アイドリング・揺らぎの動き

先日行われたW杯予選の感想でも書きましたが、「力む」という感覚が人間の動作にとってどれだけマイナスな要素となっているかを改めて考えなければならないと思います。

我々日本人は、いわゆる頑張っている人が大好きで応援したくなります。

頑張っているという意味はいろいろあると思いますが、スポーツという戦いの中で笑顔を見せたりするのは、あまり好まれないことだと思います。

しかし、その精神的肉体的余裕のなさが、体を硬くして動きを阻害していることは明らかです。

もう3年前のことですが、新たな仕事の準備のため、これまでやってきたことを整理している時に、一番伝えなければならないと感じたことが、「走り続けるではなく動き続けることができる体の使い方」でした。

この言葉自体は、現場を離れてから思いついた言い方で、「頭と体を」ということばも付け加えましたが。

闇雲に苦しいトレーニングを続けたとしても、走り続ける能力が獲得できないことは誰の目にも明らかなのに、なぜ誰もそのことに疑問を持たず、延々と同じことを繰り返しているのだろうという、素朴な疑問から私の発想は始まりました。

この発想から生まれた走るという動作における体の使い方は、現場でも一定の効果を発揮してくれました。

期間が短かったですから、それ以上のことは言えませんが、今のように私の中でも発想が広がり、いろいろなアイデアが湧いてきたことを継続して指導できていれば、自信を持ってもっと大きな目に見える効果を出せたのではないかと思っています。

西本理論などと大上段に振りかぶったような言い方をさせてもらっていますが、その根幹になるものは基本的なことばかりで、取り立てて新しいことなどないはずです。

この走るという動作に関しても、体の仕組みの話から始まって、それをどう使うと効率的に目的を達してくれるかという単純な話でしかありません。

それでも功を焦って、最後の走り方だけを学び、練習すればそれが身につくと思ってしまう人がほとんどです。

一通り説明しドリルを行い、屋外での実技に移るわけですが、やはり目的は速く走りたいということになり、それまでの話が消えてしまうことになってしまう人いました。

練習時間を10とすると、室内でのドリルに7を費やしてくださいというお願いをしますが、はたしてそれを守れている人がどれだけいるでしょう。

なぜそれを強調するかというと、私の提唱する走るという動作は、関節のなめらかな連携動作で成り立っているからです。

その最も基本となる部分が骨盤です。

骨盤を形成する左右の腸骨を、上下に動かして使うという感覚を実感できなければ、結局は元の脚の筋肉を使う走り方になってしまうのです。

骨盤の動きを作るためには、背骨を介した肩関節と肩甲骨の連動が必要となります。

それなくして骨盤を上下に動かしてくれる「広背筋」の停止部である「上腕骨の小結節」という部分を使うことはできません。

肘関節をリラックスさせ、上腕骨を後上方に引き上げるためには、肩甲骨が背骨側に引き寄せられている必要があります、それが可能になるためには、背骨がしっかりとS字を作ってくれていないとそれはできません。

さらには背骨がS字を作るためには、骨盤の後ろ側がしっかりと持ち上げられた状態でなければなりません。

すべてが関連しあい、その中のどれ一つ欠けても、目的とする動作にはならないのです。

そのためには速く走れたという結果に一喜一憂することなく、この連携動作を繰り返し、もうそれ以外の動き方ができないというくらいの完成度が欲しいのです。

そのドリルの中でも重視しているのが、アイドリングという感覚です。

つま先は床から離れず、かかとの上げ下げだけで行っている「足踏み状態」のドリルですが、この動作の中に、前述した連携連動の動作がすべて含まれています。

加えてこの動作で自分の体を自分の思ったように動かせているという感覚がつかめると、このアイドリング状態からなら、どの方向へも地面に居ついてしまうことなく、素早く自由に動き出すことができるのです。

「人間の体は皮膚という皮袋に包まれた流体である」というのが、操体法を学び実践してきた私の結論です。

コップの中の水は静止していますが、一度コップを揺らせば大きなエネルギーを生みます。

人間の体の外側はコップのような硬い無機質なものではありません。

入れ物である皮膚という皮袋自体が柔らかく流動的で、だからこそ中身はもっと自由に動かすことができるのです。

そうは言っても、静止した状態から動き出すためには新たなエネルギーが必要です。

コップを常に揺らしておくためにはそれなりのエネルギーがいりますが、皮袋に浮かぶ流体組織である人間の体は、ほんの小さなエネルギーで揺らぎを生むことができます。

その揺らぎを瞬間的に大きくしたり、ある方向へ向けることで、力むなどというイメージとはかけ離れたスムーズな動き出しが可能となります。

この感覚は伝えたすべての人が実感できるものではないかもしれません。

分かったとかできたというよりも、「今の動きがそうなのかな」という気づきに似たものかもしれません。

アイドリングを足踏みだと理解してしまう人が多いですが、それこそ既成概念の中でしか体を使えなくなっている証拠のようなものです。

言葉で言えば、右左と骨盤を上下させているとなるのですが、どうでしょう「回している」という言葉の方が正しいのかもしれません。

ただここで「回す」という言葉を使うと骨盤が前後に回転するという動きになってしまいます。

骨盤と大腿骨が形成する「股関節」の構造をきちんと理解できないと、この部分の整理が難しくなります。

「骨盤を上下させると結果として円運動が起きる」、このことを「アイドリング」と呼んでいます。

アイドリングということばの本来の意味は、「主目的(推進など)に貢献せず、しかし稼働に即応できる様態で待機していること。あるいはそのための動作」という記載がありましたので、私の言わんとしていることとピッタリの言葉だと思います。

ここには待機ということばが使われていますが、人間の筋肉は脳からの指令が電気信号として伝わることで収縮し機能を果たすわけですから、常に小さな刺激を送り続けておくことは、大きな刺激を伝える準備としても正しいことだと思います。

筋肉の収縮がないままその場に立ち続けることによる、血流の阻害によって筋肉そのものが硬結してしまうことも防げるわけですから、疲れたからとか今直接プレーに関与していないからと、その場にただ立っているよりずっと意味のあることだと思います。

アイドリングは慣れてくると、傍目には何もしていないように見えると思います、皮袋の中の出来事で、コップを揺らしているわけではありませんから。

数年前に見て衝撃を受けた、ブラジル代表チームが一斉に攻勢に転じる時の体の動きから感じたものは、実はこれだったのではないかと思います。

個人としてはもちろんですが、チームとしてこんな動きをされたら、相手はどう対応したらよいのでしょう。

こんなことを考えながら昨日の休日を過ごしました。

私は正しいものは正しいと言い続けてきましたが、「正しいことをするのは楽しい」、そう思ってもらう努力が足りなかったかもしれません。

「こういう風に考えると、こういう風に体を使うと楽しいことがあるよ」そうでなければやってみようとか、自分も誰かに伝えようなどと思ってもらえないですよね。

私こそ難しい顔をして厳しいことを言い続けてきた人間です。

何か楽しみはないのかと聞かれても、趣味のゴルフでさえ動き作りのテーマの一つになっています。

「楽しくやろうよ‼︎」自分にも言い聞かせて、さらにいろいろな方向へ発想を広げていきたいと思います。

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Re: ご報告
川端さん
報告ありがとうございます。
自信を持って発信を続けていれば、こうして伝わっていくのですね。
どうしてよいのかわからず、誰に聞いたら分かるのか、本当に自分が探している答えが見つかるのか、殻を破って成長していくために、その何かを真剣に探している人がたくさんいると思います。
私が伝えたこと自分で考えたこと、しっかり伝えてあげてください。
  • 2015-09-16│09:26 |
  • 西本 直 URL│
  • [edit]
ご報告
ご無沙汰しております。
6期生の川端です。
春先は某大学生サッカーがお世話になりました。人間的にもまだまだだとは思いますが、あれから彼も地に足をつけて一つずつやっていっております。


さて、先日、私の元にフィリピンでプレーをするサッカー選手が身体の使い方を教えて欲しい、ということで来てくれました。
面識はまったくないのですが、私のブログやツイッターにて西本理論のようなことを発信し続けた結果、引っかかったそうです。

ジム内にて、からだほわっとから始まり、FBT、伸筋のトレーニングに繋げ、最後に体の当て方をやりました。計2時間半くらいでしょうか。

後日彼から
明らかに変わった、足で走ってる感覚がなく、足が自然についてくる足の疲労が全然違う。これから1歩上にいくにはこの感覚が一番大事。
という連絡を受けました。

ブログでもあるようにジム内のトレーニングで動きをつくっていくことが7割どころか7割以上にも感じでます。

今度も西本理論を微力ながら広めていきます。
僕は西本理論=からだ理論、とも思っています。


今年は家の都合で深める会に参加することができなさそうですが、
来年は必ず課題とよい報告を持って参加したいと思います。


以上、報告です。

  • 2015-09-15│15:13 |
  • 川端翔太 URL│
  • [edit]

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プロフィール

Author:西本 直
1993年、Jリーグサンフレッチェ広島を皮切りに、社会人野球三菱重工広島・協和発酵・ヴィッセル神戸・川崎フロンターレ、そして広島カープ佐々岡真司投手など、プロアマ問わず競技レベルのスポーツ選手から一般の方まで、トレーニングやメンテナンスの指導を行ってきました。
その経験と知識の蓄積を「西本理論」としてまとめ、一人でも多くの方に実践していただくことが、これからの私の使命であると信じ、このブログから発信していきます。
私の理論はスポーツ選手のみを対象としたものではなく、ビジネスマンや家庭の主婦まで老若男女すべてに当てはまる不変のものです。
指導や講演のご依頼も受け付けています。
実名でツイッターも書いていますので、チェックしてみてください。
また、2013年9月9日にConditioning Studio 操をオープンしました。こちらもご覧ください。
また、遠隔地にお住まいの方を対象とした動き分析とアドバイスを行っています。
詳細は「スタジオ操」のホームページ内の「遠隔サポート」をご覧ください。

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