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デュエルは体格や筋力ではない、武藤嘉紀選手に学ぶ体の使い方。

2018ロシアW杯の開幕が明日に迫り、普段あまりサッカーに興味のない人たちにとっても、なんとなくお祭り気分で、にわかサッカーファンとなって、サッカー談議に花を咲かせているはずのこの時期に、日本代表チームの監督更迭劇や、最近の国際試合での成績不振も重なり、4年前と比べても盛り上がりに欠ける大会前の雰囲気となってしまっています。

私自身、日本代表の試合をテレビ観戦しても、試合の内容自体にワクワク感がないというか、勝ち負けを通り越して試合自体を楽しいと感じられないというのが正直な感想となっていました。

私が得意としている人間の体の仕組みに沿った、効率的で効果的な体の使い方という観点から見ても、遺伝的な要素として体格や筋力に劣る我々日本人が、どうやって大きくて強い海外の選手に対抗するかという部分に、何の工夫も見られないことに不満を感じていました。

持って生まれた体が小さいというだけで、いわゆるフィジカルが弱いというレッテルを張られてしまっては、それ以上何をどう努力しても絶対に越えられない壁があると最初から認めてしまうことになってしまいます。

日本での活躍が認められ、海外のクラブへ移籍する選手が増えてきました。
私の選手の動きを見る視点からしても、この選手なら絶対に活躍してくれるだろうと、期待とともに確信をもってその後の動向をチェックしても、期待通りの活躍を見せてくれない例がたくさん見られます。

それがなぜなのかずっと考え、既に一つの結論を得ています。

そんないろいろな思いを込めて、西野新監督の元、最後の強化試合に臨む日本代表の選手たちの試合、昨夜のパラグアイ戦は最後のチャンスというか、もう後がない大事な試合でした。

相手のこの試合に臨むモチーベーションは別として、チームとして、また個々の選手の体の使い方という意味でも期待するところはありませんでした。

スイス戦のような放送の時間帯であれば、おそらくはリアルタイムで見ることもなかったと思います。

そんな中、なんとなくいつものような試合展開に、やはりだめかという気持ちで試合を見ていた私の目に飛び込んできたのが、前半27分過ぎに起こった武藤嘉紀選手のプレーでした。

この動画の中では3分25秒あたりからのシーンです。

派手なシュートシーンでもゴールをアシストしたパスを出したわけでもなく、ボールを受け前線に運び、クロスを上げるという、言ってみれば何でもないプレーで、特に気にしてみなければそれだけのことだったかもしれません。

しかし私はそのプレーを見た瞬間、久し振りに日本人の選手の動きに興奮しました、いつも私が言っている体格に劣る日本人が、大柄な海外の選手と渡り合うために必要な体の使い方が、短い時間の中に凝縮されていることがリアルタイムで伝わってきたからです。

そのプレーを追っていきます。
まず相手GKがセンターライン付近に大きくボールを蹴ります。
それに対応したのが6番の遠藤選手で、ヘディングでボールを前方に位置する武藤選手に返します。

このボールに対してどんな受け取り方をするのかと見ていると、普通なら胸トラップで前に落としてから次のプレーに移るのではという遠藤選手からのヘディングによる浮き球でしたが、武藤選手はボールの落ち際に体を左回りで90度回転させながら右足の甲の部分をボールに触らせ、弾ませることなくゴール方向に移動した左足の内側にあて、そのままドリブルでタッチライン沿いを駆け上がろうとしました、このプレーだけでも技術の高さを証明しています。

そこに相手15番の選手が左後方から体を寄せてきたことでバランスを崩し、ボールが足元から大きく離れてしまいます。
離れたボールに対して今度は左前方にいた相手DF4番が猛然とボールを追い、武藤選手より一瞬先に追いつき武藤選手とボールの間に体を入れ、良い姿勢を保ったままボールを保持したかのように見えました。

ところがここで4番の選手はなぜかバランスを崩してしまいます。

これは偶然ではなく、一歩遅れてボールに追いつけなかった武藤選手が、4番の選手の後方からその体の骨盤、それも大腿骨の大転子部分に、武藤選手の同じ部分を下からあてがうように体を寄せたことで、驚くほど簡単に4番の選手のバランスが崩れ状態が前につんのめってしまいました。

これが私の言う、『大転子の位置が勝負の分かれ道』と言い続けている理由なのです。

人間のバランスは左右の股間節、それも大腿骨の大転子部分であることはいくつかの実験のようなドリルを体験してみればだれにでも納得できることです。

体の大きい小さいは関係なく、この部分の位置関係で相手を制することが出来るのです。

4番がバランスを崩したその一瞬を逃さず、今度は武藤選手が4番とボールの間に体を入れてボールを保持してしまいます。
バランスを崩された4番は苦し紛れに左足を出してきましたが、そのまま転倒してしまいます。

武藤選手がボールを奪い返し、自分の体勢を右回りで反転させ前方にドリブルで進もうとしたところに、今度は先ほど後ろから押してきた15番の選手が追いついてきて、起き上った4番と15番で武藤選手を挟み込む形となりました。

そこで武藤選手は、後ろから追いかけてきた15番の右股関節部分に、自分の左大転子部分を下からあてがうようにぶつけることで、後方から勢いをつけてぶつかってきた15番の圧力に押されることなく体勢を維持し、2人を置き去りにして加速しゴ-ルラインまでドリブルで進んで右足でクロスを上げるところまでのシーンでした。

武藤選手は最初に15番の選手の後方から押された時には体勢を崩し姿勢が乱れましたが、その後の動きの中では常に骨盤が一定の角度を保ち、4番からボールを奪って反転する動作の際には、見事に骨盤から背骨がすっと伸びていました。
だからこそきれいなターンが可能となるのです。

最後の2人を置き去りにするシーンでも、骨盤の角度を維持しながら体全体を前に倒す、『重心の前方への落下』というエネルギーの使い方を見事に実践しています。

方や2人は、一瞬にして置いて行かれたことで、すぐに追わなければと体に力が入り、腰が落ち背中を丸めて力んだ状態で走り出したため、両足がその場に居着いた状態から強く地面を蹴ることで反力を得て体重を移動するという、非効率な体の使い方となってしまったことで、武藤選手についていけず、結果としてクロスを上げさせてしまいます。

いかがでしょうか、動画を何度も見て頂ければ、なるほどそういうことかと分かってもらえると思います。
体の使い方という概念から見ると、骨盤から背骨の角度、それも固定的な安定ではなく、しなやかさを持った連動、そして解剖学的な重心位置、そういう視点でプレーを見ると、これまでと違った見方ができると思います。

文字に書き起こしていくとまどろっこしいですが、これはほんの数秒間の出来事で、この体の使い方を知っているというレベルの選手では絶対に不可能なことです。

武藤選手がFC東京在籍時から、その姿勢の良さ動き出しのスムーズさに目を奪われ、その時点で日本で一番体の使い方がうまい選手だと思っていました。

それがドイツに渡り屈強な選手たちと渡り合う中で、持ち前の柔らかさが少し失われているように感じていました。
今回久し振りに、私の知っている武藤嘉紀選手の柔らかくしなやかな体の使い方を見せてくれました。

ドイツでのプレーで失いかけていたものを、思い出してくれたというか経験を積み慣れてきたということかもしれません。

日本選手の中でもそれほど大きな選手というわけではありませんし、ましてや今回の相手パラグアイの選手たちの胸板の厚さは日本選手の倍くらいはありそうな屈強な体の選手ばかりでした。

そんな選手たちを相手に肉体改造という名のもとに後天的に作った体が通用するはずがありません。
もちろんトレーニングが必要ないということではなく、武藤選手のようなポイントを押さえた体の使い方ができるようになるための体づくりは必要です。

それが私のいう『体づくりから動き作りへ』、という発想の転換でした。

骨盤の角度をしっかり保ち、骨盤と背骨をしなやかに連動させること、それを可能とするのが頑張らないように見えてしっかり仕事をしてくれている『伸筋』を使いこなせるように準備することです。

相手を大きさや筋力で圧倒するのではなく、股関節部分、大腿骨の大転子部分が重心位置で、お互いのその部分の位置関係で押し負けることなくバランスを保ち続けることができることなど、まずは知識としてしっかり頭で理解し、実際にやってみて体で納得することで、誰にでも使いこなせる武器となります。

さらにそれを可能とする条件が、顔の表情です。
歯を食いしばり力んでしまっては、伸筋を上手に使うことはできません、無駄に屈筋を使い体力を消耗するばかりです。

今回の武藤選手のプレーを、今すぐにでも代表選手スタッフ全員の前で説明させてもらい、実際に体験してくれれば、個人としてチームとしての戦力は2割くらいは上げられるのではと本気で考えています。

今は私の話を真剣に聞いてくれる人が対象ですが、当たり前のことを当たり前にできるように指導することで、近い将来、今回のように代表戦を見ながら、「いいね、いいね」を連発させてくれる選手を育成するお手伝いをさせてもらっています。

武藤選手の一つのプレーが私に勇気を与えてくれました。
本当は私ではなく、サッカーを愛する全ての人といった方が良いのかもしれません。
とくに体格に恵まれない育成年代の選手には、自分にもできるかもしれないと思ってほしいと思います。

武藤選手は180センチ近い身長ですが、説明したとおり大転子の位置は低い方が相手を制することがしやすいので、身長もハンデとはなりません。

海外の選手の中には、160センチ台でも大柄な選手に負けない強さを見せる選手はたくさんいます、その秘密がここにあるのです。

予選リーグ3試合、大方の予想は厳しいものですが、それぞれがすばらしい能力を持っているからこそ選ばれた選手たちだと思います。
自分の力を伸び伸びと発揮して、良い意味で期待を裏切る活躍を見せてほしいと思います。

武藤選手には是非その笑顔を絶やさず、しなやかな身のこなしでゴールを奪ってほしいと思います。
応援しています!

最後に、最近親しい人からこんな言葉をもらいました。
「私という人間に出合うまでは、似たようなことを言う人間に対し、自分にはない発想を持った凄い人だと思わされていたかもしれないが、本物に出合った時、自分の価値判断の基準が変わり、正しくものを見ることができるようになるから、私は私のままで、何時までも何故どうしてという真理をを追い求めてください」、というものでした。
大丈夫です、誰かの何かを気にしている暇があったら、私を信頼してくれる誰かのために頑張り続けますから!

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Comment

Re: デュエルは体格や筋力ではない、武藤嘉紀選手に学ぶ体の使い方。
コメントありがとうございます。
技術の劣化、一時的なスランプなどという現象は、自分のやっていることを客観的に把握出来ていないことが原因だと考えます。
よく言えば勝手に体が動いている、悪く言えば何も考えていないから、自分の体の動きや使い方を言語化できず、出来なくなった時に戻すべき本質が分からないのです。
私は技術という言葉を「自らが意図(企図)した筋肉の収縮活動を反復継続して行うことのできる能力」と定義しています。
何をしようとしているのか、何がしたいのか明確にイメージ出来なければ、それに必要な筋肉の活動を想起することなどできるはずがありません。
私がよく使う、頭が悪い選手はダメと言う言い方も、綺麗な言葉ではありませんが、間違ってはいないと思います。
年齢や体力の衰え以上に、自分の体を自分の思ったようにコントロールする能力こそ必要だと思います。
武藤選手にはそれを感じています。
  • 2018-06-15│21:10 |
  • 西本直 URL│
  • [edit]
No title
このブログを拝見しているせいもあり、日本代表の中で武藤選手が突出して体の使い方が巧いという印象を抱きます。
武藤選手は、お尻の使い方が巧いなと、僕のような人間の目には映り、また、背中の引っ張り上げ方もいいなと思います。手が当たったと判断されて結局ファウルを取られてしまったものの、「ああ、巧い体の入れ方・ボールの奪い方するなぁ。そんで、倒れないなぁ」というプレーがありました。
昔は本田選手も巧かったと思うんですけどね…体の使い方って、ブランクが出来たくらいで劣化してしまうものなのでしょうか。
  • 2018-06-15│13:44 |
  • たけ URL│
  • [edit]
Re: デュエルは体格や筋力ではない、武藤嘉紀選手に学ぶ体の使い方。
コメントありがとうございます。
体格差に劣る日本人という言い方がされますが、それをマイナス要素と見てしまうこと自体が違うと思います。
確かに背中をうまく使うという意味で言えば、日本人は上手くはないと思います。
その辺りの理屈をきちんと理解して改善策を講じれば、生まれつき出来ているという外国の選手たちにはない、意識して獲得した体の使い方という武器が得られると信じ、指導しています。
私のような人間が、今回のような記事を書くと、経験者とくにトップレベルにいる選手や指導者からは、ただのこ理屈だと言われることも多いですが、それこそ固定概念から離れられない進歩のない考え方だと思います。
元選手の立場で、私の考え方にも理があることを認めて頂き嬉しく思います。
  • 2018-06-14│09:18 |
  • 西本直 URL│
  • [edit]
身体の使い方
初めまして。
ツイッターからきました。
身体の使い方を見れない限り、成長はないなと思い書き込みます。
私はブラジルでの選手経験があり、なんで選手としてのキャリアが続かなかったのか、答えを探す日々ですが、たどり着くのが身体の使い方です。
専門的な用語は不勉強ですが、使う筋肉とその質に差があり、良くフィジカルが云々とありますが、それは、背の大小ではないと思っています。
代表戦をチラ見しますが、見るのは選手の表情と身体の使い方。武藤選手のあの身体の当て方を見たときに、嬉しく思うと同時に、あれができないと世界に勝てないんだよなと。実際に勝てませんでしたし…。
ただ、あれを子供達に伝えることができる人間が増えたらスポーツ振興が進み、豊かな国になるなと思います。
なので、発信して下さい。私も理解を深めます。
少子化がなんだっていうけど、資源は生まれていて、その質を高める人の存在は、生き残るための鍵です!

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プロフィール

Author:西本 直
1993年、Jリーグサンフレッチェ広島を皮切りに、社会人野球三菱重工広島・協和発酵・ヴィッセル神戸・川崎フロンターレ、そして広島カープ佐々岡真司投手など、プロアマ問わず競技レベルのスポーツ選手から一般の方まで、トレーニングやメンテナンスの指導を行ってきました。
その経験と知識の蓄積を「西本理論」としてまとめ、一人でも多くの方に実践していただくことが、これからの私の使命であると信じ、このブログから発信していきます。
私の理論はスポーツ選手のみを対象としたものではなく、ビジネスマンや家庭の主婦まで老若男女すべてに当てはまる不変のものです。
指導や講演のご依頼も受け付けています。
実名でツイッターも書いていますので、チェックしてみてください。
2013年9月9日にConditioning Studio 操をオープンしました。
また、遠隔地にお住まいの方を対象とした動き分析とアドバイスを行っています。
詳細は「スタジオ操」のホームページ内の「遠隔サポート」をご覧ください。
今年は「西本塾」3月10・11日と9月8・9日に、「深める会」を4月8日と10月7日に、そして「走り方錬成会」を12月29日に予定しています。
詳細はStudio操ホームページ内の「講習会情報」をご覧ください.
「1回5分体が喜ぶ健康術」はアマゾンで在庫切れのことが多く、購入希望の方にはご迷惑をおかけしています。
出版元からの購入は可能ですので、ガリバープロダクツ(代)082-240-0768までお問い合わせください。

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