流れの中の動き

全米オープンテニス2015、昨年の準優勝を受け、最近の好調ぶりもあって第4シードの錦織圭選手には大きな期待がかけられていました。

ところが残念なことに1回戦で、世界ランキング41位のベノワ・ペール選手に逆転負けを喫してしまいました。

世界ランキングというのは各種の大会で獲得できるポイントを総合して、現時点でのランキングを決める制度ですから、たとえ格下であってもこれからどんどん上がってくる選手もいるわけで、そう単純に負けるはずがない選手だったと決めつけるわけにはいかにと思います。

ここで思い出したことがあります、現在世界ランキング1位のジョコビッチ選手が書いた「ジョコビッチの生まれ変わる食事」の中にこんな言葉がありました。

「世界最高といえる存在が2人いた。フェデラーとナダルだ。そしてこの2人からすれば、私など、たまに出てきて、少し苦しくなるとすぐ棄権してしまう〝雑魚〟にすぎなかった。この2人こそ本物のエリートだ。私はまだ第二集団の中でもがくだけの存在だった」というくだりがあります。

今から8年くらい前のことだと思いますが、「世界のトップを目指しフィジカルではなくメンタルだったのではないか、様々な薬も試し、その後ヨガをして、少しでも思考に平静をもたらそうとしたり、1日14時間、1日も休むことなくメンタルとフィジカルの向上のために何かをしていた。そして世界ランクングトップ10に加わるようになった」と書かれています。

私もこれまで幾つかのスポーツのプロと呼ばれるカテゴリーの選手と仕事をしてきましたが、ここまでストイックに自分の時間のすべてをかけて向上していこうとしている選手には、残念ながらお目にかかったことはありません。

テニスにはあまり関心がありませんでしたが、この本を読んでテニス選手に対する見方がまったく変わってしまいました。

もちろん全員がそこまでストイックな生活をしているとも思えませんが、ここまでやらなければ世界のトップに立てないというテニスというスポーツってなんだろうと、改めて考えさせられました。

そんな中、日本人である錦織圭選手が、トップ10どころかトップ4にまで登りつめました。

登りつめたと書きましたが、ジョコビッチ選手の言葉を借りると、まだまだ世界最高のとか本物のとかいうレベルには達してはいないのでしょう。

ここまでたどり着いた選手は、そこからが本当の意味で大変で、こうしていわゆる格下の選手に負けることはもう許されないのです。

相撲でいう、横綱は負けたら即引退、そのくらいの覚悟が必要なのだと思います。

錦織選手は残念ながら負けてしまいました。

ふと思い出して、昨年の10月27日にNewspicksの連載企画の中で書いたテニスに関しての記事を読み返して見ました。

4人の選手を主に伸筋を使っているか屈筋を使っているかという視点で分類したものです。

錦織選手は屈筋型、私の目にはナダル選手とともに攻撃型の選手であると映りました。

対してジョコビッチ選手とフェデラー選手は伸筋を主に使ってストロークする、攻撃型に対して守備重視型とまではいきませんが、オールラウンドプレーヤーとでも言うのでしょうか、負けない試合をする選手というイメージでした。

その記事を書いたときに編集担当の方が4人の練習が見られる動画サイトを貼り付けてくれていたので、改めてそれを見比べると、そのことがよく分かります。

特にジョコビッチ選手は、ストロークした後、他の誰よりも構えの位置、ニュートラルポジションというのでしょうか、そこに戻るのが早いのです。

きちんとストロークしているにも関わらず、元の姿勢に戻るのが早い、これが現在世界一の守備ができる選手と言われている所以なのではないでしょうか。

世界ランキングトップ10が見え始めている頃の錦織選手は、どちらかというと攻撃重視型から、マイケルチャンコーチの指導で、攻撃力をさらに高めながらもオールラウンダーを目指していたと思います。

そうでなければ今のランキングまでは上がってこられなかったでしょう。

ジョコビッチ選手のいう第2集団につけた錦織選手は、自分のプレースタイルにかなり自信を持ってきたと思います。

オールラウンダーを目指しながらも、かなり攻撃力を上げてきました。

テニスは全くの素人である私ですが、ここから錦織選手が第一集団に割って入るためにどうしても必要だと思ったことが、ジョコビッチ選手に見られるストローク後のニュートラルポジションに戻る早さです。

強いストロークや、絶妙なドロップショットを打って、これで決まったと思った瞬間それを返されて慌てたり、普通にストロークしているときでも、打った後が何となくに見えたりではなく、どんなボールをどんな形で打った後でも、誰よりも早く姿勢を立て直す、これができるかどうかが、第一集団入りへの鍵だと思います。

サーブのスピードも精度も上がり、自分が試合の主導権を握る展開が多くなったと思います。

勝つためにはという発想から、負けないためにはという部分も、トップ選手には必要だと思います。

「タイブレークで1本決められていたら」、というコメントもありましたが、そんな場面はたくさんあったと思います。

攻撃と守備という単純な分け方ではなく、常に一対一で打ち合っているスポーツですから、格闘技にも通じるところがあると思いますし、他の多くのスポーツにも言えることだと思います。

サッカーでも守りを重視するとか、攻めを重視するとかいう言い方がされますが、ボールを持った時点で攻撃であり、奪われた時点で守備ではありますが、攻めていながらも守っているし、守っていながらも攻めを考えている、単純な発想ではとても追いつきません。

私が走るという動作を指導すると、まっすぐ走ることは言われているイメージはなんとなく分かったが、ストップやターンといった動作にはどう応用できるのかという質問をされることがあります。

こういう発想になるのは、動作を一つ一つ分けて考えてしまうからです。

テニスに攻撃も守備もないように、一連の動作は流れの中で行われます。

走るという行為は前に進むためだけのものではありません。

自分が進みたいという方向へ、必要な早さで移動するための体の使い方を学ぶための、一つの方向一つの練習ドリルとして、前に向かって走るということを行っているのです。

抽象的な表現で申し訳ないですが、皮膚という皮袋の中に浮かんでいる数え切れない細胞たちが、常に揺れている状態をイメージし、前後左右そして上下に、どこへでも揺れ動いてくれることが体の動きであり連動だと思います。

便宜上、関節から関節への連動という言葉も使いますが、本当の超一流選手たちの動きからは、そんな言葉では言い表せないまさに細胞が揺れているという表現がぴったりな動きがたくさん見られます。

だから美しいのです。

錦織選手が今回の敗戦から何を学びどう進化してくれるのか、とても楽しみです。

ストロークの後の体勢の作り方とその早さ、そこが改善されたとき、きっと第一集団を脅かし、その中に割って入ることができると思います。

この部分は意識の問題の方が大きいと思うので、ぜひそういうアプローチもして欲しいと思います。

もうすぐ行われるサッカー日本代表の試合でも、動きのつなぎの部分に注目して見ることで、いわゆる決定力不足の原因も、もしかしたら見つけられるかもしれません、楽しみにしています。

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Comment

Re: No title
今夜の試合、しっかり見させてもらいます。
気になったことがあれば、できるだけリアルタイムでツイートしたいと思います。
  • 2015-09-03│15:10 |
  • 西本 直 URL│
  • [edit]
No title
いつも楽しみに拝見しております。
サッカー日本代表の動きを西本先生の視点から見る解説楽しみです!
  • 2015-09-03│13:36 |
  • ao URL│
  • [edit]

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プロフィール

Author:西本 直
1993年、Jリーグサンフレッチェ広島を皮切りに、社会人野球三菱重工広島・協和発酵・ヴィッセル神戸・川崎フロンターレ、そして広島カープ佐々岡真司投手など、プロアマ問わず競技レベルのスポーツ選手から一般の方まで、トレーニングやメンテナンスの指導を行ってきました。
その経験と知識の蓄積を「西本理論」としてまとめ、一人でも多くの方に実践していただくことが、これからの私の使命であると信じ、このブログから発信していきます。
私の理論はスポーツ選手のみを対象としたものではなく、ビジネスマンや家庭の主婦まで老若男女すべてに当てはまる不変のものです。
指導や講演のご依頼も受け付けています。
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また、2013年9月9日にConditioning Studio 操をオープンしました。こちらもご覧ください。
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