操体とトレーニングの目的はまったく同じで、人間本来の能力を発揮するための動きづくりだった。

私のところへ体の不調を訴えて来所する方は、狭い中でも多くのスペースをとって並んでいる、トレーンングの器具を見て、なぜここにこんなものがあるのかと怪訝な顔をされます。

一般的な治療院であれば、こんな設備を備えているはずはありませんし、もしそうであったとしたら、もっと広いスペースでスタッフも複数抱えているはずですが、ここには私1人しかいません。

腰痛等の軽減が目的ですから、私が何をしてきたかなどどうでも良いことで、トレーニングなど自分とは関係ないと思うのが当たり前でしょう。

逆に、紹介でトレーニングの指導を受けにきていただいた方にとっては、施術用のベッドが置いてあるスペースがきちんと確保されていることを不思議に思われるかもしれません。

まさに施術という行為と、トレーニングという行為は全く別のもので、対極にあると思われているかもしれません。

しかし私にとっては、別のものどころか、その目的は全く同じであると思うようになりました。

そのことを説明するのに、最も分かりやすいお二人の例を紹介します、すでに10年近いお付き合いをいただいています。

お一人は67歳のHさん、もうお一人は60歳を超えたばかりのYさんです、月に4回、ほぼ週一回のペースで来ていただいています。

お二人とも同じ方からの紹介で、体の不調を訴えての来訪でした。

ある程度当初訴えていた症状を改善できた後も、継続して来られることを希望してくれました。

ゴルフという共通の趣味を持ち、趣味どころか競技ゴルファーとして活躍していると聞いて、さてそれぞれの方に私が何をできるか、何を求めていくことが競技レベルの技術と体力を維持向上させていけるのかを考えました。

当然、年齢や体力に応じて、私自身が考えうる最高のトレーニング指導を受けていただくことがベストだと、その当時は迷いなく考えていたと思います。

特にHさんに関しては、年齢を考慮して体力の低下を最小限にとどめるためには、絶対にトレーニングが必要だと考え、普段は私から勧めることはしないのですが、一度私の指導を体験して欲しいとお願いして、トレーニングを受けていただきました。

今では、今日は操体を受けて頂いた方が良いのではという、タイトなスケジュールの中でも、その時々の状態に合わせて負荷や内容を微調整する私の指導を信頼して、本当の意味での「積極的休養」という言葉がぴったりする意識でトレーニングを行っていただき、「これをやった方が疲れが早く取れるよ」と笑顔で帰って頂いています。

私も含め、Hさんを知る方々からは、「失礼ながらあの年齢になっても、Hさんのように仕事も遊びも活動的で、バイタリティーに溢れた人間になっていたいよね」と、驚きと尊敬の念を込めて目標にされています。

Hさんのトレーニングに向かう姿勢は、決して受け身ではありません。

ただ私の指示通りメニューをこなしていくのではなく、テレビ等で得た知識やこれまでの経験、またゴルフの技術に置き換え、このトレーニングにはどういう意味があるのか、前回と違うのはなぜかなど、私の方が勉強になる会話が毎回あって、Hさんに来ていただくことを毎回楽しみにしています。

当然同年代の方とは比べ物にならない動きができます、もしかしたら20代の男性が、今すぐ全く同じ内容で1時間のトレーニングを行ったとしたら、できることはできたとしても、間違いなく筋肉痛でしばらくは大変なことになってしまうと思います。

そんなトレーニングを10年近くも続けていただいています、「継続は力なり」いう言葉がこれほど当てはまることも珍しいと思います。

もちろんトレーニングの内容は、「動きづくりのためのトレーニング」です、けっして大きくなるためでも強くなるためでもありませんが、継続したことのおまけとして、筋肉にはしっかりとした収縮が見られ、当然筋力もあります。

それが競技の成績に直接結びつくかは別の問題ですが、競技に出ようというレベルを維持していることは間違いありませんし、たまにご一緒させていただくラウンドでは、全く年齢を感じさせないスイングと飛距離を保っています。

まさに私の動きづくりのトレーニングの成果を体現していただいている方です。

もう一人のYさんも、オフィシャルハンデが3という強者です。

今年、所属するクラブで60歳以上が出場できるシニアの部に初出場し、連覇している方を撃破してチャンピオンになられました。

そのクラブでは、私のところに来ていただいてすぐに、60歳以下のレギュラークラスのチャンピオンにもなっていて、両方をとったのはYさんが2人目という快挙だったそうです。

余勢をかってレギュラーでも予選を突破されましたが、同年にシニアとレギュラーの同時優勝という快記録は、惜しくも逃してしまいました。

シニアとレギュラーでを、同時にとった方は未だかつていないそうで、絶好のチャンスを逃し残念がっておられましたが、それほどの腕前を持っている方です。

ここにYさんの例を出したのは、Yさんにはトレーニングを行っていただいていないからです。

一時期本人からの希望で数回トレーニングを受けていただきましたが、私の直感でYさんには器具を使ったトレーニングは合っていないと思ったのです。

当時50代前半、一般にはこの辺りから飛距離が落ちてきて、道具でカバーしたりジムに通って筋トレでパワーをと、いろいろなことを考え始める年齢だと思います。

Yさんも他の方の話を聞き、自分もトレーニングをと思っていただいたことは間違いではないと思います。

しかし、Yさんの動きはお世辞にも柔らかいとは言えず、この硬さをトレーニングで柔らかくすることを目標にすると、かなりの時間を要してしまうことは明らかで、もしかしたらそうはならない可能性の方が高いと思いました。

その過程の中で、体の動きが今までと変わってしまうことで、スイングを崩してしまったら、せっかくの技術を発揮することが難しくなるのではという危険性を感じました。

そこで私が提案したのは、とにかく定期的に操体の施術を受けていただき、今持っている技術を発揮しやすい体を維持しましょうということでした。

関節の可動域というよりも、使いこなせていない関節の8方向への連動性を高めることによって、Yさんが持って生まれた能力の中で発揮されていない部分を目覚めさせることができれば、現状維持どころかさらなる向上が期待できるのではと考えました。

「操体」、一般的なイメージでは整体ということになるのかもしれませんが、そんなことで年齢とともに落ちていくであろう飛距離やスイングスピードを維持するどころか向上できるわけがない、そう思うのは当たり前だと思います。

当初は私自身ここまで思った通りに、ことが運ぶとは思っていませんでした。

それどころか、私の想像をはるかに超えた効果をあげてきていると思います。

Yさん自身も、仲間の皆さんや競技で初めて顔を合わせるゴルファーから、「飛距離の秘密はなんですか、どんなトレーニングをやっているんですか」と、必ずと言っていいほど聞かれるそうです。

それほどYさんのゴルフは10年間維持どころか進化しています。

10年近く真剣にトレーニングを続けてくれているHさんと、全くトレーニングをすることなく操体の施術を受け続けてくれているYさん、まったく別の方法を選んだお二人が、結果としてそれぞれが望むような今を迎えられているという事実を、改めて整理しておく必要があると思いました。

これはトレーニングが好きとか嫌いとか、しんどいことは嫌などという単純なことではありません。

同じように感じる目標であっても、元となる人間の体が違うのですから、その方法論が違うのは当たり前で、それも10代20代の若者ならいざ知らず、スタート時点でともに50歳を超えていたお二人に対して、どういうアプローチをするかは本当に難しいことだっと思います。

今のお二人を見て、同年代の方やもっと若い方が自分もやってみたいと言ってくれたとして、どちらの方法をとったとしても、すぐに効果が現れるとは思えません。

10年という長い年月をかけて築き上げてきた信頼関係があってこその結果ですし、その瞬間瞬間に納得できる効果を感じていただいたからこそ、続けていただいたのだと思います。

今思えばよく10年も続けていただいたと私の方が感心するくらいです。

動きづくりのトレーニングの方は、それでも効果を感じていただきやすいと思います。

その対極にあるような操体法がなぜ同じ効果を発揮できるのか、私にとってもこの現実は大きな自信となりました。

操体は体を整えることが目的で、その方法論は一言では言えませんが、体に無理なく本来の動きを取り戻せる素晴らしい理論であり技術であると思います。

それを10年近くほぼ週に一度のペースで繰り返すことで、まさに人間が持って生まれた能力、すべての関節を8方向に連動させ無理なく効率的に体を動かすという、当たり前すぎることですが、実は実際には誰もそんなことができている人はいないという現実の中で、それに近づくための方法として、最も安全で最も効果的な最高のものが「操体」なのだと気付きました。

しかし、言うは易しで、これほどの長い期間私の施術を受け続けることは難しいと思います。

「朝3分の寝たまま操体法」でも紹介しましたが、朝は始業点検のつもりで、夜はご苦労さんの気持ちを込めて、体の連動を確認しておくことで、実はその能力を向上させる効果も十分期待できるのです。

そのことをYさんは実証してくれたのだと思います。

Yさん以上に私の操体を受け続けたのが、9年間一緒に戦った現カープの2軍投手コーチである佐々岡君です。

単純計算ですが、9年間365日の半分はトレーニングと操体を受けていたと思います、365÷2×9ですから、ざっと1600回も受けてもらったことになります。

その9年間に体の故障がほとんどなかったことは、彼自身気づいていないようですが、常に先々と体を整え、彼の持って生まれたの能力を発揮しやすい状態を作り、さらに動きづくりのトレーニングを行っていたわけですから、当然と言えば当然の結果だと思います。

今でも肉離れの選手を診ているとか、ぎっくり腰で動けない人が来たよという話をすると、今さら寂しい話ですが、「どうやって治すんですか」と、不思議な顔をされますが、「あなたにはそうならないように毎日やっていたでしょ、急性期のケガでも同じ理屈で対応できるんですよ」ということなのです。

操体は痛みや体の不調を改善するためだけのものではなかったのです。

「人間本来の動き、滑らかな連動」もちろん年月はかかりますが、操体とトレーニングは表裏一体で、180度対極にあるものではなく、一周回って同じ場所というか、人間そのものの体と目的に合わせ、どちらを選んでもいいし、両方組み合わすことができればさらに効果的なものとなります。

これからもいろいろな人間の体と向き合っていくことになると思いますが、お二人からたくさんのことを学ばせていただいています。

私にとって数少ない、信頼関係を築けていると確信できるお二人です。

これからもお役に立てるよう精進していこうと思います。

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プロフィール

Author:西本 直
1993年、Jリーグサンフレッチェ広島を皮切りに、社会人野球三菱重工広島・協和発酵・ヴィッセル神戸・川崎フロンターレ、そして広島カープ佐々岡真司投手など、プロアマ問わず競技レベルのスポーツ選手から一般の方まで、トレーニングやメンテナンスの指導を行ってきました。
その経験と知識の蓄積を「西本理論」としてまとめ、一人でも多くの方に実践していただくことが、これからの私の使命であると信じ、このブログから発信していきます。
私の理論はスポーツ選手のみを対象としたものではなく、ビジネスマンや家庭の主婦まで老若男女すべてに当てはまる不変のものです。
指導や講演のご依頼も受け付けています。
実名でツイッターも書いていますので、チェックしてみてください。
また、2013年9月9日にConditioning Studio 操をオープンしました。こちらもご覧ください。
また、遠隔地にお住まいの方を対象とした動き分析とアドバイスを行っています。
詳細は「スタジオ操」のホームページ内の「遠隔サポート」をご覧ください。

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