走るという行為、スピードの変化と動きの変化

毎日世界陸上の中継を見ながら、今自分が提唱し指導している「走るという行為」の動きづくりを比べながら、改めてどう伝えていくかを考えています。

まずは、私がなぜ走るという行為に関して、今の体の使い方に行き着いたかということです。

人間誰でも、誰に教えられることなく歩くことを覚え、そして走るという動作に移行していきます。

そこには取り立ててこうしなければならないという理屈も説明もなかったはずです。

しかしある年齢に達すると、ほぼ同じような動きになっていきます。

腕はこう振って足はこう引き上げてという指導がなされるからです。

同じ動きを指導されているにも関わらず、足が速い遅いという明らかな差が出てきますが、それはたんに遺伝的な要素や身体能力の差という問題で片付けられてきました。

いったん足が遅いというレッテルを貼られてしまうと、ほとんどの人は走るという行為が嫌いになり、自分から積極的に行おうとはしなくなります。

逆に、相対的に足が速いと認められると、陸上競技だけではなく、他の競技にも積極的に参加するようになり、運動能力の差は大きく開いていくことになります。

そして速さを追求していく過程で、筋肉や靭帯はたまた骨にまでダメージを受け、故障していく選手が跡を経ちません。

肉離れをする野生動物はいないと思いますが、なぜ人間だけがそういうケガをしてしまうのか、本来人間という二足歩行の動物に仕組まれた、速く移動するための体の使い方とは異なる使い方をしているのではないか、そう思うようになりました。

同じ人間といっても、人種の違いで発揮できる能力や体の使い方も異なっているように思います。

これまで世界で君臨してきた、短距離種目のアメリカやジャマイカといった黒人選手たちの肉体そのものや、その能力を遺憾なく発揮した走り方を、我々日本人が真似をすることには、どう考えても違うと思うのです。

同じように、長距離種目に見られるアフリカ系の黒人選手たちの身体つきも、我々とは全く違います。

それぞれの体と能力に適した種目だからこそ、世界一を争っていると思います。

そんな中で我々日本人はどうすればいいのか、これまでもいろいろなことを考えてきました。

そして思いついたというか、実際に自分が動いてみてこれだと思ったのが、今指導している走り方です。

まず一番重視していることが、体に必要以上の負担をかけないということです。

自分の体重を移動させるという行為ですから、それなりの負荷がかかるのは当然のことです。

そうではあるのですが、そのためにその負荷に対応できるように体を鍛えるという発想ではなく、どうすればその負荷を最小限にとどめられるか、そちらの方向で考えたのです。

それを可能にしてくれると思わせてくれたのが、骨盤と大腿骨頭の関節部分、いわゆる股関節の構造です。

大腿骨の形状が直線の棒状のものではなく、膝から上に直線的に存在する大腿骨の先端部分が、骨盤に対してほぼ90度の角度で真横から内側に差し込まれているような形状になっていることです。

そうであれば、骨盤の角度をしっかりと保って、大腿骨が前後に自由に動ける状態を保って、骨盤を前後に捻るように使うのではなく、左右の腸骨を上下に動かすようなイメージを持つと、大腿骨は自然に前後に振り出され、地面を蹴っているという感覚もなく、体を前に運べるということに気づいたのです。

その動きを「アイドリング」動作と名付けました。

骨盤を引き上げる動作を行ってくれているのが広背筋です。

そしてその広背筋の停止部が、上腕骨の小結節部分にあることを考えれば、意識しやすい上腕部分をどう使うかを先に考えるのが簡単だと思いました。

その連携連動をしやすくするための、意識づけのトレーニングが「フライングバックトレーニング」という訳です。

上腕骨を後上方に引き上げることで、広背筋にスイッチを入れ、骨盤の後ろ側を引き上げてもらい、股関節の自由度を確保するという考え方です。

肘から先はどう使うではなく、まったく意識から切り離し、もう無いものと思うくらいでいいと思います。

アイドリングのドリルを行う時には、その場足踏みですから、上腕骨の動きに対して、指先は体側に沿って真っ直ぐに上下することになります。

ここをおろそかにすると、その先のドリルには進めません。

と言うより、練習の7割はこのアイドリングの練習に費やしてくださいとお願いしています。

この動きさえできるようになれば、あとはスピードに合わせて体自身がその動きを変えてくれます。

そう言ってしまうと、指導されている方はまったく意味がわからないということになるのですが、本当にそこから先はそれぞれの体が違うので、画一的にこうでないといけないという指導はできないのです。

進むべき方向に今以上に速く進みたいという意識が、スピードを上げてくれるので、どこをどう変えればスピードが上がるのではないと言いたいのです。

しかしこの言い方では、私の意図をそのまま受け取ってもらうことは不可能なことはわかっています。

文字にすると、今度はそれにとらわれてしまうことになりますが、それを恐れず今思っていることを書いておこうと思います。

まずアイドリングでは手のひらは向き合うような状態で、上腕骨を上下させていてもその状態は変わりません。

アイドリングから少しずつつま先をあげて体が前方への移動を始めると、前腕部の回内動作、手のひらが後ろを向くようにねじられて行きます。

当然肩の部分も内側に捻られ前腕の回内と連動します。

室内でのほんの少しの前方移動から、ゆっくりしたジョギング程度のスピードに変わっていくと、体側に沿って上下していた手のひらが、回内し下方向へ捻り下ろされる時に、体側から離れやや体の前方に振り下ろされて行きます。

これは意図した変化ではなく、スピードの変化により自然な変化です。

そしてさらに少しスピードを上げていくと、肘が後上方に引き上げられた時に、リラックスさせた前腕部分は、肘を中心に前腕部分が振り子のように自然に振られることで伸ばされます。

腕は振ってはいけないとか、こうやって振ってくださいではなく、自然に振られるだけなのです。

私が腕は前後に振りません、と言っているのに降っているじゃないかと言われるのはそういうことです。

さらにスピードが上がり、自分のトップスピードに近づいていくと、両足は空中に浮いている時間が増えてきます、これが走っているという状態です。

しかし、この浮いている時間が長すぎるとピッチ回転数が上がりませんので、右肘を後方に引き上げた時に、自然に振り出されている左の肘を、今度は素早く後方に引くという動きが必要になります。

これを左右繰り返す訳ですが、この後方に引き上げる時に一番大事なことが、広背筋でその動きを行うということです。

肘を引き上げることで背骨がぐっと反って、骨盤が前にグッと進んできます、けっして胸を張っているわけではありません。

この形が今世界陸上で活躍している、世界の一流選手たちの体の使い方です。

腕は縦に使え、肘は曲げ伸ばしするな、その意味がわかってもらえたでしょうか。

末端の部分をどう使うではなく、骨盤・股関節と肩甲骨・肩関節の連動、それに連動して自然に動く腕と脚、それが私が理想とする走るという行為の理想形です。

読み返してみると、走るという行為に説明のはずが、脚の動きや使い方に関して、まったく触れていないことに気付かれたと思います。

そうなんです、速く走るためには地面を強く蹴って太腿の部分をしっかり前方に引き上げて、その脚を素早く引き下ろしてピッチを上げるために腕をしっかり振って、その意識は無いのですから。

進んで行く骨盤部分に置いて行かれないように、骨盤から上の部分が前に倒れてしまわないように、ただひたすら股関節の真下に着地して体を支え続ける、脚の仕事はそれだけだと思っています。

その仕事をしやすいように、広背筋に頑張ってもらって骨盤を引き上げ、股関節の自由度を確保してもらう、走るという行為をこういう風に考えることはできないでしょうか。

少なくとも私はそうやって走っていますし、スピード練習をする時には腕を振っていると言われます。

すべては結果です。

ジョギングの時も全力疾走の時も動きは同じで、その違いは頑張ってスピードを上げるぞとばかりに、力んで筋力に頼ってしまうこととは違うと思うのです。

ゆっくりした動きを確実に身につけたら、あとは速く走りたいと体にお願いしてみてください。

きっと応えてくれるはずです。

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Comment

応援してるよ!
田村君
故障を抱えての来訪にはなったけど、今回も色々なことを学んで帰ってくれたと思います。
話をしたように、故障の原因はすべて自分の体の使い方が原因です。
まだまだ基本的な体の力も足りていません。
その部分は離れているので指導できませんが、正しい動きを身に付けていく過程で、少しずつ体も出来ていくと思います。
僕が伝えた体に使い方でしっかり練習を積んで、活躍してくれることを期待しています。
  • 2015-08-31│10:09 |
  • 西本 直 URL│
  • [edit]
Re: 走体師の結果報告
望月さん
着々と結果を出されているようで、頼もしい限りです。
私が出会うことのない誰かのためにが、こうしてどんどん形になっていくことが私の望みですから。
自転車に乗るという動きは、実は歩く走るのまったくの延長線上の行為です。
骨盤の上下動によって股関節を回転させる動作ですから。
競輪選手の太腿は異常に太いですよね、その筋力を使って股関節を屈曲させ、膝関節を伸展させることでペダルを踏もうとしている選手がほとんどだと思います。
サッカー選手のダメな蹴り方と同じ意味です。
どんどん正しい体の使い方を教えてあげてください。
世界陸上は終わってしまいましたが、すべてのスポーツの原点がそこにありました。
改めてたくさんのことを確認することも出来ました。
深める会でまたお会いしましょう。
  • 2015-08-31│10:04 |
  • 西本 直 URL│
  • [edit]
走体師の結果報告
西本直先生

走る事を通して体の使い方を指導する走体師として活動を始めて8ヶ月経ちますが、結果が出ています。
結果が出た競技が競輪です。走る事と自転車ではまったく別物です。
しかし、指導した選手はS級のレースで3年ぶりに優勝しました。
その選手は、一時期は調子が良かったのですが、落車や怪我を機に調子を落としていて、上手く自転車に乗れなくなっていた所、他の競輪選手から私の事を知り、訪ねてくれました。
選手に聞くと、自転車に乗る時に体のどこを意識して乗ると良いという事は、競輪学校時代にも教わった事がないし、自分自身でも考えた事がないから調子を落とした時に、手立てが見つからないのでかなり焦っていると言っていました。
そんな時に、既に私の所へ通っている選手から、体の使い方を知ると自転車の乗り方が変わる事を聞き、すぐに訪ねてくれました。
予約を頂いてから、その選手のレース映像をインターネットで見ましたが、今回のブログに書いてあるように、体に必要以上の負担がかかるような乗り方をしていて、最後まで走り切れずに失速して順位を下げていました。
そんな選手に、私なりの施術をしました。
骨格の話からはじまり、からだほわっと、スポーツマッサージ、操体法などを行い、1回目の施術が終わりました。
戦術後にベットから起き上がり、地面に立ってもらった瞬間に選手の表情が一変して、この感覚はここ数年なかった感覚だと言っていました。

どんな感覚かと聞くと、おしりが上がり、背中が伸び、肩甲骨が動きやすくて、それが骨盤と股関節に伝わっていく感じといっていました。1回目の施術でそこまで感じれる人も珍しいのですが、おそらくこの選手は無意識のうちに、骨盤が引き上がり、広背筋を使って肩甲骨と肩関節及び骨盤と股関節の連動性で自転車に乗れていたのだと思います。それは、誰から教えられたとかではなく、経験を重ねていって自分なりに無意識でやっていたのだと思います。しかし、ここで私は無意識ほど怖い物はないと思いました。
なぜなら怪我や調子を落とす事はスポーツ選手は必ずありますが、無意識で自転車に乗っていると調子を戻す作業をする際に、体と対話して出来なくなるからです。

この選手は、私の所へ来なければ一生、体と対話出来ずに競技生活を終わっていたのだと思います。そういう意味でも、体に必要以上に負担をかけないで、体と対話する事を日々意識しながらやる事が大切なんだと思います。

結局、この選手は3回施術を受けて優勝してくれました。
そんな短期間で結果が出る事に本人はすごく驚いていましたが、私からしたら西本理論を謙虚に受け入れて、取り組みさえすれば必ず結果が出ると思っていましたから、嬉しさはすごくありましたが、そんなに驚きはなかったです。
といった事が走体師としての活動報告です。

また、私自身でもサブ3に向けて練習をしているのですが、どうしてもスピードが上がらずに悩んでいました。他のランナーが出している本を読んで、スピード練習をどのような事をしているのか調べました。そこには、400m、800m、1000mをそれぞれ何秒以内で走るというインターバル走が書かれてありました。
実際にやってみましたが、とにかくしんどい。あまりにもしんどいので、こんなしんどい事をして結果を求めないといけないのか?このしんどい事が力に変わってスピードが上がるのか?と疑問を持つようになりました。もっと負担を減らして気持ち良くはしれないのか?と思う日々を過ごしました。
そんな際に、第7回西本塾のレジュメを読み返し、初心に帰りました。
そして、アイドリングから始まり、スラロームからのスピード練習を行い、体との対話に時間をかけました。すると、どうでしょう。体に負担がかからないでスムーズにスピードが上がっている事を実感できました。それも、骨盤の移動に足が付いて来て、上半身は立ち上がり、背中を押されるように走れブレーキがかからない走りになり、骨盤が柔らかく動き重心移動が常に行われている感覚でとても気持ち良く走れました。以前よりスピードが上がっているのに、しんどくなくて、気持ち良く走れる、これを続けていけば、自分が望むスピードは出せるのではないかとさえ思えてきました。
ちょうど、こんな事を感じていた事もあり、今回のブログ内最後の言葉が胸にしみました。
「ゆっくりした動きを確実に身につけたら、
あとは速く走りたいと体にお願いしてみてください。
きっと応えてくれるはずです。」

今、思っている時に、その事について書いてくれる
先生のブログはやっぱり不思議ですね。

以上が近況報告になります。
いよいよ9月の深める会も近づいてきました。
とても楽しみにしていますので何卒宜しくお願い致します。

望月竜弥
  • 2015-08-29│15:25 |
  • 望月 竜弥 URL│
  • [edit]
No title
今回もご指導ありがとうございました。しっかり結果をだして恩返しができるよう頑張っていきたいと思います。これからもご指導よろしくお願いします。
  • 2015-08-29│13:20 |
  • 田村 URL│
  • [edit]

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プロフィール

Author:西本 直
1993年、Jリーグサンフレッチェ広島を皮切りに、社会人野球三菱重工広島・協和発酵・ヴィッセル神戸・川崎フロンターレ、そして広島カープ佐々岡真司投手など、プロアマ問わず競技レベルのスポーツ選手から一般の方まで、トレーニングやメンテナンスの指導を行ってきました。
その経験と知識の蓄積を「西本理論」としてまとめ、一人でも多くの方に実践していただくことが、これからの私の使命であると信じ、このブログから発信していきます。
私の理論はスポーツ選手のみを対象としたものではなく、ビジネスマンや家庭の主婦まで老若男女すべてに当てはまる不変のものです。
指導や講演のご依頼も受け付けています。
実名でツイッターも書いていますので、チェックしてみてください。
また、2013年9月9日にConditioning Studio 操をオープンしました。
また、遠隔地にお住まいの方を対象とした動き分析とアドバイスを行っています。
詳細は「スタジオ操」のホームページ内の「遠隔サポート」をご覧ください。
「第25回西本塾」を11月18・19日の土日に開催を予定しています。
詳細はStudio操ホームページ内の「講習会情報」をご覧ください
尚、深める会も12月10日に予定しています。

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