ボールを投げるための連動動作

私はこれまで様々なスポーツ選手の、トレーニングやコンディショニングを担当してきましたが、私自身は根っからの野球小僧です。
です、というのは、今でもそうだという意味です。

今の自分があるのも、やせっぽっちで技術も体力もレベルに達しなかった自分が、どういう努力をすれば、人並み以上とは言わないまでも、人並みな野球人生を送れたのかということを考えることがライフワークのようになってしまったからに他なりません。

そうでなかったからこそ、今その知識と経験を積んで、せめて中学生の頃、近所にこんなおじさんがいたら、いろんなことを教えてもらえたのにな、という存在になるために、頑張ってきたと言っても過言ではないのです。

事実数年前には、本気で甲子園を目指す高校に進みたいという中学二年生を、卒業まで指導して送り出したこともあります。

トレーニングの指導にしても、体のケアにしても、私と他の人で何が違うのかと思われるでしょう。

答えは簡単です、気持ちの入り方が違うだけです。

もちろん仕事として行ってはいますが、自分の息子や親類の子供を見るように、単なる仕事としての接し方ができないのです。

それが今風ではなく厳しすぎる指導と取られたり、あいさつや言葉遣いにまで口を出してしまうため、仕事の範疇を超えていると言われることもあります。

ケガのケアもトレーニングや体の使い方の指導はもちろんします、でも本当にやらなければならないのは、人間としての最低限の礼儀だったり、言葉遣いだったりがきちんとできる人間に成れるよう導いてあげることで、それができなければ、せっかく親からもらった天賦の才も、努力の結果勝ち取ったプロスポーツ選手という称号も、薄い紙きれのようなものになってしまいます。

選手でなくなってからの人生の方が、長いことは誰にだってわかっているのですから。

昭和世代の愚痴はこれくらいにして、「田中投手の直球の切れの秘密」の話に戻ります。

ボールを投げるということと、放るということはまったく別の運動です。


スタジオ操の北側には、大きな公園が整備されていて、休日には小さな子供を連れた家族連れで賑わっています。

その人たちの中には、若い夫婦どうしや子供相手に、キャッチボールをしている姿が見られます。

機会があったらそういう人たちの、その腕の使い方をじっくり見てください。

ボールが手の指先から離れる瞬間、いやもっと前の段階から、ほとんどの人は手のひらが投げる相手の方を向いてしまっています。
ご自分でやってみてください、肘を曲げ手のひらを相手の方に向けたまま顔の横において、肘を軸にして肘から掌がお辞儀をするようにボールを放りだしていませんか。

え、これでいいんじゃないの、と思われた方は、野球でいうところのボールを投げる動作にはなっていません。

これはある意味仕方がないことです、我々一般人が日常で50メートルも先の目標に向かって、山なりではなく糸を引くような勢いのあるボールを、しかも正確なコントロールで投げる必要はまったくないのですから。

今あえて50メートルと書いたのは、プロ野球の選手でも近い距離であれば、先ほど書いたような投げ方でも用が足りるので、そういう投げ方で投げている選手も見られます。

私の三男が小学生の時、学校のソフトボールのチームに入っていた時、全国的に名の知れた有名私立高校の野球部OBという、誰かのおじいちゃんが指導に来ていて、私の息子にまさに手のひらを前向きにした投げ方を指導するのです。

息子にはこれから説明する正しい投げ方をきちんと教えてあって、完全ではないにしても他の子供とは明らかに違う、伸びのある回転するボールを投げられるようになっていたので、その指導に子供ながらあきれてやめたくなったとまで言いだしたのです。

私が指導していた、高校や大学で活躍し、選ばれて社会人野球の選手となった彼らでも、この投げ方が最初からできている選手はほぼ皆無です。

リリースの直前まで、手のひらは目標方向に向かって右投げの選手であれば、直角に左を向いていなければなりません。

ちょうど空手チョップをするときの感じです。

みなさん、ハ、という顔をして、それでどうやって前にボールを投げるんだと言います。

ではその場に立って、右手を真っ直ぐ耳の横に高く上げて、手のひらを内側に向け小指を前に向けてください。

そして目をつぶって、何も考えずに手を下してください、意図して下すというよりも腕の重さを支えることをやめて落下させるという感覚です。

どうでしょう、内側に向いていた手のひらはそのままでしたか、力を抜いて落下させた人の手のひらは、90度回転して自分の太腿を叩いたはずです。

これが人間が正しくボールを投げる時の関節の連動です。

この動きを全身で行い、あくまでも肩甲骨から先の腕は振るのではなく、振ってもらっているという感覚になってほしいのです。

これによってボールが、振りだされた腕の先にある指先が、体から一番遠いところで最後に内転し、そのひねりのスナップによって回転が与えられるという訳です。

スナップはお辞儀ではありません、回転捻りです。

この結果いわゆる「球持ちがいい」という状態になります。

以前佐々岡投手が、カープの寮に併設された雨天練習場の中で、若手の投手と50メートルくらいの軽い遠投をするシーンを見ました。

佐々岡投手は勢いをつけず、ゆったりとその場で足を上げ、そのまますぐそこに投げるのかと思うほど力感のない流れるような動きでボールを投げ、そのボールは山なりではなく、ほとんど指を離れた高さのまま糸を引くように、相手のグラブを叩くのです。

ところが相手をしていた投手は、同じような雰囲気で動き出すのですが、そのまま投げてもボールが届かないのです。

当然素人ではありませんから、佐々岡投手に負けじと、同じ軌道を通るボールを投げるために、動作の途中から力が入ったり、柔らかい動きで届かせようとすれば、山なりのボールになったりして、同じレベルの選手には到底見えないのです。

微妙な違いですが、クルーンと藤川の例でも書いた通り、ボールに対する回転の与え方が違うのです

田中投手はそれに気付いたようでした。

寮や宿舎のベッドの上で横になったまま、顔の前にボールを構え天井に向かって投げ上げる動作を繰り返すシーンをテレビで見ました。

私も子供の頃、いやというほど練習しましたが、なかなか続けて同じ方向へ投げることができず、高さも揃わずで、おかしいなと思いながら練習したものでした。

それは単純に手のひらの使い方が間違っていたからです。

手のひらを天井に向け、うちわで扇ぐように屈曲運動をしていました。

それが正しいと信じてです、そうやって練習しなさいと教えられました。

まったく違っていました。

まずは肘を曲げ、肘と手の小指側を天井に向け、肩甲骨から一斉に天井方向に伸ばしていくのです。

ベッドから右の肩甲骨が浮いてしまうくらいしっかりと振りだします、慣れてくれば本当に簡単に何回でも続けることができます。

バスケットのフリースローのイメージです。

この肩甲骨から肩関節、そして肘関節から手首の関節、さらに指先の関節まで、ほぼ一瞬の出来事ですがうまく連動してくれることが、回転のいいスピードボールを投げる秘訣なのです。

他の体の使い方はこのブログでも以前に説明してあります。

どうでしょうか、プロ野球の中継を見る際は、是非この一連の連動を確認してください。

良い投手、肩が良いと言われる野手は、みんなこうやって投げています、もちろんあのイチロー選手は、そのお手本のような体の使い方をしています。
だから故障もしないのです。

ただ本人は、いまだに掌が前を向いていると思っている選手がいるのも事実ですから、困ったものです。

ダーツ然り、バレーボールのアタック然り、テニスのサーブ然り、肘を肩より上にあげて前に振りだすためには、みんなこういう使い方になるのです。

理屈ばっかりとよく言われますが、理屈は現象を文字や言葉に置き換える作業であって、理屈が先ではありません。

逆に本当は自分もそうやってできているのに、それを認めずトンチンカンナことを言う、経験者の人たちこそ困ったものなのです。
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Comment

おはようございます。
朝からブログの通り体を動かしてみたら「手の振り」実際やってみてびっくりしちゃいました。
人は、自ずと最適なフォームを知っているんですね。小さい頃から遠投が苦手だったのも、無理な投げ方だったのかもと思います。
今度ボール投げて見ます!
  • 2013-10-02│07:30 |
  • 大吉 URL│
  • [edit]

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プロフィール

Author:西本 直
1993年、Jリーグサンフレッチェ広島を皮切りに、社会人野球三菱重工広島・協和発酵・ヴィッセル神戸・川崎フロンターレ、そして広島カープ佐々岡真司投手など、プロアマ問わず競技レベルのスポーツ選手から一般の方まで、トレーニングやメンテナンスの指導を行ってきました。
その経験と知識の蓄積を「西本理論」としてまとめ、一人でも多くの方に実践していただくことが、これからの私の使命であると信じ、このブログから発信していきます。
私の理論はスポーツ選手のみを対象としたものではなく、ビジネスマンや家庭の主婦まで老若男女すべてに当てはまる不変のものです。
指導や講演のご依頼も受け付けています。
実名でツイッターも書いていますので、チェックしてみてください。
また、2013年9月9日にConditioning Studio 操をオープンしました。こちらもご覧ください。
また、遠隔地にお住まいの方を対象とした動き分析とアドバイスを行っています。
詳細は「スタジオ操」のホームページ内の「遠隔サポート」をご覧ください。

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