普段の自分を知るために その1

もう何年前だったでしょうか、70を少し過ぎた男性が、腰痛を主訴に私のもとを訪れました。

聞けばその方、60歳を超えたあたりから健康のためにと、朝目が覚めた瞬間、布団の中でいきなり腕立て伏せを30回、間髪入れずに腹筋運動を30回行ってから、寝床を離れるという生活を続けてこられたそうです。

それがこのひと月以上、起き抜けの運動をやりたくても腰が痛くてできなくなったと言われるのです。

それを聞いて私は、この方が気の毒なのではなく、この方の体が気の毒に思えて仕方がありませんでした。

睡眠時間に個人差はあるにせよ、数時間は横になって身体を休めていたはずです。
それが目が覚め意識が覚醒した瞬間に、体に対して大きな負荷をかけることが、はたして健康のためになるのでしょうか。

ご本人はいたって真面目に、十数年日課にしてきたことができなくなって困っている、なんとか腰痛を改善して、今まで通りのことができるようにしてくれ、と言われるのです。

まずは主訴である腰痛に対して、体全体を整えるためのアプローチをしていくのですが、そのときにも足は触らなくてもいいから腰を治せ、肩は腰痛に関係ないだろうと、あくまでも悪いのは腰で、他の部分を触っている暇があったら腰を触れと言われるのです。

さすがにこれはだめだと思って、私は一から体の仕組みや、どうして今こうして痛みを訴えているのかなど、出来る限りの説明を試みました。
しかしその方の耳にはほとんど届いていないようでした。

ですから、腰痛そのものの痛みを軽減してあげることができたとしても、本当にこの方のためになるのだろうかと、疑問に思えてしまいました。

私が言いたいことはもう分っていただけると思います。

少しでも楽になれば、また明日から寝起きのトレーニングが始まるはずです。

寝た子を起こすという言葉がありますが、まさに今の今まで休んでいた体を、どうやって今日一日上手に付き合って動いてもらえるように準備するか、それが本来寝起きの最初にやらなければならない、人間としての暖機運転、準備運動なのではないでしょうか。

自分の体を物のように扱い、壊れたら治せ、治れば好きなように使うのは自分の勝手、本当にそれで良いのでしょうか。

では体にやさしく、じっくりと話しかけ、その答えを聞き取っていく作業、「からだとの対話」とは、どうやって行うのでしょう。

それぞれご自分の寝起きをイメージしながら読んでください。

目が覚めました、その姿形はそれぞれだと思いますが、一度仰向けで手足を伸ばしてみてください。

体のどの部分にも無理な力が入らず、自然に手足が伸びているでしょうか。
膝は伸びているでしょうか、腰は反っていないでしょうか、背骨は真っ直ぐに感じるでしょうか、首は右を向いたり左を向いたりしていませんか、顎が出ていたり逆に喉が苦しかったりしていませんか。

自分の体です、自分でしか感じられない様々な感覚を研ぎ澄ませて、生まれた時から死ぬまで、毎日頑張って動き続けてくれる体のことを心を込めて想ってください。

まずはここからです。

何度も言いますが、この紐を引いたら大きな赤い飴玉がもらえる式の、これをやればすぐに痛みが取れて体が楽になる、何でもいいからそれを早く知りたいんだ、そういう考えからは一刻も早く離れてください。

治すのは、変わらなければならないのは、何よりも自分の考え方だということを肝に銘じてください。

そうして毎朝毎晩、夜は布団に入った時に、今日一日頑張ってくれた体は、どういう状態になっているのかな、朝目覚めた時には、さあ今日一日よろしくねと、お願いしなければならない体はどういう状態になっているのかと、じっくり観察してみてください。

これが本当に続けられた方は、次にどうすれば良いのかというステップに進んだ時に、ああなるほどそういうことねと納得していただけるはずです。

早く当たりの紐を引きたいと焦ってしまうと、からだとの対話はまったく成立しなくなりますので悪しからず。

自分の寝姿を自分で見ることはできませんし、他人の寝姿も、私のような観点で見ることはほとんどないと思いますが、自分の体との対話をするヒントとして、第3者の見方を少し説明しておきます。

どなたかに横になっていただいて、これから説明するチェックポイントを確認してみてください。

柔らかいベッドだと体が沈んでしまって分かりにくいのですが、仰向けで寝ている人の足元から全身を眺めると、鼻先からへそを通って恥骨を通り両足踵の真ん中を通る、体の正中線(センターライン)が、ほぼ真っ直ぐという人はほとんどいません。

顔が左右に向いていたり、左右に傾げていたり、それが複合していたり、肩の高さの違い、肩のねじれの違いによる肘や掌の向き、骨盤の傾きや骨盤の反りによってお腹が出っ張って見えたり、骨盤が傾いていれば当然足の長さが違って見えたり、足先の開き具合が左右違っているなどなど、探せばきりがないほど人の体は定規で描いたような左右対称ではありません。

この時点ではまだ、左右違うから悪いとか変だとか、そういう風には思わないでください。

これはあくまでも人の体を見ることで、自分の体との対話をしやすくするための練習だと思ってください。

いかがでしたか、人間の体は本当に不思議な存在です、けっして与えられた道具ではありません。

まずは「敵を知り己を知れば百戦危うからず」の例え通り、己の体とじっくり向き合ってみましょう。
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プロフィール

Author:西本 直
1993年、Jリーグサンフレッチェ広島を皮切りに、社会人野球三菱重工広島・協和発酵・ヴィッセル神戸・川崎フロンターレ、そして広島カープ佐々岡真司投手など、プロアマ問わず競技レベルのスポーツ選手から一般の方まで、トレーニングやメンテナンスの指導を行ってきました。
その経験と知識の蓄積を「西本理論」としてまとめ、一人でも多くの方に実践していただくことが、これからの私の使命であると信じ、このブログから発信していきます。
私の理論はスポーツ選手のみを対象としたものではなく、ビジネスマンや家庭の主婦まで老若男女すべてに当てはまる不変のものです。
指導や講演のご依頼も受け付けています。
実名でツイッターも書いていますので、チェックしてみてください。
また、2013年9月9日にConditioning Studio 操をオープンしました。こちらもご覧ください。
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