痛みとどう向き合うか、意識の違いを超えて。


私が日々行う施術行為、気持ち良さだけを求める慰安的な行為を期待している方は基本的に受け付けていません。

そうは言いながら、実際に施術を受けると、途中あまりの心地良さに眠ってしまう人もいます。

健康管理を目的に定期的に通ってきてくれる人の中には、その心地良さを求めてという部分があることは否定しません。

そういう方々も、最初は体に問題を抱え、なんとかその痛みから解放されたいというのが来所の目的でした。

それが何回かの施術で改善していくうちに、本当の意味での自分の体と対話するという感覚に目覚め、当初抱えていた痛みをもう二度と繰り返したくないという思いから、定期的な施術を希望してくれます。

本来私は、どんな痛みを抱えてこようと、3回で改善させることを目標としています。

誤解のないように言っておきますが、それですべてが解決する訳ではありません。

人間の体は機械ではありませんから、壊れている箇所を探して、部品を交換したらそれで事足りるという訳にはいきません。

逆に言えば、きちんと機能するように整えておけば、あとは時間が解決すると思っています。

一刻も早くそれぞれの痛みから解放されたいのは分かりますが、そういう訳にはいかないのです。

痛いという部分を私が蹴っ飛ばしたとか、どこかにぶつけたとかいうはっきりした原因があれば別ですが、ほとんどの場合はそれぞれの日常生活の中で自分の体をどう使っているかということに対する、体からの評価、通知表のようなものです。

それを省みることなくして、他人事のように体の痛みを訴え、改善させろと言われてもできるはずがありません。

人間は勝手なもので、普段とくに問題を抱えていない時には、ほとんど自分の体と向き合おうとしていません。

まさに自分の所有物、どう使おうと自分の勝手で、そのどこが悪いのかという態度です。

それがひとたび問題を抱えると、自分の責任などと考える人はなく、なぜ自分の体はこうなってしまったのかと、とにかく治せ痛みを何とかしろと、まさに人任せで、医療機関や私のような人間のところを渡り歩くのです。

私はそんな人たちの体が可哀想でなりません。

縁あって私のところに来てくれたのですから、なんとかしてあげたい、さりとて体は改善できても、最終的にはその人の頭の中、考え方が変わらなければ、せっかく折り合いがついて動いてくれるようになった体が、また同じ目に遭わされ酷使されることを繰り返すことは目に見えています。

だから私は、頭が悪い人は治らないと言っているのです。

3回を目標の1回目は、まずその人の体の状態を把握することです。

本人の訴える痛みの場所や、医療機関で付けられた病名ではなく、連なりあって動いているはずの丸ごと一つの体の、どこに連動を阻害している問題があるのかを探るのです。

そして、それが本当に器質的に問題があるのか、それともそう思い込んでしまっているために痛みを感じたり動きが悪かったりしているのかを、私だけではなく本人の意識も含めて問題点を洗い出し、改善が可能な状況なのかを確認しなければなりません。

それさえできれば、相手がそれを分かるか分からないかは別として、私の中では間隔を空けて後の2回の施術で、体の自然治癒力が機能してくれるのを待ち、その人が生まれ持っている、本来の体に戻していく作業をするだけです。

痛いか痛くないかだけが施術の効果を判断する唯一の方法だと思っている方にとっては物足りないものかもしれませんが、痛みが改善する、体が治っていくというのはそういうことなのです。

3回が4回5回となることは、もちろんありますが、それは本人の感受性と、こちらの技術の問題です。

「もう来なくて結構です」という私の言葉に、怪訝な顔をされることもありますが、毎日施術したから早く良くなるとかいうことでもありませんので、とにかく私の施術で加えた刺激と、体の変化をしっかりリンクさせて、これから自分が体とどう向き合うかを考えて欲しいのです。

そうやって当初の痛みから解放され、私のことを信頼してくれた人たちが異口同音にいうのは、自分の周りに自分が抱えていた痛みとは別の箇所に問題を抱えている人がいるが、私のところでそれは改善されるのかという質問です。

自分は腰の痛みが楽になったが、首から手先にかけての痛みや痺れに悩まされている人には効果があるのかという意味の質問です。

そんな時に私が言うのは、「本人を診てもいないのに治りますとも治せませんとも言えませんが、どこにどんな問題があっても、改善する可能性はあると思いますよ」、と言うようにしています。

その方自身も、他の部分の痛みを改善したという方から紹介をされてここにきたことを既に忘れているというか、たとえ同じように腰の痛みを訴えていたとしても、まったく同じ症状はあり得ませんし、何より人間が違うのですから同じわけがありません。

それでも自分はこういうやり方でよくなったが、違う部分の痛みに対してはどういう施術をするのかという質問もされます。

「初めに言ったと思いますが、腰が痛いからと言って腰を触りましたか、膝が痛い人に対して膝ばかり触りましたか、私が治してあげたいのは、人間の体そのものであって、部分ではないと言いましたよね」、そういうことです。

操体法を学び始めてからすでに30年、自分なりに工夫も加えながらも、基本となるのはやはり体は丸ごと一つという橋本先生の言葉です。

結果が出ないとどうしても部分に気持ちが行ってしまい、そこにばかり時間をかけるような施術になってしまうこともありました。

体全体を整えるということが、本当に部分の痛みや動きを改善してくれるということに対して、最善の方法なのかと迷いが出たことも一度や二度ではありませんでした。

しかし、経験を積めば積むほど、そういう焦りが相手の体を本当の意味で診ることができない、「木を見て森を見ず」になっていることを思い知らされてきました。

土曜日に遠路来てくれた高校生の女の子は、1年前に体育祭のピラミッドの練習中に、5段のピラミッドが崩れ内転筋を痛め、いまだに歩行時に痛みを感じ、日常生活の支障をきたす状態だというのです。

医学的な画像診断では完治している、そう言われても痛いものは痛い、動きにくいものは動きにくい、それが人間です。

そのことを確認していたからこそ、私がお役にたてると信じ、遠路来ていただくことにしたのです。

定期的に通ってくれているYさんにそのことをお話しすると、例によって例のごとく「どうやって治すの」という言葉が返ってきました。

「いつもYさんに受けていただいている施術ですよ、どこがどう痛かろうと、治してあげなければならないのは、その人の体全部であって、かける時間配分は多少変わりますし、操法のパターンも変わりますが、やることは同じなのですよ」、というのが私の答えです。

自分にとっては有効な施術でも、他人のしかも違う部分の痛みに対してどう対応するのか、気になるのは当然だと思います。

しかし、どんな方が来ても、私はその人の体に丁寧に語りかけ、本来の動きを探って行くだけです。

この感覚だけは伝えきれない部分ですが、智志には肌で感じ、空気を感じさせることで、時間をかけて伝えて行ければと思っています。

私のようなやり方では、仕事としての効率は悪いかもしれませんが、人間の体と心を相手にしている立場として、最も大切にしなければならない部分で、それをないがしろにしてしまっては、ただの商売になってしまいます。

一人一人に真剣に向き合うことで、体に対する考え方を変えてくれる人が、一人でも多くなって欲しいと思います。

すべてを決めるのは、「体と対話する」という姿勢です。

そんな日々を過ごしていると、最近やたらと疲れを感じるようになった気がします。

智志と一緒に仕事をするようになってから、自分の頭の中だけで分かっていれば良かったことを、きちんと言葉にするというひと手間が加わりました。

それまでは、必要以上に説明してもどうせ分かってもらえないからと、基本的なところだけは説明しますが、あとは結果で勝負というスタンスになっていたように思います。

言葉にするという行為には、大きなエネルギーが必要です。

当然ですが一度発した言葉は取り消せません、政治家のように都合の悪いことは無かったことにしてくれという訳にはいかないのです。

真剣に体と心に向き合い、きちんと説明するということは本当に大変なことだと思います。

そのことで私の頭と体は総動員され、気がつけば自分の体にそれらが溜め込まれている、そんな状況になってしまっているようです。

あまり好きな言葉ではないのですが、私も少し切り替えるという感覚を持たなければならないのかもしれません。

熱戦の続くオリンピック放送を見ながら、一喜一憂することも良い意味でストレス解消になっています。

日本選手だけではなく、世界のトップアスリートから大きな刺激をもらおうと思っています。

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Re: 問い合わせ
こういう質問に関して、過去何度も記事の中で書いていますが、私に何か聞きたいのであれば、そのことについて自分がどう考えているのかをきちんと書いていただいたうえで、その内容に対して私がどう思うのかということなら、答える気にもなるかもしれませんが、一方的にどう思いますかという質問に対してはお応えする任にありませんので、もう一度はっきり書いておきます。
以降こういう形の質問があっても、返信はしませんのでご了承ください。
  • 2016-08-21│18:29 |
  • 西本 直 URL│
  • [edit]
問い合わせ
初めて、コメント致します。
操体法の源流になった正體術についてはどう、考えておられますか?

  • 2016-08-21│15:12 |
  • 鈴木 URL│
  • [edit]

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プロフィール

Author:西本 直
1993年、Jリーグサンフレッチェ広島を皮切りに、社会人野球三菱重工広島・協和発酵・ヴィッセル神戸・川崎フロンターレ、そして広島カープ佐々岡真司投手など、プロアマ問わず競技レベルのスポーツ選手から一般の方まで、トレーニングやメンテナンスの指導を行ってきました。
その経験と知識の蓄積を「西本理論」としてまとめ、一人でも多くの方に実践していただくことが、これからの私の使命であると信じ、このブログから発信していきます。
私の理論はスポーツ選手のみを対象としたものではなく、ビジネスマンや家庭の主婦まで老若男女すべてに当てはまる不変のものです。
指導や講演のご依頼も受け付けています。
実名でツイッターも書いていますので、チェックしてみてください。
また、2013年9月9日にConditioning Studio 操をオープンしました。
また、遠隔地にお住まいの方を対象とした動き分析とアドバイスを行っています。
詳細は「スタジオ操」のホームページ内の「遠隔サポート」をご覧ください。
「第25回西本塾」を11月18・19日の土日に開催を予定しています。
詳細はStudio操ホームページ内の「講習会情報」をご覧ください
尚、深める会も12月10日に予定しています。

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