対応力

昨日は、サッカーのW杯予選シンガポール戦を挟んで、野球のプレミア12のドミニカ戦を観ました。

二つの競技を比較して、改めて全く違うスポーツなのだと思いました。

野球は基本的に投手と打者の一対一の戦いが中心となります。

投手が投球動作を始めなければ、何も始まって行きません。

投手には試合をコントロールする権利が与えられています。

その動作を極めていくことが、結果として自分の思ったところにボールを投げることができるという結果に結びついてきます。

打者はそれに対してバットを振っていくという受け身な立場になります。

「自分のスイングをすることに集中したい」、打者は口を揃えてそう言いますが、投手と捕手の仕事は、打者に気持ちよく自分のスイングをさせないことが何より重要です。

確かに、ジャストミートした素晴らしいあたりを打った時のスローを見ると、まさにそのコースにそういうボールがくることがわかっていたかのように、始動のタイミングもインパクトの瞬間も、そして前腕部分がローリングしてヘッドが返っていく様子も、全てが完璧に見えます。

しかし、そういうスイングでヒットやホームランが出る確率は4割に届くことはありません。

3割5分の打率を残した打者であっても、その中には自分では納得のいかないスイングではあったけれど、結果として野手のいないところへ飛んで行ったというヒットもあります。

逆にどんなに完璧にとらえた打球であって、野手に捕球されれば結果としてはアウトということにはなりますが。

昨夜の中田翔選手のタイムリーヒットも、彼らしい豪快なあたりではなく、タイミングを外されインパクトからフォーローに至っては右手を離して左手一本でなんとかボールを押し込んだという、技ありの一打でした。

こういう打ち方は、屈筋頼みの力んで体を使っていたのではできるはずのない打ち方です。

彼は広島の出身で、体格にも恵まれ高校入学前からその長打力は話題となっていました。

残念ながらというか、地元の高校へは進まず大阪桐蔭高校へ進み、その後の活躍は野球フアンなら知らない人はいないと思います。

日本ハムファイターズ人入団してからも、長距離打者のイメージは変わらず、バットに当たれば遠くに飛ばせるけれど、力任せなスイングでその確率は低く、打率を残せないというイメージを持っていました。

それが今回の大会での彼の打席を見ていると、まるで人が変わったというか、「俺に任せろ俺が打ってやる」というようなギラギラしたところが見られず、打席で自分に求められた役割をしっかり理解して、「自分のスイングを」ではなく、結果に結びつけるためのスイングに徹しているように見えました。

もちろん昨日のタイムリーだけではなく、韓国戦のホームランのように、結果として持ち前の長打力が遺憾なく発揮されたシーンもありましたが、それさえ一発狙いの大振りではなく、投げられたボールに対応するという基本通りのスイングだったと思います。

長いペナントレースの中の一打席ではなく、短期決戦のトーナメントのような戦いの中では、こういう対応力に優れた選手が絶対に必要になってきます。

失礼ながらそれが一番形になっているのが、誰あろう中田翔選手であったことは意外というほかはありません。

タイトルを総なめにしたヤクルトの山田選手など、本来そういう対応力が一番ありそうな選手たちが、まだまだ対応できていないことに比べると、中田選手の対応力がどれだけ凄いのかがわかると思います。

昨日の解説をしていた中畑清さんが「大人になったね〜」と驚いていたのが印象的でした。

過去野球のチームでも仕事をしましたが、「自分のスイングを貫け、自分のスイングができてない」という言葉を嫌というほど指導者から聞きましたが、私は投手目線で見ることが多いので、まさに、「投手はそれをさせない工夫をしているんだよ」ということなのです。

「自分のスイングをさせてもらえなかったから打てませんでした、しっかり振り込んで来年こそは」という言い訳のような言葉を何度聞いてきたことか、投手がいくら0点に抑えても、1点も取ってくれなければ勝てるはずはないのですから。

崩された時にどう対応するか、そこに体の使い方という意識が生まれ、イチロー選手を例に説明した、二つの股関節を別々に使えるように意識したスイングという発想が生まれたのです。

自分が気持ち良いと感じるスイングを、何回何千回と繰り返したところで、それをさせないための工夫を投手は繰り返して行くのですから。

ただ同じことが投手にも言えて、自分のフォームを固めて自分が思った通りのボールを投げることができるようになることが、究極の目的であると信じて練習しています。

どこが間違っているんだと思われるでしょうが、たとえ160キロを超えるスピードボールを投げられたとしても、機械のように同じフォームで、ストライクゾーンの中で予測したコースに来たボールなら、一流の打者は打つことができるのです。

スピードこそそれほどは出ませんでしたが、直球と何種類もの変化球を、私が見てもわからないほど同じに見えるフォームから、ほぼ狙ったところにコントロールできる技術を習得した佐々岡投手にして、投球前の彼の目線からコースを読まれていると感じた私は、サインを確認し投球動作に入ったら、できるだけ最後まで目線を打者に向けないということまで彼に要求しました。

それどころではないという投手たちにとっては次元の違う話ですが、機械のような動作を身につけることができることが究極の目標ではないということです。

野球の話が長くなりましたが、サッカーでは基本的に攻める方が投手で守る方が打者ということになります。

ボールコントロールをしながら相手を抜いていくテクニックを見せる動画を見ることがありますが、ボールを奪う側の体の使い方があまりにも稚拙で、どうぞあなたのテクニックで抜いて見せてくださいと言わんばかりに見えてしまいます。

そういうテクニックを披露するための講習会だったりするのでしょうが、子供たちに「わぁ凄い」と言わせるだけで良いのでしょうか。

それはそれで良しとしても、ではこういう動きに対してどうやってディフェンスは対応したら良いのかという動きを見せることができなければ、ただの見世物になってしまうと思います。

そういう技術を見せている人にケチをつけるつもりはありませんが、サッカーは攻める技術と守る技術の両方が必要なのです。

もし、見ている人があっと驚くようなテクニックでドリブルしてくる相手を、いとも簡単に止めたりボールを奪ったりすることができる人を見たら、子供たちはもっと驚くのではないでしょうか。

私が動きを見続け、その特徴を文章にしてきた選手たちは、ほとんどが攻撃の選手であり攻撃しているシーンでした。

youtubeにあがっている動画も、そういうシーンがほとんどです。

しかし、そういうシーンを見るたびに、相手も一流超一流の選手たちなはずなのに、どうしてこうも簡単に抜かれてしまったり、バランスを崩されてしまうのかという素朴な疑問が生まれました。

まさに対応力です。

それもただ相手の動きに合わせてではなく、相手の動きの先を読んでいち早く自分の体をそこに運んでいくという、受動的であるはずの動きが能動的というか、守っているように見えて攻めているというか、正に私の言わんとしている事を体現してくれているのが、アルゼンチン代表でFCバルセロナに所属するマスチェラーノ選手です。

西本塾の参加者から聞いた名前だっと思いますが、現役のプレーヤーの中で最高のディフェンダーは誰かという問いに、彼の名前が挙がり、いつかその動きの特徴を記事にしますと約束していました。

一言で言えば彼は守っていません、ボールを持った選手に対して完全に攻めの姿勢で対応しています。

まずこれまで他の選手の分析でも言い続けてきた姿勢の問題、文句ありません。

前傾して腰が引けることが全く見られず、常に骨盤が起きています。

これは人種的な問題も大きいかもしれませんが、他の選手は受け身になると腰が引ける選手がほとんどなので、彼の大きな特徴と言って良いと思います。

ですからとにかく動き出しが速いです。

そこにボールがくることがわかっていたように、誰よりも速く動き出しますし、トップスピードに乗せることができます。

背中の動きは少し硬めのロッベンに共通する、グラスファイバーのイメージです。

ちなみに私の動きは柔らかさを使った板こんにゃくのイメージですが、もう少し力強さが欲しいと思っています。

私のことはどうでも良いのですが、マスチェラーノはこの力強い背中の動き、づっと言い続けている広背筋のことですが、背中の動きで骨盤を素早く上下させ、あっという間に動き出します。

動画を見続けて驚いたのは、スローで見なければ分からないほど微妙なタイミングですが、ボールに先に触っているのか、相手の足を蹴っているのか全く分からないシーンが何度もありました。

例によってサッカー選手は大袈裟に倒れ込みファールをアピールしますが、優秀な審判はしっかり見ていてファールにはなりません。

確かにファールではないけれど紙一重のシーンで、相手が倒れるのも仕方がないというシーンの方が多いことはもっと驚きです。

何故そんなことが起きるのか、何度も動画を見ているとある共通点を見つけました。

例えばトップスピードでドリブルしている時に、どんなに上手でスピードがある選手だったとしても、常にボールが足にくっついているはずはありません。

メッシ選手であっても、ちょんとボールを前に蹴り出す瞬間には50センチいや30センチかもしれませんが、体から離れる瞬間があります。

その瞬間にマスチェラーノはボールに飛び込んでいけるのです。

ある時はボールを蹴り出し、ある時はボールと相手の選手の間に体を入れてボールを奪い、ある時は体を入れて相手の動きを止める、とにかくファールギリギリに見える本当に微妙なタイミングで飛び込んでいくのです。

シュートブロックのシーンでは、ボールと相手の間に体を入れられない状況の中で、ボールとゴールの間に体を投げ出し、シュートを防いでいます。

あるシーンでは、ゴールキーパーの目の前で、まるで本物のキーパーのように体の正面でボールを受け止めたというシーンまで見つけました。

そして相手を恐れるということがありません。

球際が強いというのはこういうことなのだと、私のような素人にも教えてくれているようです。

とにかくマスチェラーノという選手は、次にボールがどこに動くのかということがわかっているかのような動きをしています。


よほどのスピードとタイミング、そして自信がなければできないプレーだと思います。

一瞬でも躊躇して、動き出しが遅れたりスピードが鈍ってしまったとしたら、ボールを奪うとか相手を止めるとかいう以前の問題として、お互いが大きなけがを負ってしまうというリスクを伴います。

それがないとわかって動画を見ていても、思わず危ないと思ってしまうプレーばかりです。

ただ単にフィジカルが強いとかいう言葉ではとても言い表せません。

彼の体格は174センチ73キロと発表されていますから、日本代表の中に入ったとしても小柄な選手ということになります。

先日の日本ラグビーの大活躍の影響で、またまたフィジカルという言葉がクローズアップされていますが、マスチェラーノのように、「自分の体を自分の思ったように動かせる能力」こそが本当の意味でのフィジカルの能力が高い選手なのです。

相手からボールを奪う、相手の攻めからゴールを守る、言葉で言えばディフェンスという言い方になるのでしょうが、彼の動きはまさに攻めています。

こういう選手がいるから、攻められているように見える状況から、一瞬にして攻めに転じるということが普通に行えるチームができるのでしょうね。

本当に目の前でそのプレーを見て見たいと思わせてくれる選手です。

ディフェンスのもう一つの対応力である、相手の動きを遅らせるということができている選手は誰なのでしょう。

私には今、そういう選手が存在するのか全くわかりませんが、きっとどこかにそんなことができる選手もいるのでしょうね。

イメージとしてはネイマール選手のようなトリッキーな動きをする相手に対して、私の言うアイドリング状態をうまく使って、腰を引かず飛び込んで交わされることもなく、バランスを崩して尻餅をつかされることもなく、まさに余裕で対応して相手の動きを封じてしまえる、そんな守りができるディフェンダーはいないのでしょうか?

この選手がそうですよという選手がいたら教えてください、また動画を探して見て見たいと思います。

野球からサッカーと話が広がりましたが、他のスポーツでも全く同じだと思います。

自分はちゃんとやっています、だけでは済まない競技のほうが多いと思います。

まずは自分の体を自分の思ったように動かせるように、動きづくりのトレーニングを行い、それを実際にどうやって使うかという対応力を磨く、スポーツ選手が目指す高みに限りはありませんね。

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プロフィール

Author:西本 直
1993年、Jリーグサンフレッチェ広島を皮切りに、社会人野球三菱重工広島・協和発酵・ヴィッセル神戸・川崎フロンターレ、そして広島カープ佐々岡真司投手など、プロアマ問わず競技レベルのスポーツ選手から一般の方まで、トレーニングやメンテナンスの指導を行ってきました。
その経験と知識の蓄積を「西本理論」としてまとめ、一人でも多くの方に実践していただくことが、これからの私の使命であると信じ、このブログから発信していきます。
私の理論はスポーツ選手のみを対象としたものではなく、ビジネスマンや家庭の主婦まで老若男女すべてに当てはまる不変のものです。
指導や講演のご依頼も受け付けています。
実名でツイッターも書いていますので、チェックしてみてください。
また、2013年9月9日にConditioning Studio 操をオープンしました。こちらもご覧ください。
また、遠隔地にお住まいの方を対象とした動き分析とアドバイスを行っています。
詳細は「スタジオ操」のホームページ内の「遠隔サポート」をご覧ください。
今年2回目の西本塾を8月26・27の土日に開催を予定しています。
詳細はstudio操のホームページ内の「講習会情報」をご覧ください。
なお、今回も参加者が5名に満たない場合は開催しません。
9月10日には深める会も予定しています。

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