体の使い方も技術

Newspicksのオリジナルコンテンツで、今週の月曜日から5回に渡って、「日本サッカーに足りないもの」と題して、スポーツライターの木崎伸也さんが懇親の記事を掲載しています。

その第2回の記事に、私が提唱する走るという行為の体の使い方も紹介されました。

通常であれば記事になる前に連絡があり、原稿の段階で見せていただくのですが、今回はこれまで彼と幾度となく話をしてきたやり取りの中で、記事の中に盛り込んでくれたようでした。

日本だけではなくヨーロッパや世界を駆け巡って、サッカーという競技や選手を取材し続けてきた彼が、「サッカー日本代表ベスト8への道」という目標に向けて、これまで取材してきたものの一つの集大成としての提言をまとめた意義深いものとなっています。

私の名前が出た第2回目の記事では、「日本サッカーの走り方の誤解。地面を蹴ってはいけない」というタイトルで、2001年3月にパリ郊外のサンドニで行われ、0対5で日本がフランスに敗れた試合のことから話が始まり、当時選手だったジダンが、雨で滑りやすいピッチ状況の中、固定式のスパイクを履いて悠々とプレーできていたのがなぜか、それは走り方そのものに違いがあると結論づけ、その秘密を後半で明かしていきます。

まず紹介されたのは、岡崎慎司選手を指導する杉本龍勇と言う方の走りに対する考え方や方法が紹介されています。

その後に私のことも、青山敏弘選手を指導し、JリーグのMVPという結果に結びついたことを中心に、短く紹介してくれています。

共通点として「地面を蹴らない」ことが挙げられていますが、私の知る限りでは地面を蹴らないという言葉とは少し違うものであるように見えてしまいます。

私の走るという行為に対する説明はすでにブログで紹介していますのでそちらを読んでいただくとして、とにかくこれまで常識と思われてきた、頑張った走り方とは一線を画した考え方があることに目を向けることが必要であるとまとめています。

さらにこのことは、「走り方」にとどまらず、有効なものであっても、個人の知見が全体で共有されないことが大きな問題であるとも書かれています。

杉本という方の考え方には、私個人としてはあまり共通点は見つけられず、併記されることに納得しにくい部分もありますが、こんな大きな問題提起がなされた記事に、私の考え方を紹介していただいたことには光栄に思います。

Newspicksと言うのは、経済情報を中心として発信するニュースアプリですが、私も「スポーツ解体新書」というタイトルで、たくさんの記事を書かせていただきました。

毎回ピッカーと呼ばれる記事を読んだ方々が、記事に対する感想をコメントしてくれるのですが、何を書くのも勝手ではありますが、まったく分かっていないというか的外れな感想も見られ、記事を書いた側の人間としては腹の立つこともしばしばありました。

それでも最近は、真剣に私の考えから何かを学び取ろうとしてくれる方であっても、なかなか真意が伝わらないことの方が多い中、その場限りの感想に一喜一憂するほどの余裕もなくなり、気にすることもなくなりました。

ところが、ある方の感想に対して、先日等々力で一緒に試合を観戦していただいた西原さんが、珍しく熱くなってしまい、コメントにそれが出てしまいました。

西原さんは川崎フロンターレを熱心に応援するサポーターでもあるのですが、今回の記事に対して、フロンターレの現状と重なるところがあって、そうなってしまったのかなと思います。

それは、今回の表題にした「体の使い方も技術」という明快なコンセプトが、監督である風間八宏が発するコメントから消えたことと、フロンターレの攻撃の仕方がどうしても結びついてしまうとのだそうです。

今シーズンの川崎は結果としては十分な戦いを展開しています。

ところが西原さんは、それは結果であって風間監督の目指す攻撃的なサッカー、サポーターの方が胸躍らせる試合内容とは違ったものになっていて、本当の意味で花を咲かせてきたのではないという分析なのです。

私は川崎の試合をすべて見ているわけではありませんし、戦術的なところは分かりませんが、とにかく今のサッカーが風間監督が目指してきたものとは違うように見えると言われるのです。

私もそういう世界の中にいた人間として、外から見えるものと、実際の監督の考えは、申し訳ないですがまったくと言っていいほど違うことの方が多いと思います。

とくに風間八宏の考え方を本当の意味で理解できる人間はそうはいないと思います。

ただ西原さんが私と言う存在を知り、考え方に接していく中で、これまでのサッカーに対する見方とは、明らかに違う方向から見ることになってしまったことは間違いないでしょう。

私の言葉で整理していくと、サッカーという競技は監督と言う存在がいて、スタートの11人とベンチに控える7人を選び、試合中の交代が許される3人の枠を駆使して、基本90分の戦いを組み立てて行きます。

クラブで保有する人数の中で、その18人を選ぶわけですが、全員が十分な体調であることは皆無に等しく、それぞれのポジションごとの構成も常にベストな組み合わせができるとは限りません。

そんな中で対戦相手に応じてメンバーを選び戦わなければならないのです。

戦術を考えるのが監督の役目ですが、戦術を浸透させるためには当然練習をしなければなりません、どこに誰が入ってもという訳にはいかず、何種類か選手を組み合わせて連携を図っていきます。

そこで選手に最低限求められるのが、サッカー選手として出来て当たり前の技術である、ボールを止める蹴るという動作です。

この当たり前の動作の巧拙が、そのまま選手のレベルとイコールであると言っても過言ではないくらい大切な動作です。

そのうえでポジショニングや判断力といった戦術眼であったり、足の速さやフィジカルの強さなどといわれる既成概念の中での能力も要求されます。

監督は戦術担当、それを実際に行う能力は技術を教えるコーチ、体力的な部分はフィジカルコーチで、コンディショニングや体のケアはトレーナー、ざっとこんな分担がされているかもしれません。

ここで最も重要となってくるのが、「技術とは何か」という問題です。

ユーチューブでもよく目にする、サーカスのようなボールさばきやドリブルで相手を抜く動き、それらはまさに技術でしょう。

素人からは想像もできない器用なボール扱いですが、技術とはそれだけでしょうか。

それを行っているのは人間の体そのものです。

分析を深めれば、体が動いていると客観的に見えるのは、骨が動いて関節の角度が変わっていることを指します。

その骨を動かしてくれるのは筋肉の収縮です、筋肉の両端が骨を引っ張ってくれるのです。

筋肉の収縮とは、単純に〇〇筋が収縮しているのではなく、動きに必要な量や質に応じて、一定量の筋繊維が動員され、その最終単位であるアクチン繊維とミオシン繊維が、私の言う3・5・7理論の中で滑り込ませ合っているというのが、人間が動いているということの実際です。

単純にサーカスのような動きも、プロ選手のような正確なキックも、それを行っているのは筋肉の収縮そのものなのです。

技術と言うのはそこまでさかのぼって考えなければ、出来るようになる人はいても、出来ない人は永遠に出来ないことになり、センスがないとか運動神経が鈍いという言葉で片付けられたりしてしまいます。

それが出来ないのは対応する筋収縮、さらには関節の連携連動が出来ないからです。

いわゆる技術という言葉を使う前に、人間として持って生まれた能力を余すことなく使えるように準備し、体の正しい使い方を学んでおかなければ、競技に特化した技術を身に付けることなど出来るはずがないのです。

そこに選手個々の差が出てくるわけですが、いくらプロまで上り詰めた選手たちとはいえ、すべてが使えるようになっているかというと、そうでないことがほとんどなのです。

様々な選手の動きを分析した結果として、彼らの特別と言っても良いレベルの動きを認めつつも、それらの動きがどういう体の動きで、どういう意識によって行われているのか、それが分かれば同じ人間として、その動きに近づくことができるのではないか、そう考えて努力することなくして、日本が世界のベスト8などという目標に近づくことは出来ないのではと考えます。

そこに私が経験を積み上げてきた、理論と実践の能力が少し役に立つかもしれないと思うようになったのです。

「正しい体の使い方とは何か」「人間として持って生まれた能力とはなにか」、当たり前のように頑張って鍛え使っている屈筋ではなく、静かにその能力を発揮してくれる「伸筋を使う」とはどういうことか、サッカーをやるボールを蹴る以前の問題として、まずは取り組まなければならないことがあるのです。

風間監督もそのことには気づいていると思います、しかしそれを形にする指導はとても難しいのです。

もし彼が本当にそのことを口にしなくなったのだとしたら、ひとまずそのことは諦めてしまったのかもしれません。

私にも責任の一端はあるのかもしれませんが、もうそんなことを言っている時ではないと思います。

私が何を考えているとか、他にも同じようなことを考えている人がいるとか、そんな話ではなく、等しくサッカーに関わる全ての人が、「体の使い方も技術である」という共通認識の上に立って、専門の指導者に指導を任せ、自らもその意識を学ぶ姿勢にならなければ、木崎さんの提言も西原さんの怒りも、日本のサッカーを変えることは出来ないでしょう。

と言うのが、今回のNewsPicksの記事を読んで感じたことです。

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Comment

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いつも大変興味深くブログ拝見させて頂いております。
その中で記事にもありますように西本先生のいつもおっしゃっていることとは小さな違いではなく明らかな違いがあるかと思います。ただ、日本サッカー界の意識、認識が少しずつ変化している兆しを感じました!
ですが悲しいことにトッププロの指導者がどれだけ体の動かし方や使い方を意識しているのか、という点が全く見えません。日本サッカー協会の方針みても期待薄ですが・・・。
もっともっと大きな流れや波ができればいいですよね!ツイッター含め拡散します!

追伸:1回5分 体が喜ぶ健康術 購入させて頂きました。早速体との対話始めてます。
  • 2016-04-29│11:11 |
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プロフィール

Author:西本 直
1993年、Jリーグサンフレッチェ広島を皮切りに、社会人野球三菱重工広島・協和発酵・ヴィッセル神戸・川崎フロンターレ、そして広島カープ佐々岡真司投手など、プロアマ問わず競技レベルのスポーツ選手から一般の方まで、トレーニングやメンテナンスの指導を行ってきました。
その経験と知識の蓄積を「西本理論」としてまとめ、一人でも多くの方に実践していただくことが、これからの私の使命であると信じ、このブログから発信していきます。
私の理論はスポーツ選手のみを対象としたものではなく、ビジネスマンや家庭の主婦まで老若男女すべてに当てはまる不変のものです。
指導や講演のご依頼も受け付けています。
実名でツイッターも書いていますので、チェックしてみてください。
また、2013年9月9日にConditioning Studio 操をオープンしました。
また、遠隔地にお住まいの方を対象とした動き分析とアドバイスを行っています。
詳細は「スタジオ操」のホームページ内の「遠隔サポート」をご覧ください。
「第25回西本塾」を11月18・19日の土日に開催を予定しています。
詳細はStudio操ホームページ内の「講習会情報」をご覧ください
尚、深める会も12月10日に予定しています。

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