筋力に頼らず速く走ることは出来ないのか、その可能性を求めて。

昨日は博多の森陸上競技場で行われた、福岡県の中学生の通信陸上大会を見に行ってきました。
目的は6月11日に親子で指導を受けに来てくれた、そら君にレース当日ではありましたが、走り方の指導をするためでした。

これまででしたら、こんな形で指導に行くことはありませんでした。
もし仕事として依頼していただいたとしても、レース前の短い時間しか指導できませんから、お断りすることになると思います。

それがなぜこうなったのかということです。

私は数年前、久し振りにJリーグのトップチームで指導をすることが決まった時、選手にとって一番身に付けさせなければならない能力は何かと考えました。

筋力や筋持久力、心肺持久力、そしてボールを扱う技術など、どれをとってもアマチュアのレベルからは考えられないものを彼らは既に身に付けているはずです。

ならばそれを90分間発揮し続けるためには、どういう能力が必要なのかと考えた時、スポーツで最も基本となる「走るという行為」を、もう一度根本から見直す必要があると考えたのです。

陸上競技の選手のような、いわゆる綺麗な走り方でスピードを求めるのではなく、人とボールを相手にしながら、90分間頭と体を動かし続ける能力こそが、サッカー選手に必要な能力であって、それを可能にする走り方を追求していきました。

そのことについては今でも正しいと思っていますし、現実としてそういう方向で体の使い方を学んでくれた選手は結果を残してくれています。

ただ彼らが私の教えた体の使い方を、そのままずばりでやってくれているかというと、残念ながらそこまでは到達していないことは見ていてとても残念に思っていました。

そんな中、中学3年生のそら君のお父さんから連絡をいただき、私の指導を受けたいと言ってくれました。

過去にも走りを指導した陸上選手はいましたが、その後の走り方を直接見る機会はありませんでした。

お父さんは、指導を受けに来てくれる前に、現状の走り方でレースを走る動画を送ってくれました。

当たり前ですが他の選手と何ら変わらない走り方で、前を走る選手を追うために腕を一生懸命振ってストライドを広げ、ピッチを上げようと、必死で頑張っている姿が映っていました。

中学生になってから陸上競技を始めた彼は、当初は3000mを10分の後半でしか走れなかったのが、2年生の後半に9分31秒まで記録を伸ばしたそうです。

上を見ればきりがないですが、ここまでタイムを縮めるためには相当な努力が必要だったと思います。

それが3年生になってからは記録が伸びず、残された少ないチャンスの中で、1秒でも自己記録を更新できないかと、私の元を訪ねてくれたのです。

たった一度の指導でしたが、私の言うことをしっかり聞いてくれて智志と一緒に走ることで、言葉だけではなく目で見て肌で感じることができたと思います。

私は勝てない喧嘩はしないと言いますが、それはずるい言い方に聞こえるかもしれませんが、初めから可能性が無いと分かっていることをやっても仕方がないと言いたいのです。

9分31秒で走れるということは、100mに換算して19秒平均で走り続ける能力を持っていることになります。
数字でいうと簡単なことのようですが、実際にこのペースで走り続けることは容易ではありません。

従来の屈筋を主に使って、腿を引き上げ腕を振って走る走り方で、この記録が出せているということは、自信を持って良いことだと思います。

当然ですが、動きを改善できればこれまで以上の記録が出ても、何の不思議もありません、だから一緒に頑張ろうと言えたのです。

ただそのままの動きで記録を伸ばすためには、従来の考え方通りに筋力を強化し、筋持久力や心肺持久力を高めるためのハードなトレーニングが必要となります。

6月11日からに1か月間で、この方向性で記録を伸ばすことは現実的には難しいと思いますし、何より故障が心配です。

もちろん私はそんなことをさせるつもりはありませんから、私の提唱する体に無理のない効率的な走り方を指導しました。

今までにない感覚に最初は戸惑っていましたが、体は正直ですから、呼吸も苦しくなく足の負担も少ないこの走り方を自分のものにしたいと帰って行ってくれました。

ところが、その後の練習で肝心のスピードが上がらず、送られてきた動画からは、腕こそ肘を曲げずに下に降りていますが、下半身の動きは以前と同じようになってしまい、地面を蹴ってストライドを広げようという走り方になっていました。

腕の振り降ろす位置に問題があると感じた私は、すぐにそれを指摘し修正するように伝えましたが、昨日のレースでそれが出来るか心配していたところ、お父さんと相談して直接指導させてもらえることになりました。

私としては今月後半に行われる中体連のレースを本番とみなして、昨日は練習のつもりでフォームを確立させることを最優先にして欲しかったのですが、本人としては昨日のレースでも結果を出して自信にしたかったようで、不本意な記録に相当ショックを受けているようでした。

動きに関しては事前に指導したことを忠実に行ってくれ、最後まで形が崩れず走り切ってくれたので、私としては満足で間違いなく次につながるレースだったと思ったのですが、本人はこの動きでの走りに限界を感じてしまったようでした。

最終レースに出場した選手たちのレベルは相当高く、数名の選手が全国大会の参加記録を超えて、全国への切符を手にするというレースでした。

確かに彼らの走りは力強く腕を振り脚も良く上がっていました、ただそれが出来るのはほんの限られた選手で、努力だけでは到達できないいわゆる身体能力の差は歴然としていました。

問題はそこです、自分には彼らのような身体能力が備わっていないと諦めてしまったり、ならばトレーニングでといたずらに体をいじめるトレーニングで追い込んでみたりと、どちらにしても良い結果が得られることはないのです。

ならばどうするのかというのが、私の提案している走り方です。

サッカーで90分間走り続ける能力が必要なことは分かった、スタートダッシュやターンのやり方もなるほどそういうことならできるかもしれないと思ってくれる人も増えてきました。

しかし今回のような場合、いわゆる基礎体力では劣っているかもしれない、彼らに今すぐに勝とうとしているわけではないが、今までの自分を超えて行くためにこれで本当にいいのだろうか、彼はそういう気持ちになったかもしれません。

智志の場合は、中学を卒業してからまったくと言っていいほど体を動かしていませんでしたから、そら君以上に基礎的な体力がありませんでした。

それが、この4か月弱の期間で見違えるような能力を獲得してしまいました。

まさに動ける体を作るためのトレーニング、体づくりではなく「動きづくり」を目的としたトレーニングを行うことで、人間の体はこんなに変わって行くんだということを身を持って証明してくれています。

加えて走るという行為を、指導する際アシスタントとしてやってみせるレベルに達してくれていますから、元々脚は遅い方でしたが、今では風のように駆け抜けてくれます。

智志がそら君の走りと全国レベルの選手たちの走りを見比べての感想は、やはり背中と股関節周りの筋力が弱いということでした。

その結果として、一歩一歩の進む距離が全然違うと感じたようです。

帰りがけにその部分を強化するトレーニングを指導し、正しい動き方を動画で送りますと、私以上に一生懸命にアドバイスしてくれていました。

私が指導していることでいうと、スミスマシンを使った股関節スクワットや、FBTの3と4の動作です。

股関節を包む靭帯を、ばねに見立ててイメージするトレーニングです。

確かに智志の言うとおりなのですが、体の使い方という視点で人間の動きを見ている私としては、私の提唱する走り方の一番の特徴は、そういう筋力には極力頼らないでピッチとストライドを稼げることです。

もちろん平行してトレーニングを行うことで、基礎的な部分のレベルアップはして欲しいのですが、それはあくまでも補助であって目指すところは動きづくりにおいて欲しいのです。

そのポイントは、室内のドリルで行っている「引きづりのドリル」改め、「引っ張り出しのドリル」です。

左足を着地させる際、位置はもちろん左股関節の真下です、その瞬間に骨盤後方をしっかり引き上げ背中を反らし、股関節を強く伸展させ、左足が着地した瞬間には、すでに右の股関節が前方に引っ張り出されている状態を作るのです。

この感覚が分かるようになると、当然重心の位置は高く保て、引っ張り出された股関節に促されるように、右の大腿骨が振り出されていきます。

それが外から見た時に膝が前に出ているという現象につながります。

けっして膝を振り上げ、振り出しているのではなく、骨盤から股関節の伸展により、引っ張り出されるというイメージです。

これを素早く繰り返すことがピッチを上げることであり、重心位置地を高く保って、振り出される角度を大きくすることがストライドを広げることにつながります。

この動きを実現させるためには最低限の筋力は必要ですが、強く使いすぎるとこの動きは難しくなり、結局は筋力に頼った従来の走りに戻ってしまいます。

そら君に対して、一度や二度の指導で、ここまで分かってもらえるとも出来るようになるとも思いません。

それでもなんとか伝えたいし、挑戦し続けて欲しいと思っています。

諦めてしまえばそこで終わりです、もう一度私が伝えたことを整理して欲しいと思います。

西本塾や個人指導を受けに来てくれた人は何度も聞いたと思いますが、「練習の7割は室内のドリルに時間を費やして欲しい」としつこいくらい言ったと思います。

正しい動きの意識が身に付かないまま、いくら外を走り回っても何も変わらないのです。

先日指導を受けに来てくれた岡山の加藤さん、来ていただくたびに同じことを繰り返しお話ししていますが、結局は外を走ることに気持ちが行ってしまい、ドリルはおろそかになると言っていました。

それでも改めてこのドリルの大切さを感じていただき、「今度こそ真剣に取り組みます」と言ってくれました。

急がば回れではありませんが、結果を求めても近道などないのです。

自分の体を自分の思ったように動かす能力は、そう簡単に獲得できません。

だからそのための理論と実践出来るためのドリルを教えているのです。

そら君にはもうひと頑張りして欲しいと思います。

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Re: ごぶさたしております。
コメントありがとうございます。
何とかが付く程一生懸命学んでくれたこと、十分伝わっています。
厳しいことも言いましたが、こうやって少しずつでも変化を見出してくれていることが分かって安心しました。
色々と大変だと思いますが、夢を持ってこれからも頑張ってください。
遠隔地ですので、そう簡単にまた来てくださいとはいえません。
二日間学んでくれたことを基礎として、自分の体でどんどん試して、深めて行ってください。
また気づいたことがあればコメントしていただけれると嬉しいです。
本当に暑くなってきましたね、お互いに体を大事にして乗り切って行きましょう。
  • 2016-07-05│21:02 |
  • 西本 直 URL│
  • [edit]
ごぶさたしております。
西本先生ごぶさたしております。
19期生のIです!

毎日暑くジメジメした日が続きますね。
体調はいかがでしょうか?

西本塾後、背骨や伸筋を意識して、野球をしていくなかで、今までは腕の振りや、腰など部分的に意識していたのですが、伸筋や背中を使って動くことで部分を意識しなくても、腕は体の近くを通り、スムーズな動きができていることを実感しました。特に体で筋肉ではなく、骨の意識をもつことで今までとはまったく違った感覚で体を動かせています。

まだ、ゆっくりの動きでしか実感できず、すぐにいつものように屈筋がでてきてしまい、反省ばかりですが、先日の試合で、1度だけですが、体に力が入っていないのに強い打球が飛び、よろこびとともにもっともっと体のことを、深めていかなければいけないと思いました。

走りでは、まだまだぎこちないのですが、少しずつ、体が楽になっているような感覚はあるので、1日1日昨日よりも少しでも良くなれるように、ブログや、先日の動画をみて、継続的に続けていきたいと思います! 




そして、明日石川県に広島カープがきます。初めてカープの試合をみるのでとてもとても楽しみにしています!
チケットは中日側なのですが、カープ応援します!


西本塾以降、日々とても充実しています。
本当に参加させてもらい感謝しています!

深める会にもぜひ参加したいと思っているので、またよろしくお願いいたします!

これからどんどん暑くなりますが、暑さよりももっと熱い西本先生で、元気にお過ごし下さい!




  • 2016-07-05│18:15 |
  • 石川のIです URL│
  • [edit]

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プロフィール

Author:西本 直
1993年、Jリーグサンフレッチェ広島を皮切りに、社会人野球三菱重工広島・協和発酵・ヴィッセル神戸・川崎フロンターレ、そして広島カープ佐々岡真司投手など、プロアマ問わず競技レベルのスポーツ選手から一般の方まで、トレーニングやメンテナンスの指導を行ってきました。
その経験と知識の蓄積を「西本理論」としてまとめ、一人でも多くの方に実践していただくことが、これからの私の使命であると信じ、このブログから発信していきます。
私の理論はスポーツ選手のみを対象としたものではなく、ビジネスマンや家庭の主婦まで老若男女すべてに当てはまる不変のものです。
指導や講演のご依頼も受け付けています。
実名でツイッターも書いていますので、チェックしてみてください。
また、2013年9月9日にConditioning Studio 操をオープンしました。こちらもご覧ください。
また、遠隔地にお住まいの方を対象とした動き分析とアドバイスを行っています。
詳細は「スタジオ操」のホームページ内の「遠隔サポート」をご覧ください。

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