による施術が大きく貢献していたことは間違いないのですが、細かい話などしていませんので、彼はいまだに操体法の本当の意味での効果や凄さに気づいていないと思います。

毎日のように触る私から見れば、体の状態はほとんど把握できていますので、いちいち確認しなくても、こちらで勝手に整えておくことはできました。

そう言う意味で、今とくに痛みがあるわけではないけれど、とにかく良い状態を維持して欲しいという目的で定期的に訪れている方がありますが、そう言う方々は、私がいない期間やここを訪れる間隔が空いたときに、なんらかの不調を感じたことで、あまり好きな言葉でではありませんが、「体に関しては私に任せておけば安心だ」と思ってくださっているようです。

何度かひどい腰痛に悩まされ、その時々にジタバタした経験を持っているその方は、「ああいう風になって仕事に支障をきたすことにならないように、保険のつもりで通っているんだよ」と、笑って話をしてくれました。

そういう要求に対してもきちんと応えられるのも操体法の良いところですし、動けないくらいの状態で来れれた方にも対応できるのも操体法です。

操体法の創始者である橋本敬三先生は、この人間に仕組まれたカラクリを解明し、対処の仕方を体系的にまとめられた時、当時の日本医師会会長の武見太郎氏に、手紙を送り続けたそうです。

現在の国の予算に対する医療費の割合の増加をすでに予想しておられ、病気にならないための方策として、操体法は優れた効果があるということを力説しておられたようです。

場所もとらず道具もいらない、体に仕組まれたカラクリを知り、その使い方を工夫することで、予防効果はもちろん健康増進や、多少の不定愁訴なら自分で治すこともできる、そんな素晴らしいやり方を日本全国に広めることが医師としてやるべきことであるという主張をされたのだと思います。

医師会からまったく反応がないことで、自分だけでもやれることをやろうと、地元仙台では保健師さんを中心に草の根的に操体法が広がったと伺っていますが、病気の方が少なくなれば医師の仕事が減るのだからという意味で、もし医師会が反応しなかったとしたら、とても寂しいことですね。

今私は西本塾や深める会で、操体法に関する内容も指導しています。

しかしその内容はあくまでも施術者目線になってしまいがちで、本来橋本先生が普及させたかった、一般の方がいつでもどこでも取り組める、自己管理であり健康法としての操体法ではないように思います。

渡辺先生がカルチャーセンターで行っていた操体法教室は、まさにそういうものだったのではと想像しています。

私はいろいろなことをやりすぎてしまって、逆にいえばどんなことにも対応できるつもりではありますが、今、一般の方の健康教室的な内容で人を集めてという気持ちはありません。

一般の方に操体法を応用した健康法をお伝えするという意味では、Newspicksの連載がその役割を果たしてくれればと思っています。

自分の体と対話するという、意味不明な言葉を多用していますが、操体法ほど自分の体の状態を把握するのに適したものはないと思います。

体中の関節が連動する様子を自分で確認することができるということは、いい状態も少しおかしいなという状態も自分で気付くことができるのです。

そしてそれらを自分で改善することにもつながりますし、どの程度になればもう大丈夫とか、回復の度合いも自分でわかります。

色々なことをやってきて、これからも色々なことをやり続けるのでしょうが、操体法というものと出会わなければ、そして渡辺先生と出会わなければ、今の私は絶対に存在していません。

そのご恩に報いるためには、一番の基本である、自分の体は自分で整えるという操体法の基本理念をもっと世の中に広める活動も、やらなければならないことだと思います。

私にしかできない、私を信頼し頼ってくれる人を相手にしていることは、やり甲斐もあり充実感もあり、達成感もあり、何よりストレスがありません。

それでも、どなたかの紹介で、私の事などよく知らないでここを訪れた方にもきちんと対応し喜んでいただけるよう、心穏やかに笑顔で接する事ができるように、私自身の心と体を整えておかなければなりません。
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プロフィール

Author:西本 直
1993年、Jリーグサンフレッチェ広島を皮切りに、社会人野球三菱重工広島・協和発酵・ヴィッセル神戸・川崎フロンターレ、そして広島カープ佐々岡真司投手など、プロアマ問わず競技レベルのスポーツ選手から一般の方まで、トレーニングやメンテナンスの指導を行ってきました。
その経験と知識の蓄積を「西本理論」としてまとめ、一人でも多くの方に実践していただくことが、これからの私の使命であると信じ、このブログから発信していきます。
私の理論はスポーツ選手のみを対象としたものではなく、ビジネスマンや家庭の主婦まで老若男女すべてに当てはまる不変のものです。
指導や講演のご依頼も受け付けています。
実名でツイッターも書いていますので、チェックしてみてください。
また、2013年9月9日にConditioning Studio 操をオープンしました。こちらもご覧ください。
また、遠隔地にお住まいの方を対象とした動き分析とアドバイスを行っています。
詳細は「スタジオ操」のホームページ内の「遠隔サポート」をご覧ください。
今年2回目の西本塾を8月26・27の土日に開催を予定しています。
詳細はstudio操のホームページ内の「講習会情報」をご覧ください。
なお、今回も参加者が5名に満たない場合は開催しません。
9月10日には深める会も予定しています。

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