全体を診るということ

今日の記事はとくに施術を業としている人にはヒントになるかもしれません。

私の仕事は体を整えるという、一般的に言う施術という仕事と、体づくりから動き造りへという発想をベースにした、トレーニング指導の仕事の両方の側面から、人間の体と対話を行っています。

普通に考えればまったく違う仕事で、スポーツの現場においてはトレーニングコーチやフィジカルコーチという肩書きの人と、トレーナーと呼ばれている人たちは、立場も仕事の内容もまったく違うものになっていることがほとんどだと思います。

たまたま私が最初に所属したチームに前者が不在だったため、トレーナーとして契約した私が、両方の役割を担わざるを得なかったということでした。

なぜそれができたかというと、私が会社員をやめてこういう仕事に変わろうと思ったきっかけ、そしてこの考え方こそが、体というものに向き合うために本当に必要な理論であり、求め続けて行くに足りる真理だと思えたからです。

それが渡辺栄三先生から学んだ操体法でした。

今日はその理論を学び深め続けている私が、人間の体をどうやって診ているか、自分の思考を整理する意味でも、文章にしておきたいと思います。

現実として、西本塾に参加してくれる人たちの受講動機にも、このことを知りたいということを書いてくる方が多いです。

私が体の動きをどういう視点で見ているのか、また不調を訴えている体とどうやって向き合うのか、そしてどうやって対話を試みるのか、つまるところ西本理論を形にするために、絶対に知っておきたいと思うのは当然のことだと思います。

ただ、見てわかる聞いてわかるというものではないことも、当然覚悟してくれていると思います。

私という人間を見て、話を聞いて、体を動かして、それぞれの皆さんがどう感じるか、その感性の部分が大きいと思います。

それをできるだけ言葉にして伝えようというのですから、学ぶ側以上に伝える側の私の方が、より深く思いを巡らせる必要があります。

そんな中、同じような症状を訴えて二人の選手が相前後して私の元を訪れました。

信頼関係の深さという意味では少し差がある二人でしたが、二人とも私に対する期待感は同じくらいあったと思います。

そんな二人がまるでテープレコーダーを再生するように同じことを言ってきました。

歩いたり走ったりプレー自体できないことはないが、膝の関節辺りに痛みに近い違和感があって、思い切ってプレーができないということでした。

もしプロのチームでトレーナーにこういう話を持っていくと、自分の知識で選手に状況を説明し納得させることができず、また技術で改善が図れる自信がないと、まずは医師の診断を仰ぐため画像診断を受けさせることになります。

今現在どこそこの部位に炎症があるとかいう言われ方で、解剖学的な部位を特定し疾患名を付けられます。

膝蓋靭帯炎とか鵞足炎とか言う名前です。

医療機関は各種の機材を使って、本人が痛みを訴える部位を調べるのですから、何も異常がないでは納得させられません、重箱の隅を突っついてでも何かを探し出し、疾患名をつける必要が出てきます。

器質的な損傷が無く、単なる炎症があるという程度の診断であれば、湿布を渡して様子をみてくださいということになります。

言われた方も、私から言わせると「それでいいの」と思うのですが、疾患名を告げられたことでなぜか安心してしまうのはなぜなのでしょうか。

「どうなっているのか心配だったけど、そういうことだったのか」と、納得顏ですが、本当にそれでいいのでしょうか。

その流れで進めていくと、今痛みの原因となっている悪い部分はここで少し炎症があるから、一定期間無理をせず安静を保ち、各種の医療機器の力を借りて、炎症状態の早期回復を図ることが治療の方法であり、治癒やプレーに復帰するための正しい方法となっていきます。

改めて画像を撮影し炎症状態が改善されたことをもって治癒とし、復帰へのトレーニングの負荷をあげて行くという方法を取れば、教科書的には間違っておらず、誰にも文句を言われる筋合いは無いということになります。

ところがそういう段取りを経てリハビリからトレーニングへと移行した選手が、そのまま問題なく復帰していくかというと、そうはいかないのが現実です。

骨折したが骨は確実についた、靭帯が一部断裂してしまったが器質的には問題が無い状態にまで回復した、炎症がひどく大きく腫れ上がっていたが、全くその状況は見られなくなった、すべて医学的には治癒でしょう。

だから動けて走れてボールを蹴れて、ケガをする以前のようにプレーができるか、残念ながらそうでない場合の方が多いのです。

リハビリやトレーニングのことは今日のテーマではないので詳しくは書きませんが、最も大事なのはその部分です。

それよりも今日のテーマである「体をどう診るか」というスタートのところから間違っていると思うのです。

今回の二人も痛いのは膝です、それは間違いありません。

私がまず確認するのは、外力ではなく自分で動いているときに膝を捻ったり無理な力がかかるような状況はなかったか、もちろん外力によって蹴られたりぶつかったりという状況はなかったかという問題です。

これがあると骨や靭帯や半月板といった組織としての器質的な損傷が起こっている可能性があります。

そうであれば、一も二もなく画像診断によって状況を客観的に判断する必要があり、私が安請け合いできることではありません。

もしそういうことがないにもかかわらず、気が付いたらなんとなくとか、いつからかはっきりとはわからないけど、今現在とにかく違和感がということであれば、「よしじゃあなんとかできるかもしれないから来てくれ」と言えるのです。

そして体を目の前にしたら、まずしなければならないのは徒手抵抗で行える各種のテストで、本人が気づかないうちに組織の損傷が起こっていないかを確認することです。

これで局所の状態を確認してから、いよいよ「体を診る」という作業に入れるのです。

いつどのタイミングから痛みや違和感を感じたかわからないということは、すでにその部分だけの問題ではないということです。

例えば腰に違和感を抱え、かばって動き続けてしまった結果、左右の膝にかかる負担のバランスが崩れ、筋肉の緊張状態が続いたために付着部付近の負担が大きくなったことが、今現在膝の痛みとして脳が認識し、歩く走るという動きにも支障をきたしているということかもしれません。

歩く姿、仰向けに横たわった姿、うつ伏せに寝かせて膝を曲げてみたときの感覚など、できるだけ多くの情報を探り出し、本人との会話の中で別の部位に異常を感じなかったかなど、体と対話しながら本人とも対話をすることで、いろいろな可能性を探り出し、私のこれまでの経験と照らし合わせ、「なぜ今こうなってしまったのか」ということに対する仮説を立てて行くのです。

それが分からなければ、この体のどこをどう改善することが全体としての体のバランスを整え、結果として局所の痛みや違和感を改善し、動きやすい体に戻していくという、本来の目的に叶うことはできません。

今回二人目の選手は、まだ付き合いが浅く信頼はしてくれていますが、私のこういった考え方までは理解してくれていなかったので、じっくりと丁寧に説明しながら施術を進めましたが、私の思惑通りにことが進み体が変化していくのを、まさに肌で感じ驚いていました。

驚いて欲しいのは私の技術ではなく、人間の体の仕組みであり、それが本当にうまく作られていて、からくり通りに使わないとこうなってしまうし、そのからくりに沿った動きを行うことで、痛みや違和感が改善できるという事実そのものなのです。

よく使われる言葉ですが、「この膝の痛みは腰から来ているね」とわけ知り顔でいう人がいます。

紐の両端が一つづつのこんな発想が本当に正しいと思われますすか、私はそんな単純なものではないと思います。

今回も例えに出しましたが、ピアノの調律師さんから聞いた話ですが、一つの音がおかしくなったから、その音につながるピアノ線を一本取り替えて、その音だけを調整すれば事足りるかというとそうではない、一つの音を変えたことで、ほかのすべての鍵盤の音とのバランスを取り直し、このピアノという楽器そのものの音を作り直さなければならないそうです。

「膝をケガしました、手術が必要な状態だったので、きちんとした手術をしリハビリもして、確実に膝は良くなりました、なのに元のようには動けません」、私が何を言いたいのかもうお分かりだと思います。

一つの鍵盤が出す音は直しても、ピアノという楽器を直していなければ、本当の意味で調律したことにはならないのです。

手術したとかしないとか、そんなことではなく、どんな状況であっても、その人間の体をきちんと整えられたかどうかが、本当の意味での治癒であり、治癒以上にケガをする前よりももっと良い動きができる、もっと良い音を奏でることができる楽器に変身させられるかもしれないのです。

私がリハビリを担当するとき「ケガする前より逞しく」を合言葉に選手と一緒に頑張りましたが、それは単なる強さを求めてではなく、もっとうまく体を支える選手になって欲しいし、その可能性が絶対にあるという信念の元に取り組んでいました。


今回の選手たちも、体の仕組みの不思議さと素晴らしさに気付いてくれたと思います。

気付いてくれさえすれば、どうすればという方法論に導いてあげることができます。

年齢も気にすることはありません、可能性に向かっていく限り限界はないと思います。

こんなことを考えられるようになったのも、ただの方法論やテクニックではなく、体に向き合う心構えを指導していただいた渡辺先生のおかげだと思います。

私がそれをどうやって伝えていくのか、現在まさに試行錯誤の真っ最中ですが、私自身がこうして結果を出し続けなければ説得力がないので、一施術者として、またトレーニング指導者として成長することを一番に考え、それを形にして伝えるというさらに難しい試みに生かしていこうと思います。

今月行う西本塾に参加予定の皆さんも、これまで参加していただいた皆さんと負けず劣らずの高い意識が感じられます。

伝える側として最善の準備をしていきます。


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ご報告
西本先生ご無沙汰しております、西本塾第11期生の中川です。
 暑くなってきましたので、Conditioning Studio 操はかなりの温度となっていないでしょうか。

 熱い西本先生ですが、暑さには十分ご注意ください。

 一つご報告させていただきます。

 先日小学生の卓球東アジア大会日本代表選考会が東京で行われ、私の指導している子が出場し、結果はなんとか日本代表になることができました。

 一言お礼を申し上げたく、メールさせていただきました。本当にありがとうございます。

 先生と出会ったからこういう結果になったとは言わない、しかし、もし先生と出会わなければこういう結果は得られなかっただろうと思っています。

 西本塾を受講してからほぼ毎日、動き作りと「からだほわっと」を行っています。やればやるほど難しいというか奥深いものであると感じています。

 ただ、なんとか子供たちに伝えたいとほんの少しだけですが、日々積み重ねています。受講の時に感じましたが、私の場合皆さんより吸収できていないと感じましたので、焦らず一歩一歩積み重ねようと思っています。

 今回の選考会ですが、4月初旬に行われた、ナショナルチーム選考会では結果を出せず、そのため今回の選考会に向けて今度こそと頑張ってきましたが、1週前には背中を痛めてしまいました。

 どうなることかと思いましたが、祈るような気持ちで「からだほわっと」をしたところたった二日で治ってしまいました。(本当はもう二日痛いようなら、先生のところに行こうと思っていましたが・・・)

 最近は出足が悪く負けることが多いため、選考会二日目には早めに会場に出向き、近くの公園で30分程度西本走りを行いました。このおかげもあってか、初戦からしっかり力を出すことが出来ました。

 また、見方が変わった事で、他の選手があまり強く見えなくなりました。私などは競技経験が乏しく、このような大会のコーチ・監督と比べれば素人同然でありますから、以前は圧倒されることもありましたけれど、もっと体をこう使えば良いのにとか、こんなに無理をさせた打ち方では将来怪我するなとか、そういった風にしか見えなくなってきました、これはものすごい変化です。

 うれしかったのは1日目の夜ホテルで子どもと話しているときのことです。男子は60数人選考会に来ていました。各県代表者1名と以前の大会で好成績をあげている者です。当然弱い子はいませんが、勝負できる人数となると30人程度でしょうか。その中で一人だけ背中の使い方が上手いというか動きが連動している子がいました。この子はいいなと思ったので、子どもに聞いてみました。一人だけ背中の使い方が良いと思った子がいたけど誰かわかる?と。
 全くのノーヒントで聞いたのですが、見事に当てられました。なんでわかったのかと聞いたら、そういう感じの動きをしろとコーチが言っているではないかとのことでした。ということは私からの話は子どもにはイコールで通じているということですよね。

 うれしいことではあるのですが、先生から私へは全くイコールになっていないと思われるので、もっともっと私はレベルを上げなければなりません。今のところはまだ時間をかけて復習・実践し、もう一度西本塾を受講するか、深める会に参加するかを考えています。

 あまり運動の得意でない子どもにも動き作りをやってはいますが、まだまだ言葉足らずでもあり、私の理解・考え不足もあって、子どもたちも少しずつ変化しつつあるような気もしますが、何か軽く壁に当たっているような感じがしております。

 とりあえずご報告です、今後ともよろしくお願いします。

  • 2015-06-08│16:45 |
  • 11期 中川 URL│
  • [edit]
No title
西本先生、5月の深める会参加の皆さま

先月の深める会に参加しました森です。コメントせずに日が経ってしまい申し訳ありません。

深める会では大変お世話になりました。会の一週間ほど前に、走り方をいろいろ試しながら審判をしていたところ、軽い肉離れのような症状がでてしまいました。「それなら今回は遠慮してくれ」と言われることも覚悟しましたが、経緯と走れない旨を西本先生にお伝えして、その間、西本塾で学んだ「動かせるところを動か」し、歩けるようにはなって広島へ向かいました。

後は、先生がブログに書かれた通りですが、ちょうどいい機会だからということで、先生が普段どのような視点で施術にあたっているか、心のつぶやきを口にされながら私に施術をされました。終わった時の不思議感は大きく、先生の早く「すごい」と言えプレッシャーは感じていたのですが、「ふしぎ、どうして」の方が強かったのが実のところです。なにせ、ほとんど患部には触れないのですから。まさに、「全体を視」て、足先から頭までを確認されました。言われてみれば当然なのですが、本人に全くの自覚がなかったことに、大腿部と頚部に強いハリ(コリ?)があり、そこを調整されました。痛みを感じないはずの操体ですが、頚部に対してはぐりぐりでしたね。。。3日間くらい痛かったです。

興味深かったのは、参加されていた皆さんがトイレなど外に出た時に、「どうなの?」「本当に大丈夫なの?」と帰るまで訊いてこられたことです。

残念だったのは、私はそれを見られなかったことです。2日目の施術講習の際に、皆さんが、「昨日の施術を見ていたからやりやすかった」と仰っていて、贅沢ですが、少々残念ではありました。実際に受けた記憶を思い出しながら、家族を練習台にして、選手に施しています。

深める会では、それぞれの考え方や取り組みをうかがうことができ、非常に有意義でした。自分と同じ解釈、違う捉え方があり、なるほどなというものがたくさんありました。これからは、動き作りも施術も、どんどん実践してきたいと思います。そして、それらをもって、また皆さんを情報交換・意見交換をさせていただければと思います。

今後ともよろしくお願い申し上げます。ありがとうございました。

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プロフィール

Author:西本 直
1993年、Jリーグサンフレッチェ広島を皮切りに、社会人野球三菱重工広島・協和発酵・ヴィッセル神戸・川崎フロンターレ、そして広島カープ佐々岡真司投手など、プロアマ問わず競技レベルのスポーツ選手から一般の方まで、トレーニングやメンテナンスの指導を行ってきました。
その経験と知識の蓄積を「西本理論」としてまとめ、一人でも多くの方に実践していただくことが、これからの私の使命であると信じ、このブログから発信していきます。
私の理論はスポーツ選手のみを対象としたものではなく、ビジネスマンや家庭の主婦まで老若男女すべてに当てはまる不変のものです。
指導や講演のご依頼も受け付けています。
実名でツイッターも書いていますので、チェックしてみてください。
また、2013年9月9日にConditioning Studio 操をオープンしました。こちらもご覧ください。
また、遠隔地にお住まいの方を対象とした動き分析とアドバイスを行っています。
詳細は「スタジオ操」のホームページ内の「遠隔サポート」をご覧ください。
今年2回目の西本塾を8月26・27の土日に開催を予定しています。
詳細はstudio操のホームページ内の「講習会情報」をご覧ください。
なお、今回も参加者が5名に満たない場合は開催しません。
9月10日には深める会も予定しています。

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