背中を使う、オクタントトレーニングの効果

私の経験から導き出されてきた体に対する意識の根本である、「体づくりから動きづくりへ」という意識改革に関しては、少しづつではありますが共感してくれる人も増えてきたように思います。

しかし、もう一つの柱というか、ここはどうしても外せないというのが「伸筋の重要性」であり、「広背筋を使う」という意識の仕方です。

体は部分の集合体ではない、丸ごと一つの存在だと言っていながら、なぜ広背筋という単独の筋肉だけは特別扱いしているのかという疑問を持つ方も多いと思います。

西本塾ではiPadで3Dの画面を見せながら、解剖学的に他の筋肉と大きく違うことを認識してもらったうえで、ラットプルダウンのマシンを使用して、椅子に座りバンザイをした状態から首の後ろ、もしくは前側の胸の高い位置にバーを引き下ろすという動作を行ってもらっています。

この動作は、その動作を深く考えて行っていない人から見ると、関節の運動としては、バーを握っている両手の肘を曲げることによって、バーを引き下ろし重さを持ち上げるという動作です。

であるならば、これは肘関節を屈曲させるために働く「上腕二頭筋」が収縮したということになります。

何も間違ってはいません。

今度はバーを強く握ってしまうことを防ぐためにパワーグリップを使用し、スタートポジションからとにかく屈筋の関与を少なくした状態を作り、肘を屈曲させるのではなく、広背筋を強く意識して収縮させることで、広背筋の起始部である背骨の胸椎部分や腰椎部分は大きなS字を形成し、腸骨稜と停止部である上腕骨の小結節部が近づき合うことで肘が脇に引き寄せられ、結果として持っているバーが引き降ろされるという動作を行うことができます。

見た目には全く同じように見える二つの動作ですが、実際に行っていただくと、同じ重さで動作を行っているにも関わらず、後者の広背筋を意識して行った方が明らかに重さを軽く感じ、楽に動作を行うことができるのです。

体験していただいた方は、例外なくそれを感じ不思議そうな顔をします。

持っているバーを引き下ろすためには、腕の力を使うことが当然で、その方が重いものを扱えるという固定概念を持っているからです。

このマシンの使い方や、鍛えられる筋肉はどこかという説明には、必ず「広背筋」と書かれています。

もうお分かりの通り、肘の屈曲で動作を行ったのなら広背筋のトレーニングにはなりません。

このマシンが「上腕二頭筋」の肥大を目的としたものなら、それはそれで間違いではありません、中にはそう書いてあるマシンも見たことがあります。

私はこのマシンは、伸筋である「広背筋」と、屈筋である「上腕二頭筋」の違いを感じてもらうことに関して、最も分かりやすい動きとして、全員に体験してもらっています。

単純に伸筋と屈筋、どちらが強いですか、どちらが持久力がありますかと聞かれても、何をどう比較していいのか分からないと思います。

そこでこのバーを引き下ろすという目的のために、どちらが効率的かという体験をしていただくのです。

考えてみてください、私の腕も細いながら肘をぐっと曲げれば力こぶはできます。

しかしその大きさをどれだけ大きくしたところで、背中に位置する広背筋より大きくなるはずがありません。

ならばそんな無駄な努力をするよりも、元々持っている広背筋の機能を向上させるためのトレーニングをした方がいいでしょう、という結論に結びつけていくのです。

そうやって伸筋の重要性、広背筋の重要性は皆さん分かってくれます。

ただそこからが問題で、実際のスポーツ動作にその広背筋がどう関与しているのか、それを直接結びつけてイメージできる人は少ないと思います。

私の中でもこの部分が、伝える中で一番難しいことのように思います。

それがきちんと伝わらなければ、西本理論を学ぶことと競技動作が向上することがイコールだとは思ってもらえませんから。

今回の西本塾であることに気づいたというか、再認識した瞬間がありました。

鹿児島から参加してくれた森山さんを相手に、「オクタントトレーニング」の実戦版を行っていた時です。

選手役の森山さんも私も、かなりの体力と集中力が要求されます。

動きのタイミングが合わないと、私がケガをすることになります、実際に広島時代に試合前のアップとして行っていた時、選手の足が汗で滑って私の胴体を締め上げ、肋骨を痛めたこともありますから。

私の手は2本しかありませんから、オクタントトレーニングで相手の体に触れられる場所は基本的に2箇所ということになります。

私がそれぞれの部分に手を当て、動きを引き出す合図をした瞬間に、その部分を押し返す、押されたところを押し返す、というのがオクタンントトレーニングの基本となっています。

その時の力の入れ方が問題で、押されたところを押し返すという運動に対して、体に支点を作れない状況を作っています。

ベッドの上で色々な姿勢で行うのですが、どこかに捕まったり足を絡めて力を入れやすくすることは認めません。

空中に浮いて無重力で行うことはできませんから、体のどこかはベッドに接しているわけで、支点がまったくないという状況は作れませんが、できるだけそれに近い状態で行うのです。

その中で体を安定させ、こちらが加えた負荷に対して、方向も筋力の出力もきちんと対応させていくのは、かなり難しい動きになります。

まさに操体法でいう体の連動を、そのまま力の発揮に変えていくためのトレーニングなのです。

その最初の動きである、仰向けに寝た状態で足首を私が外転させようとする力に対抗して、踵を軸にして内転する力で対抗してください、という説明をしている時、森山さんが頑張って力で対抗しようとした瞬間、腹筋や胸筋、上腕二頭筋などの屈筋群が連動して参加してくることが、目にも見えますし、まさに手に取るように分かるのです。

広島時代にある選手の動き作りを目的に開発したオクタントトレーニング、西本塾でも必ず一人の人に選手と同じハードバージョンで体験していただいてきましたが、「ここを説明すればいいんだ」ということに我ながらやっと気付かされました。

今回はそのまま流していきましたが、足先を内側に閉じるように力を入れる動作は、誰がどう考えても体の前側の屈筋を使うものだと思うはずです。

ところが森山さんに、「前じゃないですよ、背中背中、広背筋を使って」と声をかけると、背骨がぐっと反り上がり、私が抑えている足先に、先ほどの何倍の力が伝わってくるのです。

裏腹に表情は和らぎ、自分の動きを冷静にコントロールできているのです。

自分で考え、当たり前のように行ってきたトレーニングでしたが、ここをしっかり伝えることが、西本理論の根幹である「体づくりから動きづくりへ」、「伸筋重視の体の使い方」そのものだったのです。

オクタントトレーニングでは、全ての関節を全ての可動方向に向かって、自由に連動できるようになることを目的にしています。

それができるようになるための絶対条件が、全ての動作の力の源は「広背筋」だという事実なのです。

オクタントトレーニングを繰り返し行うことで、実際のスポーツ動作でこの動き、体の使い方が再現され、効率的効果的な動きができるようになります、と結論付けられるのです。

やはり最後は「オクタントトレーニングだったか」、20年以上前にある選手の動き作りから始まったこのトレーニングは、今頃、自分で言うのもなんですが、素晴らしい効果を期待できるトレーニングなのだと思います。

バクスター監督に請われて神戸に行った時、盛りを過ぎたラウドルップ選手のキレを取り戻そうと、監督が直接彼に西本のオクタントトレーニングを受けるように指示し、何度か行ったことがありましたが、見る人が見れば何を目的にしているのか分かるのですね。

もう数年前になってしまいましたが、ある選手の動きを変えたいと3回くらい行って、お互いに手応えを感じ継続していこうと確認していた矢先に、私が辞めてしまったのでK選手には申し訳ないことをしてしまったと思っています。

週に一度か二度オクタントトレーニングを2年間継続していたとしたら、彼は一体どんな動きを獲得できたのでしょう。

背中を使えるようになることを実際のトレーニングで実感でき、屈筋に頼った動きがいかに無駄な動きだったかを思い知ることができるこのトレーニングは、こちらの負担も大きいですし、きちんと意味を理解して行わなければ良い結果は得られず、似て非なるものになることは明らかですが、塾生の皆さんには是非挑戦していただきたいと思います。

西本塾、回を重ねる度に自分自身に新たな気づきがあり、まさに参加者の皆さんと学び合う機会になっています。

まだまだ頑張らなければなりません。


明日から広島を離れますので、週末の更新はありません、楽しみにしていただいている方々には申し訳ありません。


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Re: No title
島田さん
コメントありがとうございました。
お尻の位置、良い着眼点ですね、それがそのまま股関節の自由度の高さにつながり、背中を使えるということにつながっていきます。
いきなりそうはなりませんが、広背筋を意識したトレーニングを続けていれば必ず姿勢は変わっていきます。
そして動きも変わっていきます。
それを言葉ではなく自分の体で見せること以外に、人を信じさせるすべがありません。
島田さんならできるはずです、頑張っていきましょう。
  • 2015-08-25│10:27 |
  • 西本 直 URL│
  • [edit]
No title
西本先生

ご無沙汰しております。
西本塾12期生の島田健です。


その後の喉の具合はいかがでしょうか?


今年の6月に西本塾に参加させて頂いてから約2ヶ月が経ちました。
あの日以来身体に対しての意識や考え方が大きく変わり、とにかく自分の身体で体感しようと前回教えて頂いた操体法やフライングバックをやってきました。


最近になり、嫁やお客様からお尻の位置が高くなったと時々言われるようになりました。
昨日ちょうど近所にある温浴施設に行き、他の人の体つきを(特に広背筋を意識して)見ると姿勢が悪くお尻の位置も見事に下がっていたのは驚きでした。


あの日からお客様にどう伝えれば分かりやすいか試行錯誤の日々です。発信する事、伝える事の難しさをひしひしと感じております。
納得して頂けるまでは程遠いですが、自分の身体で感じた事を含め伝えていきたいと思っております。


今月に入り一般の方だけではなく、ブラジリアン柔術やサーフィンを競技として行っている方を担当する機会が出てきました。どの競技でも本質は何も変わらないと思うのでもっともっと根っこの部分をみる努力をし、西本先生に頂いた「自分の身体でやってみせるトレーナー」を目指し施術指導に励んでいきます。


嬉しいご報告などではないのでご連絡差し上げるのも迷っていましたがまたその後のご連絡、近況報告させて下さい。
一方的で申し訳ありません。
また、11月の深める会開催される様でしたら是非参加したいと思っております。


西本先生も明日からのお仕事無理せず頑張って下さい。毎回のブログも楽しく読まして頂いております。


本当にありがとうございます。


西本塾12期生
島田健
  • 2015-08-21│18:54 |
  • 島田健 URL│
  • [edit]

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プロフィール

Author:西本 直
1993年、Jリーグサンフレッチェ広島を皮切りに、社会人野球三菱重工広島・協和発酵・ヴィッセル神戸・川崎フロンターレ、そして広島カープ佐々岡真司投手など、プロアマ問わず競技レベルのスポーツ選手から一般の方まで、トレーニングやメンテナンスの指導を行ってきました。
その経験と知識の蓄積を「西本理論」としてまとめ、一人でも多くの方に実践していただくことが、これからの私の使命であると信じ、このブログから発信していきます。
私の理論はスポーツ選手のみを対象としたものではなく、ビジネスマンや家庭の主婦まで老若男女すべてに当てはまる不変のものです。
指導や講演のご依頼も受け付けています。
実名でツイッターも書いていますので、チェックしてみてください。
また、2013年9月9日にConditioning Studio 操をオープンしました。
また、遠隔地にお住まいの方を対象とした動き分析とアドバイスを行っています。
詳細は「スタジオ操」のホームページ内の「遠隔サポート」をご覧ください。
「第25回西本塾」を11月18・19日の土日に開催を予定しています。
詳細はStudio操ホームページ内の「講習会情報」をご覧ください
尚、深める会も12月9・10日に予定しています。

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