バットスイングはダウンかアッパーか。

今日のスポーツナビのサイトの中にスポーツ報知の記事があって、セリーグの打率首位に立ち、ホームランの数も自己最多ペースで量産している、巨人の坂本勇人選手のバッティングがどう変わったのかという記事を読みました。

昨シーズン終了後、昨季216安打の日本プロ野球記録を樹立した、西武の秋山翔吾選手と打撃論を戦わせたことが大きなきっかけとなったことが書かれていました。

秋山選手は高校卒業後プロ入りし、それなりの成績は残していましたが、肘の手術をきっかけに何かを変えるなら今しかないと取り組んだ打撃フォームの改造が功を奏し、昨年は素晴らしい成績を収めたことも書かれていました。

その記事をきっかけに、私は野球好きの三男と一緒に、秋山選手そして坂本選手の動きがどう変わったのか、そしてなぜそれが結果に結びついているのかを分析してみました。

その変化を一言で表すと、いわゆる「ダウンスイング」から、バットの軌道を「アッパースイング」に変えたということでした。

言葉で言うとあっさりしたものになりますが、野球を経験したことがある人のほとんどは、バットのヘッドは上から下へ切るように振れと教わったと思います。

右打者であればバットは自分の右側で、基本的には肩よりも高いところにグリップがくるように構えます。

バットは先が太く重く作られていますから、そのグリップの位置よりヘッドを高く構えることで、重さと重力を利用して、ヘッドが出てきやすくなるように構えを作ります。

そして下半身から回転させることで、上半身との捻転さを大きくし、最後に肘からグリップそしてバットのヘッドが体に巻きつくようにスイングすることで、ヘッドスピードを速くしボールを強く叩くことができるというわけです。

こういう形状をした棒状のものを振るという動作に対しては、理論的に全く間違っていない正しい体の使い方であると言えます。

ほとんどの打者がそれを極めようと努力し、それをもって自分の理想のスイングだと定義します。

目の覚めるようなホームランを打ったときのスローをみると、まさにそういうスイングに見えます。

しかし、投手と捕手は、打者にそういう気持ちの良いスイングをさせないことが一番の目的で、スピードや球種を変えたり、コースギリギリをついたり、配球を工夫して打者の意表をつくボールを投げることで、なんとか打ち取って行こうと努力するのです。

狭いストライクゾーンの中で、もしコースも球種も事前にわかっていれば、プロの打者ならかなり高い確率で打ち返すことができるはずです。

しかし現実には4割を超える打率を残した選手はいません、どんなに頑張っても、7割近くの確率で打ち取られてしまうということです。

それが野球だと言えばそれまでなのですが、前年までそれほどの結果を残していなかった秋山選手が、突然打ちまくったという表現しかできないような大活躍を見せたことに周囲は色めき立って取材を繰り返していました。

その結果が一言で言うと、ヘッドの軌道をアッパーにしたというものでした。

アッパースイングは悪いスイングの見本のような言われ方をされてきました。

右打者であればバットのヘッドだけではなく体全体が右へ傾き、ヘッドが肩より下を通ってなおかつ体から離れたところしか振れないからダメだという論法になります。

メリットといえば当たれば遠くへ飛ばせるということくらいでしょうか。

逆にダウンスイングに関しては前述した通り、バットを振るという動作にとっては理に適っているわけで、これを否定する材料は少ないと思います。

しかし、現実にはその理想のスイングでも7割はアウトになってしまうということもまさに否定のできない事実でした。

そこで秋山選手が取り組んだのは、構えの時のグリップの位置を少し下げ、肩に担ぐくらいの位置に変えました。

そうすると当然ヘッドを立てて構えることが難しくなり、いわゆる寝かせた構えになります。

そうすると理屈で言えばヘッドの重さが落下するときのエネルギーを使えなくなり、当てることはできても強く叩いて遠くに飛ばせないというデメリットが出てくると思う人が多いと思います。

事実小柄で単打狙いの選手や、逆に外国人選手のように腕っぷしの強さで1キロにも満たない重さのバットなど、低い構えからでもとにかく力強く振ることができるという選手もいます。

秋山選手はそういう体ではありませんし、結果としてヒットの数は増えましたが、決して当てるだけの単打狙いではありません。

秋山選手が狙った一番のメリットは、ボールを捉えることに関して、点で捉えるか線で捉えるかという究極の選択でした。

投手が投げてくるボールの軌道は、160キロを超えるような高速球であっても、物理的に絶対に浮き上がることはありませんし、投手の手を離れた後、捕手のミットに吸い込まれる間が直線でもありません、誰がどんなボールを投げようと捕手に近づくにつれてボールは落下していきます。

イメージとしては放物線を描いているということになります。

ということは打者はその放物線の後半部分、それも最後の最後に近いところでボールを捉えるわけですから、極端に言えば上から落ちてくるボールを打っていると言っても間違いではありません。

にも関わらず、打者がダウンスイングを良しとして振り下ろしているわけですから、バットとボールが接する部分は一点のみという事になります、だから確率が悪いわけです。

では秋山選手が目指したアッパースイングとはどういうものなのでしょうか。

彼のスイングをYouTubeで確認しましたが、少し低くしたグリップの位置と、少し寝かせたヘッドを、体の回転で無理なく振り出すことで、特にアッパー軌道を感じさせない自然なスイングになっています。

そのことで放物線後半の落下してくる軌道と、バットのヘッドが動いていく、ダウンを少し過ぎた、ほんの少しのアッパーな軌道上で、ボールを捉えています。

ボールを捉えることができる部分を、点ではなく線に変えたということです、確率が上がって当然です。

さらには低く構えたままステップしていく際に、グリップエンドがさらに後方に移動し、おへその向きが右へ45度回転することで、私が提唱する人間の捻転動作の理想である45度プラス90度の135度という角度の捻転動作を余すところなく使えています。

これがスイングアークを大きくし、それほど強く叩いているようには見えなくても、遠くへ飛ばせている要因です。

様々なコーチや関係者の助言はもちろんあったと思いますが、すべては自己責任の世界ですから、勇気を持って取り組んだことは素晴らしいことだと思います。

ボールの軌道のことや、捻転の135度理論など、体の仕組みを少し学んでくれれば、なるほどそういうことかと分かってもらえるはずです。

その理解の上でフォームの改造を模索しなければ、広島の堂林選手のように毎年毎年フォームを変えても、彼にとって正しい方向へ進んでいるとはとても思えません。

すべては基本となる体の仕組みがあっての応用です、目先の結果にとらわれてしまうと、見えるものも見えなくなると思います。

そういうわけで昨シーズンの秋山選手は、大きな勲章を得ることになりました。

できることなら私の理屈も知っておいてくれると、自分のやっていることにさらに自信を持って取り組むことができると思います、戻る基本があればスランプなどというものは関係がなくなりますから。

その秋山選手との会話で何かを感じた坂本選手ですが、フォーム自体は昨年と大きく変わった様には見えませんでした。

今年のホームランシーンを見ると、こんなことに気づきました。

例えがゴルフに変わりますが、ゴルフではドライバーショットとアイアンショットでは打つ時のイメージが変わります。
それはドライバーショットを打つ際には、ボールはティーアップされていて地面の上にはないからです。

ドライバーのヘッドはスイングの最下点を過ぎて、上がり際にボールを捉えます、ヘッドを直接ボールにぶつける様な意識で打つとまっすぐにも遠くにも打つことはできません。

アイアンショットは逆にスイングの最下点がボールを捉えた直後で、直接ボールに対してヘッドが衝突していきます。

もうお分かりでしょうか、坂本選手は構えやスイングの動きを変えずに、アイアンをドライバーに持ち替えてスイングしていると見えるのです。

構えや打ち方は同じでも、秋山選手の言葉をヒントにアッパー軌道にするためにはどうすればいいのかを考えた結論が、今のスイングなのではないかと分析しました。

昨年までボールを捉えるために振り降ろしていた位置のボール3個分くらいでしょうか、そこに向かって振り下ろすイメージを持つことで、そこが最下点となり、スイングを変えることなく自然に振り上げられていくアッパー軌道の中でボールを捉えているというわけです。

取り組み方はそれぞれ違いますが、過去に言われていた、アッパー軌道とは、ただバットを振り上げるというイメージではなく、どんなにダウンスイングをしようとしても最終的には振り上げられるヘッドの軌道の、最下点を過ぎたところでボールを捉えることが、バットがボールを捉えることができる時間というか距離を長くしてくれて、確率を高くし遠くへ飛ばせるという理想的なスイング軌道だったということです。

もちろんあのイチロー選手のスイングにも同じことが言えます。

息子の勉強になると思って一緒に動画を見ましたが、私の言っていることに素直に頷き、自分もそう思うと言える感性は、生まれた時から私がスポーツの世界で生きてきたのを間近で見て育った息子だからなのかなと思いました。

最後に息子はこう言いました、「この理屈がみんなわかればコーチは要らないね」と、そうなんです、正しい体の使い方や効率的なバットに軌道よりも、それぞれの経験論が重視されていることが、本当の意味で選手を育てきれない大きな原因ではないでしょうか。

投手の体の使い方も同じです、私の声はどこにも届かない様ですが、求められればきちんと指導できる準備はいつでも整っています。

細い体の使い方は、実はすでにこのブログを読めばヒントになることはたくさん書いてありますし、newspicksの連載でも書いたと思います。

それらをつなぎ合わせることで、ほんの少しのスポーツ新聞の記事からもこんな面白い分析ができました。
皆さんもどうぞそれぞれの感性で物事を捉える練習をしてみてください。

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プロフィール

Author:西本 直
1993年、Jリーグサンフレッチェ広島を皮切りに、社会人野球三菱重工広島・協和発酵・ヴィッセル神戸・川崎フロンターレ、そして広島カープ佐々岡真司投手など、プロアマ問わず競技レベルのスポーツ選手から一般の方まで、トレーニングやメンテナンスの指導を行ってきました。
その経験と知識の蓄積を「西本理論」としてまとめ、一人でも多くの方に実践していただくことが、これからの私の使命であると信じ、このブログから発信していきます。
私の理論はスポーツ選手のみを対象としたものではなく、ビジネスマンや家庭の主婦まで老若男女すべてに当てはまる不変のものです。
指導や講演のご依頼も受け付けています。
実名でツイッターも書いていますので、チェックしてみてください。
また、2013年9月9日にConditioning Studio 操をオープンしました。
また、遠隔地にお住まいの方を対象とした動き分析とアドバイスを行っています。
詳細は「スタジオ操」のホームページ内の「遠隔サポート」をご覧ください。
「第25回西本塾」を11月18・19日の土日に開催を予定しています。
詳細はStudio操ホームページ内の「講習会情報」をご覧ください
尚、深める会も12月9・10日に予定しています。

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